第35話心配

 

「…………フラン。君さ、隠れていなくて大丈夫なのかい?」


 ゴールド枢機卿が呆れた顔で言います。


「問題ありませんわ。私だとバレないように変装してますもの」


 この完璧な変装なら誰も私だとは思わないでしょう。まあ、この国で私の顔を知る者はもういないはず。全員、土の中だもの。バレる心配はありません。


「いや、問題ありまくりだよ。そもそも何でフランまでこの国にいるの?ロベール王国は君にとって鬼門だよね?」


「私には可愛い姪を娶ろうとする国の実態をこの目で確認する義務があります」


「どんな義務だよ。それ」

 

「それに、この国の王族が再び愚かな真似をしないとも限りませんでしょう」

 

「……だからってねぇ」

 

「用心に越したことはありません。猊下も私と同じ事を考えているから此処にいるのでは?」

 

「僕は一応、極秘任務中なんだ。だから、表向きは銀行家の息子って設定でこの国に来ているんだよ」

 

「そうなんですか?」

 

「そうだよ。そもそも、僕は元々だからね。表立って行動することはないんだ」


 そうでした。

 ゴールド枢機卿は見た目が幼児。

 流石に幼児の枢機卿を表に出す訳にはいかないと神殿側が配慮したと伺った事があります。

 

「ですが、今回は神託を預かっているのでしょ?」

 

「うん。だから特別にね。いつものようにブロンズ君が影武者として動いてる」

 

「ブロンズ神官も大変ですね。まあ、あの方ならバレる心配はないと思いますが」

 

「そうだね。彼は優秀だから。安心して任せていられる。イリスの事もちゃんとフォローしてくれてるしね」


「そのようですね」


 私はイリス達の方向に目をやりました。

 夜会でイリスの横にいるブロンズ神官は立派に保護者の役割を果たしています。ああ、ここでは彼が『ゴールド枢機卿猊下』。枢機卿という後ろ盾を持つイリスを蔑ろにする者はいません。まあ、今のところは。


「まだ慣れない事も多いけど、イリスは上手くやってるみたいだ」


「そうなんですか?」

 

「うん。イリスの希望で学園に通っているんだけど、とても楽しそうにしているよ。友達もできたようだしね」


 イリスは持ち前の明るさと愛らしさで早くも令嬢達の信頼を勝ち得ている様子。人懐っこく笑うイリスの周りには常に誰かいるようです。


「今の処は何も起きてないからね。平和なものさ」


 ニヤリと笑うゴールド枢機卿は見た目が幼児なせいか、とても可愛らしい。ただし目つきは子供ではなく大人です。それ、他の人の前ではしないでください。おかしな子供だと思われますから。



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