第47話 コラボ配信開始
とはいえ、だ。
俺から琴美への評価が上がったとしても、コラボ依頼を受けるかどうかは別の話であり――
「やっぱり断らせてもらう。俺にメリットがあるようには思えないからな」
「そこを何とか! お願い蓮夜くん~!」
まったく諦める様子もなく、頭を下げる琴美。
周囲からは、“男が女を謝らせているぞ”という視線が飛んできて居心地が悪い。
しかし俺にメリットがない以上、付き合うつもりがないことには変わりがなく――
「……待てよ」
ここで俺はふと、先ほどの琴美の話から、ある重要な情報を思い出した。
「そういえば、琴美は配信者の活躍を見て
俺の問いに対し、琴美は一瞬だけキョトンとした後、こくりと頷く。
「う、うん。それはもちろん! 最初は娯楽としてダンジョン攻略を見るだけだったとしても、配信者に憧れて自分も探索者になりたい! って思う人はたくさんいるんだよ。国の下手な宣伝広告なんかより、よっぽど効果があるほどなんだから!」
「……ふむ」
それを聞いた俺はしばし考えた後、まっすぐ琴美を見つけた。
「分かった、いいぞ」
「え? 分かったって、何が?」
「コラボ依頼の件だよ。受けてやってもいい」
「っ、ほんとに!?」
琴美がパアッと顔を輝かせる。
しかし、すぐに表情を疑問のそれに変えた。
「だけどどうして? さっきまでは頑なに断ってたのに……はっ! やっぱり、私の可愛すぎるおねだりに心を撃ち抜かれたんじゃ――」
「違う」
「うっ、そんな迷いなく断言しなくても……」
変に勘違いされても面倒なので否定しただけなのだが、琴美はショックを受けているようだ。
……いや、コイツの性格ならこれも多分演技か。
と、それはさておき。
俺が依頼を受けようと考えた理由は至極単純。
ダンジョンの生みの親である
それに協力できるとなれば、力を尽くすべきだろう。
何はともあれそんな風にして、俺と琴美は一緒にダンジョンへ向かうのだった。
◇◆◇
――【ガレリス中級ダンジョン深層 隠しエリア:
というわけで、俺たちはさっそく昨日と同じ【
コラボ動画を取るうえで、他の人と出くわす可能性がない場所の方が良いと考えたからだ。
昨日の今日だからだろう。
予想通りこの隠しエリアに他の探索者は見当たらず、俺と琴美の二人きりとなっていた。
これ以上ない環境だと思ったのだが、琴美はなぜか眉をひそめている。
「どうした? せっかく要望に応えてやったのに、浮かない顔をして」
「そりゃなるよ! 私にとってはトラウマな場所なんだから!」
「……ふむ」
騒ぎ始める琴美だが、まあコイツのメンタルの強さなら無視していいだろう。
その証拠に、琴美は言葉とは裏腹に、素早く配信の準備を整え始めていた。
「じゃあ、始めるね」
「ああ」
頷くと、琴美が機器のボタンを押す。
配信が始まり、琴美はカメラに向けて笑顔で語り始めた。
「こんこっと~ん! リスナーのみんな、コットンチャンネルの時間だよ~」
直後、画面にはコメントの数々が流れていった。
《やった! 今日も配信あるんだ!》
《ことみん~! 昨日のアーカイブ見たよ! 無事でよかった~!》
《ってか待て、画面の端に映ってるの昨日のバケモンなんじゃ?》
《なんで一緒にいるんだ!?》
《やっぱりソイツ、ことみんのストーカーだったんだね。安心してことみん。すぐに僕が助けに向かうから……》
配信開始直後だというのに、コメントの流れが凄まじい。
これだけコットンチャンネルに人気があるということだろうか。
そう思う俺の横では、琴美が笑みを浮かべながら、マイクに拾われない程の小さな声量で何かを呟いていた。
「ふふ、ふふふ……いつもより明らかに伸びがいい……計画通り……!」
「…………」
詳細までは分からないが、どうやらいつもより調子がいいみたいだ。
気を抜けば大声で笑い始めてしまいそうな気配を漂わせている。
とはいえ、さすがはプロの配信者というべきか、彼女は完璧な表情でカメラに向けて語りかけ始めた。
「さっそくだけど、今日は他の探索者さんとのコラボ配信だよ! 昨日の配信で見て知っている人も多いと思うけど、改めて紹介するね! 彼は蓮夜くん! 今日は彼から、どんなふうにしてあれだけの実力を手に入れたのかについて聞いちゃうよ!」
「えーっと、まあそういうわけだ。よろしく頼む」
軽くそう告げると、コメント欄が一気に加速する。
《マジかよ! そんな重大な秘密、軽々と話していいのか!?》
《めちゃくちゃ面白くなってきた! 拡散しろ拡散!》
《えっ? 昨日のってCGじゃなかったの?》
《CGであんな臨場感出せねえよ! もう一回見直して来い!》
《ことみん可愛いよことみん》
そんな中、琴美は画面の一部を凝視しながら、再び何かをボソボソと呟く
「ゲリラ配信開始からたった数分で、同接数5万突破……勝った……!」
「…………」
こうして、俺と琴美のコラボ配信が始まるのだった。
――――――――――――――――――――
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