第34話閑話3

「ていうかさ、僕も不本意なんだよね」


「御自分で言っておいてなんですか?」


「だってさ、フラン。これからの依頼なんだ。はっきり言って迷惑なんだよね。でも無視するわけにはいかないし」


 クッキーを頬張るゴールド枢機卿の姿はまるっきり幼児だ。愛らしい幼児の姿に騙される人間はどれだけいる事だろうか。大半は騙される。


「それにしても何故、うちの国なんですか? 他国の王女でも構わないでしょう。枢機卿団と親しい王家や国はいくらでもいるじゃないですか」

 

「そんなこと僕に聞かれても困っちゃうよ。とにかく、今回は枢機卿団だけじゃないようだ」


「どういうことです?」

 

「なんかさ、が降りたらしいんだよね」

 

「神託って……まさか!?」

 

「そう、数年ぶりの神託だって枢機卿団の神殿は大騒ぎだ。それで、その神託では勇者召喚を行うようにっていうお告げがあったそうなんだ」

 

「勇者?」

 

「そ!なんでも封印していた魔王が復活するとかなんとか言ってたんだよね」

 

「魔王……御伽噺や神話の話じゃなかったんですね」

 

「そうだよ?昔は精霊界とも繋がってたからね。今と違って神秘の力がそこらかしこにあったんだよ。まぁ、今はもうほとんど消えちゃって一部の人間しかその力は与えられない。与える側の神だって自分の気に入った人間しか力を与えなくなったしね」

 

「それで、どうしてうちの国に?」

 

「あ~それはさ、ほら。この国って元ロベール王国の地だった訳でしょ?それでロベール王国と仲直りする機会だってことで、聖王国の王女とロベール王国の王子が婚姻すればいいんじゃないかってさ。勇者が召喚される国ってロベール王国だから」

 

「なんであの国が?」

 

「さぁ?神託のお告げだから仕方ないよ。それにアレから百年近く経っているし。ここで名誉回復して勇者召喚までには国際社会での地位をあげときたいって狙いが枢機卿団にあるみたいだよ。ロベール王国だってそれは同じだ。悪いイメージをなんとか払拭したいんだよ」

 

「それで、うちの国が選ばれたって訳ですか」

 

「そういうこと。あと、もう一つ理由があるけどね」

 

「何です?」

 

「これは僕の個人的な見解なんだけどさ。勇者をロベール王国に取り込まれないようにする為だと思うんだよね」

 

「それは……」


「もしも、だけど。勇者がこの世界に留まった場合、どこの国に所属するかで揉めると思う。枢機卿団は勇者とロベール王国の王女が婚姻する危険を避けたい狙いがある」


 ゴールド枢機卿、あなたの言葉に大聖女は苦虫を嚙み潰したような表情になっています。もう少しオブラートに仰ってください。それと肝心な事を言ってません。

 


「ご安心ください、フラン様。勇者召喚は今から約百年後です。要はそれまでにロベール王国の悪名を何とかすれば宜しいのです」


「「何言ってんの?百年何てあっという間だよ」」


 二人の枢機卿が同時に言った。

 あなた方の時間軸と普通の人間の時間軸を一緒にしてはいけません。

 ここは枢機卿団ではないんです。二人以外は百年以上生きている人間はいないと自覚してください。

 

 

 

 本来、ゴールド枢機卿と大聖女の関わりは数年間のものだった。幻術を施されている間だけ。依頼が終了すればそれまでの関係。だから枢機卿が依頼後、聖王国に顔をだす必要などない。けれど、ゴールド枢機卿は、その後も定期的にこの国を訪れていた。

 その理由は大聖女とその家族を気に入っていたからだろう。大聖女と親しくするのは枢機卿団にとっても良い事だと判断されているのでゴールド枢機卿の聖王国滞在は今のところ黙認されている。今回の神託を大聖女に伝える役目をゴールド枢機卿が請け負ったのも個人的に親しいからだ。その神託が大聖女を始めとする聖王国上層部に与えた衝撃はかなりのもの。嘗てのロベール王国にされた仕打ちを忘れていない。大聖女は自分の二の舞になるのではないかと心配しているし、王族は未だにロベール王国を許してはいない。





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