第46話 コラボ依頼
登録者数100万人越えの人気ダンジョン配信者、琴美を【
俺――神蔵 蓮夜は、改めて彼女からお礼と謝罪を伝えられていた。
ちなみに、謝罪する割にはどうして配信のアーカイブを消さないのか尋ねてみると――
「私の歴代の動画の中でも、一番の勢いでバズっちゃったからぁ……なんかぁ、もったいなく感じちゃってぇ……」
「………………」
――ということらしい。
つまるところ、ただの配信者としての
琴美はかなり面の皮が分厚いらしい。
まあ、大魔王的にそのメンタルの強さは決して嫌いではないが。
状況の整理も程々に。
話を進めるべく、俺は琴美に話しかける。
「それで、俺を呼び出した用件ってのはこれで全部なのか? この程度だったら、適当にメッセージで伝えてくれてもよかったんだが……」
その発言を聞き、琴美はニッと笑みを浮かべる。
「よく聞いてくれたね、蓮夜くん。もちろんこれだけじゃないよ。実はね、君に一つ大切なお願いがあるんだ」
「大切なお願い?」
「うん! 蓮夜くんさえ良かったらなんだけど――改めて正式に、私のチャンネルに出演してくれないかな?」
チャンネルに出演。
それはつまり……
「いわゆる、コラボ依頼ってヤツか?」
「その通り! 昨日のことで、蓮夜くんは注目度抜群だからね! いまコラボ配信をしたら、もっと再生数が回ると思うの!」
「……ふむ」
まさか謝罪した直後に、この提案をしてくるとは。
想像以上に頑強なメンタルだと評価しつつも、答えは決まっていた。
「悪いが断る。俺がいま最も興味があるのは、自身の成長とダンジョン攻略だけだからな。そのようなことに時間を使いたくはない」
迷うことなく、そう返す。
しかし、
「……そこを何とか! お願いできないかな?」
琴美は両手を合わせながら、頭を下げて粘ってきた。
彼女にとってはそれだけ諦めきれないことらしい。
とはいえ、主導権自体を持っているのは俺だ。
もう一度強く断ってやれば、さすがの琴美も引くとは思うが……
ここで俺は、ふとある疑問を抱いた。
「どうして、そこまでして配信者にこだわるんだ?」
「えっ? どうしてってのは?」
「昨日の戦いを見て思ったが、お前の実力なら下手に配信せずとも、普通にダンジョンを攻略した方が稼げるだろ。それにそっちの方が取れ高のために危険を犯す必要もなくなる」
地球にダンジョンが出現してから十年。
探索者自体の数は年々増加しているが、中級ダンジョンをソロで探索できる実力者ともなれば限られてくる。
そして、琴美は既にその領域に達している。
ただ金を稼ぐだけなら、普通に攻略をする方がいいと俺は考えた。
しかし、どうやら琴美の考えは違ったようで――
「蓮夜くんの考えは正しいかもね……だけど、それでも私には配信者を続ける理由があるの」
ここではない、遠い過去を思い出すように琴美はそう告げた。
何か特別な事情があるということだろうか。
「あれは3年前のことよ。イレギュラーダンジョンが出現して、街中に魔物が溢れたわ」
「……ああ、そういやそんなこともあったな」
「その時、たまたま近くにいたダンジョン配信者が現地に向かい、魔物の群れを討伐した。その光景はネットを通じて世界中に流れ……命をかけて一般の方たちを守った彼女に対して、称賛の言葉が次々と届けられたの」
……ふむ。
なるほど、ようやく話が見えてきた。
琴美はその人物に憧れ、自分も配信者を志したのだろう。
彼女のように、多くの命を助けられるような。
なるほど、確かにこれはなかなか立派な動機といえるだろう。
と、一瞬はそう思ったのだが――
俺の評価は、続く琴美の言葉によって書き換えられることとなった。
「その姿を見て、私は思ったの――私も彼女みたいに、多くの人から称賛されたいと!」
「……うん?」
話の流れが変わった。
そう思った時には既に、琴美は興奮したのかその場でバッと立ち上がっていた。
「ダンジョン攻略は、今のトレンドの最先端よ! そこで活躍すれば間違いなく注目される! さ・ら・に! 私ほどの可愛さがあれば人気が出るのも必然というもの! この一身に称賛を浴びることができるわ!」
一息でそこまでを言い切る琴美。
だが、話しはまだ終わっていないようだった。
「お金についてだってそうよ。蓮夜くんは普通に攻略した方がいいってたけど、そうとも限らないの! 人気な配信者にはダンジョン産業を扱ってる企業から山ほど案件が来るし、下手に攻略するよりよっぽど稼げるわ。だからこそ私は思ったの。この時代に最も人気なダンジョン配信者になることで、富・名声・力、その全てを手に入れてやるって!」
とうとう、どこぞの海賊王みたいなことまで言いだした。
……どうやら、俺はこの少女を侮っていたらしい。
配信者の
ヨクヨクの実を食べた欲人間、それが琴美というダンジョン配信者だった。
……ふむ。
「悪くないな」
結果、それを聞いた俺の中で琴美の評価が少し上がるのだった。
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