転生したけどもふもふに囲まれて幸せに暮らしています。〜貴族少女の癒し系スローライフ〜

Prologue

私は如月菖蒲きさらぎあやめ

何処にでもいる至って普通の女子高生…と言いたいところだが残念なことにそうでもないらしく、今日も独り、ベッドで昏々と眠り続けている。

腕に刺された沢山の点滴の針から私が生きていく為に必要な養分や水分、また呼吸を確保するための酸素マスクも点滴とともに吊るされている。

心臓へ埋め込まれたペースメーカーのコードが長く伸び、ぴ、ぴ、と規則的な音を立てて心電図を記録し続けている。

まるで枯れ木のような細く伸びた腕を見遣ると点滴やら輸血やらの他にも検査のために採取した注射痕、針跡が大量に付いており古傷からつい最近できたであろう傷まで常人には耐えられないほどの生々しい跡が無数にある。

時折漏れ出る嗚咽音と規則的な電子音のみの静寂な空間病室で一人、孤独感を抱えながら何時も通りの味気のない生活を送っているだけの生かされた存在。

自分の意志とは反して、心臓は鼓動を続け呼吸が確保されているだけの唯の人形。

それが私というもの。

先天性の疾患、世界にも未だ数例のみ報告されている不治の病。

栄養が取れず、日に日に内蔵が衰え、最後は寝たきりになり亡くなってしまう。

私はそんな恐ろしい病気にかかっている数少ない人間であり、今では末期に差し掛かってきている。

もう自力で起き上がる筋肉もなく、自分で食べ物を摂取することが出来ないので、前述した通り点滴で私の生命機能を維持するためだけの栄養を得ている。

することもなく、寝ようとも身体全身を絶えず襲う激痛により満足に夢を見ることさえも不可能。

病室の天井をぼー、と眺めながら自分の余命を数えることでしか暇を潰せないような悲しい人生。

時折現れるお見舞客にもお話しようにも、口についた酸素マスクなしでは息ができず窒息してしまうため世間話すら出来ない。

希少な症例だから特効薬なんて見つかる訳もなく、逆に後世のために各国の研究者達が私の血液を採取したり、はいかいいえで答えられる質問をしてそれを録画されて日夜薬の研究・開発に勤しまれていた。

だから私の腕には自傷行為のように数多の注射痕が花を咲かせているのだ。

そんな毎日を送っていると段々自分の死を待ち望むようになってきてしまった。

考えても見てほしい。

何も出来ず、身動きも取れず、話すことも食べることも眠ることも出来ず唯々天井の一点を見つめて呼吸をする日々。

楽しい日常生活を送っているような一般人では耐えられるはずもない地獄の生活。

想像しただけで怖気が走るだろう。

死を待つだけの身体だった私にも胸を張って趣味と言える物ができた。

それはファンタジー__特に異世界転生等の小説を読むことだ。

それを読んでいるときだけ、その世界に浸っている間だけは自分の病に対して物思いに耽ることも自暴自棄な心からも開放されるような気がした。

しかし手を上げることですら難しくなってしまった今では、貴重な趣味であった読書でさえ満足に行うことが出来なくなった。

私は余計死へと刻む針の音を聴きながら暇を持て余すこととなってしまった。

そんな私にも痛みに苛まれずに眠れる日がやってきた。

その日は久し振りに体調が良く、いつもは痛みで涙を流すはずの就寝時間になっても一向に痛みが襲って来ることもなく、何年ぶりかの夢を見るぐらい安らかに眠りにつくことが出来た。

私が好きに歩き回り好きに遊び好きに勉強できる、そんな夢。

私が欲しかった人生。

そんな夢を見て誰も気が付かないような小さな涙が頬を伝って枕を湿らした。

微かな嗚咽が、震えが独りぼっちの病室に響き渡った。

そしてもう一度目を覚ますことは、二度となかった。






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