第48話 魔術講義

 俺が自己紹介を終えた後、琴美がカメラに向かって問いかける。


「それじゃ、さっそく始めよっか! みんな、何か蓮夜くんに聞きたいことはあるかな?」


 すると、一気にコメント欄が流れていく。

 琴美とコラボしていることに対する怨嗟の声も少なからずあったが、そのほとんどが、レベルに見合わない実力をどうやって手に入れたのかという疑問だった。

 昨日の暗界の吸血鬼ナイト・ヴァンパイアとの戦闘で、レベルの大きく劣る俺が勝利したことがまだ信じられないようだ。


 コメント欄を見た琴美はこくこくと頷く。


「うんうん、やっぱり気になるのはその辺りだよね! 蓮夜くん、可能な範囲で聞かせてもらってもいいかな?」

「ああ」


 頷き、俺は一歩前に出た。


「そうだな。とりあえず手っ取り早いのは……魔力錬成と変数調整あたりか」


「魔力錬成? 変数調整? 聞いたことがない言葉だね」


 やっぱり、こちらの世界では知れ渡っていない技術のようだ。

 ダンジョンを攻略する上では必須級の技術だというのに、魔王悲しい……


 などと考えていると、突如として脳内にグラムの言葉が響き渡る。


《いいのですか、主様? そのような貴重な情報を、こんな下々に教えても……》

「いいよ」

《軽い!?》


 過去に遡れば、雫に対しても似たような指導はしているし、探索者のレベルが上がること自体は大歓迎。

 今回コラボに応じたのは探索者志望を増やすためだが、せっかくの機会だ。

 大魔王様直々に、魔術の真髄を教えてやろう。


「それじゃ、まずは魔力錬成からだな」

「名前の響き的に、魔力を強化するみたいな感じなのかな?」

「勘がいいな、その通りだ。普段、魔術を使う際、ほとんどの者が体内にある魔力をそのまま術式に注ぎ込んでいるが、それだけじゃ不十分なんだ」

「? それってどういう意味――「バウッ」――ッ、魔物!?」


 雫が疑問を口にするより早く、魔物の鳴き声が響き渡る。

 見ると、そこには真っ黒な毛皮と、赤く鋭い眼が特徴的な狼型の魔物がいた。


 俺は素早く鑑定を使用する。



 ――――――――――――――


【ブラッド・ハウンド】

 ・討伐推奨レベル:48


 ――――――――――――――



 なんてことのない、ただのザコ魔物。

 ――だが、いいタイミングだ。


「蓮夜くん、まずはあの魔物を片付けなくちゃね」

「いや、ちょうどいい。今回はヤツを実験台にして説明しよう」

「えっ?」


 そう言い、俺はまず【火炎の矢ファイアアロー】の術式を展開した。


「まずこれが、錬成していないただの魔力を使用した場合だ」


 前置きの後、俺はブラッド・ハウンド目掛けて火炎の矢を放つ。


「ギャンッ!?」


 矢は見事にブラッド・ハウンドへ接触する。

 レベル差があるため大ダメージを与えることには成功するも、初級魔術の火力では一撃で倒し切れなかった。


「と、このように一撃で倒し切るまでには至らない」

「う、うん、そうだよね。このレベル帯になってくると、せめて中級以上じゃないと牽制くらいにしか……」


 常識のように、琴美はそう告げる。


「しかし魔力錬成を行えば、同じ魔術であろうと結果は変わる」


 俺は素早く魔力を錬成し、質の高い魔力を術式に流し込む。

 次の瞬間、術式は眩い輝きを放った。

 今回は説明のため、あえて術式変換は行わずそのままだ。


 そして――


「【火炎の矢ファイアアロー】」

「――――ッ!?!?!?」


 放たれた深紅の矢がブラッド・ハウンドに接触した次の瞬間、ヤツの体が木っ端みじんに爆散した。

 うむ、大成功だ。


「このように、同じ魔術であっても火力を大幅に上げることができる。魔力消費量自体は上がってしまうが、それを解決してくれるのが変数調整で――」

「…………」

「――琴美?」


 ぽかーんと口を開いている琴美に気付き、俺は思わず彼女の名前を呼びかけた。

 ちなみにだがコメント欄も流れが止まっている。

 この一瞬で、俺以外の時間が止まりでもしたのだろうか。


 そんな考えが浮かび上がった、次の瞬間――



《すげええええええええええええ!》

《え? 今の初級魔術? 嘘でしょ……》

《木っ端みじんって……マジで何も残ってないんだけど》

《初級魔術がこんな火力出せるわけないだろ! チートか!?》

《視聴者の皆さん、今のを見ましたか? 私の目がおかしいんでしょうか……》

《まじかよ……初級魔術でこんなことできたら上級魔術いらなくね!?》



 コメント欄が一気に加速する。

 これまでで最大風速だ。どうやら結果を見て手が止まっていただけらしい。

 そして、残された琴美に関しても。


「これ、夢じゃないんだよね……?」


 そう言いながら自分の頬をつねり、「痛い!」と叫んでいるのだった。

 なんだコイツ。

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