第9話学園長視点2
「残念ながら彼女は死んだよ」
「なっ!?」
「学園祭の当日に息を引き取られた」
「……嘘だ」
「本当だ」
「そんなバカな話は信じられない!!」
「君が信じようが信じまいが事実は変わらない。モンティーヌ公爵令嬢が亡くなった事により、君は護衛の任務を失ったのだ」
「ありえない!」
「いい加減にしなさい。君は自分の立場を理解しておらんようだ。先程からモンティーヌ公爵令嬢を『あの女』などと呼んで侮辱しているが、それは公爵家に対する反逆行為だと理解しているかね?」
「違う!俺は悪く無い!悪いのは全てあの女のせいなんだ!!」
「……」
「全部、あいつが悪いんだ!なのに勝手に死ぬなんておかしいじゃないか!!それに俺には学園を辞めるつもりはないぞ。まだ卒業まで二年以上あるんだ。それまでは学園に在籍させて貰う」
「…………」
「大体、こんな時期に退学処分とか横暴すぎる!」
「君の言い分は分かった。だが、これは決定事項なのだ。今月中に荷物をまとめて立ち去りたまえ」
「ふざけるな!なんで俺がそんなことをしなくちゃいけないんだ!」
「それは君が平民階級の出身だからだ」
「なっ!?俺が平民だからって差別する気か!!?」
「差別ではない。
「同じだ!!」
まったく意味が違うだろう。
どうしたら「同じ」だと考えられるのだ?
いや、そもそも彼がここにいられない理由は他にもある。基本的な問題。金という問題を解決しなければならない。
「なら、君はこの学園の学費を払えるか?」
「が、がくひ?」
「そうだ。この学園は王侯貴族の子弟達の為に造られた最高学府だ。彼らに合った最高の教育を受ける代わりに学費も高額になる。君の場合は公爵家の計らいで成り立っていた。モンティーヌ公爵令嬢を護衛するという名目で、彼女と同じクラス、同じ科目を取り、守るという役目が。だからこそ公爵家が君の入学金も学費も全て支払っていたんだ」
「な、なら……」
「だが、護衛対象がいないのなら話は別だ。君をこの学園に在籍させておく価値を公爵家は認めていない。当然だな。主人が今どんな状態なのかを把握するどころか、いない事すら今の今まで気付かない有り様だ。主人にあらぬ噂を流されても庇うどころか放置。いや、一緒になって悪評をばら撒く始末だ。公爵家の任務を途中放棄したと見做されてもおかしくない所行だ。本来ならば即刻クビにしても文句が言えない。それくらい君は役立たずだった」
「そ、んな」
「しかし、モンティーヌ公爵は学園に多額の寄付をしている。そのおかげで君が在籍できている事もまた事実だ。だからこそ私は慈悲を与えたのだ。今月末でこの学園を去るように」
「嫌だ……そんな……そんなこと」
ぐだぐだと子供のようないい訳を並べて居座ろうとする彼を追い出し、私は溜息をつく。
やれやれ、やっと静かになった。
彼は自分の主が誰であるのか理解していない。自覚が乏しいのかもしれないが、それでは護衛は無理だな。恐らく、公爵家は彼を切り捨てるだろう。今までの行動を考えれば遅いくらいだ。まぁ良い。
これで厄介者たちがいなくなる。
学園に平穏が戻ってくるだろう。
予想通りというか、ウルフ・グールモンは公爵家から解雇された。
何故、あのような輩を雇っていたのかと疑問だったがどうやら代々仕えている使用人の息子だったようだ。納得だ。今回の件は彼の一方的な職務放棄と見做され、これまでにかかった学園の費用諸々を公爵家に返還するよう求められた。
それはそうだ。
公爵家に代々仕える護衛の家だが、学園の費用を返せるほどの財産は築いていない。莫大な借金を背負ったようだ。
ウルフ・グールモンだが、彼は腕っぷしが強い。剣だって騎士に負けない腕前だ。
普通なら他の貴族に出仕することも可能だったろう。が、彼の所業はすでに社交界に知れ渡っていたため雇う家など出てこなかった。
雇い主をいつ裏切るかわからない者を護衛にはできない。
他に特技分野があれば別だったが、彼は生憎、そうではなかった。
最終的に金払いのいい傭兵ギルドに所属し、激戦区に送り込まれたらしい。
そして戦死した。
まぁ、妥当な末路と言える。
私としては彼に同情するつもりは無い。
だが、彼が死んだ事で騎士や護衛兵を目指す者達の反面教師にはなった。
彼らはウルフ・グールモンの二の舞にならないよう、忠義の心を胸に刻み日々鍛錬に励むようになったのだ。
結果的には良かったと言えなくもなかった。
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