第8話学園長視点1
「ウルフ・グールモン。何故、今日呼ばれたか分かるか?私は五日前に学園長室に来るように伝えたはずだが?」
「申し訳ありません。生徒会に参加していまして、すっかり失念していました」
「……生徒会か。君は正式メンバーではない筈だが?」
「生徒会長より『補佐』を任命されております」
「そうだった。王太子殿下の
この男は元々、この学園に通う事が許されない平民だ。
だが、モンティーヌ公爵令嬢の護衛という事で通う事を許された生徒である。モンティーヌ公爵令嬢が病気で休学した時、何故か主人についていかず学園に居残った。
その後、王太子殿下に気に入られ『生徒会補佐』という役割を与えられた。
学園としては対応に困る生徒だった。
ただ、モンティーヌ公爵家は何時病が回復するか分からない令嬢のために彼を学園に残す選択をした。だからこそ彼はこの場所に居られたのだ。
だがそれももう終わりだ。
彼の主人は亡くなった。
もうこの学園に戻ってくることは無い。
ならば、彼の存在理由は消滅している。
「君の退学処分が決まった。今月いっぱいで学園を立ち去るように」
「え?」
ポカンとした彼は自分の存在意義を忘れているようだ。
それとも何か?自分が貴族になったと勘違いしているのか?
「君が王立学園に来た理由を忘れないでもらいたい。モンティーヌ公爵令嬢の護衛として入学している身だ。護衛対象がいなくなった今、君はその任務を失った。つまりだ、ここにいる資格がなくなったのだ」
私の言葉が予想外だったのだろう。
目を丸くしている。
「え?いや!いやいや……ちょっと待って下さい!何ですかそれは!?いきなり、そんな事を言われても!」
「いきなりはない。私は君に説明をした。半年前に。聞いていなかったのか?」
「え?」
「生徒会に入ったばかりの頃だ。一度、学園長室に来て公爵令嬢の病気の事を告げただろう」
「病気……?」
「そうだ。半年前から令嬢は休学して領地で静養なさっていた」
「え?……静養?そんなばかな……」
ブツブツと小声で、「学園にいなかった?」「ならエバを虐めたのは誰だ?」「どうなっている?」「そういえばあの女を見掛けていない」といった意味のない言葉を繰り返していた。
今頃いない事に気付いたのか?
説明もしただろうに。
私が呆れていると、彼が急に顔を上げた。
「あ、あの女は!?」
「あの女?」
「フランソワーズの事です!」
公爵令嬢を呼び捨てとは……。
何を考えているのか。
主人を呼び捨てにするとは。
「あの悪女は納得してるんですか!?学園長の話では俺はあの女の護衛で入学したということになってます!なら!あいつが戻って来た時には俺という存在は必要不可欠でしょう」
意味の分からない事を言い出した。
先ほどから何を言っているんだ。彼は人の言葉を理解できていないのか?
それともまさか……。
「どうなんですか?学園長!!」
まさか、彼はモンティーヌ公爵令嬢が生きていると思っているのか?
ああ、だがそれなら納得だ。だから自分にはまだ価値があると考えているわけだな。そんな筈がないだろう。馬鹿な男だ。
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