第二章 大魔王、因縁の宿敵たちを相手に無双する

第35話 グラムの証言


「ん……よく寝たな」


 グラムと戦闘を行った翌日の朝。

 俺――神蔵かみくら 蓮夜れんやは心地よい目覚めを堪能していた。


 カーテンを開け太陽の光を浴びていると、ふと今のステータスがどの程度だったか気になった。


「ステータス」


 そう唱えると、目の前にステータス画面が表示される。



――――――――――――――――――――


 神蔵 蓮夜 20歳 レベル:52

 職業:なし

 攻撃力:175

 耐久力:168

 速 度:179

 魔 力:191

 知 力:191

 スキル:上級魔術適性(火)Lv5、魔力凍結Lv3、鑑定


――――――――――――――――――――



 探索者になってからの期間を考えれば、十分すぎるほどの成長だろう。

 しかし、


「ふむ、この程度では前世の実力には全く届いていないな……」


 思わず、そんな感想を抱いてしまった。


 まあ前世の俺は歴代最強の大魔王と称される程だったのだから、それも当然ではあるのだが……

 ここからかつての力を完全に取り戻せるまで、果たしてどれだけの時間を費やす必要があるのか、とてもじゃないが予測できない。


 さて、今後はどう動いたものか……

 そう思案していると、部屋の片隅でガタガタと何かが小さく振るえているのに気づく。

 魔剣グラムだ。


 そういえば昨日グラムを魔力凍結で黙らせた後、放置したままだったことを思い出す。

 前世からの因縁があるコイツには、一つ訊きたいことがあった。


 俺は魔力凍結を解除し、グラムを会話可能な状態にした。

 直後、この瞬間を待ち構えていたかのようにグラムが大声を上げる。



『はっ、ようやく封印が解かれた! 主様あるじさま、なぜ突然私の魔力を止めるような行いを――』

「そんなことより質問がある」

『そんなことより!? 私にとっては重大事項なのですが!?』

「うるさい。それ以上騒ぐんだったら、また凍らすぞ」

『申し訳ありません!』



 グラムを優しくさとした後、俺は話を続ける。



「まず最初に確認だが、俺が魔王であることには納得したんだな?」

『は、はい。纏うオーラは異なるようですが、技量や傍若無……自由気ままな振る舞いに至るまで、私の知っている主様と同じでしたので』

「そうか。とりあえず事情を説明すると、俺は転生したみたいなんだ」

『……は?』



 理解できないとばかりに素っ頓狂な反応を見せるグラム。

 そんなグラムに対して、俺は簡潔に事情を説明した。


 ここは異世界ではなく地球という世界であること。

 俺が神蔵 蓮夜として生まれてから20年が経っていること。

 前世の記憶を取り戻したのがつい最近であること。

 そして一から鍛えなおしているため、現時点では前世の実力に遠く及ばないこと。


 これらの説明を聞いたグラムは、納得したように相槌を打つ。


『なるほど、そのような事情が……それではこちらの世界は、元居た世界とは異なるのですね』

「ああ。それを踏まえた上でようやく質問に入れる』


 ここでようやく、俺はかねてより気になっていたことをグラムに尋ねた。



「こちらの世界にダンジョンが出現した以上、どこかのタイミングで異世界向こうから地球にダンジョンが移転する出来事があったはずだが、身に覚えはないか? 一筋縄で行えることではないため、大規模な魔力行使があったのは間違いないはずだが」

『それが……申し訳ありません。封印されて以降は時間感覚が曖昧なことに加え、魔力に対する感度も低くなっており……少なくとも私は把握しておりません』

「……そうか、役に立たんな」

『封印した張本人が仰ることではないと思いますが!?』

 


 何やら文句を告げるグラムを無視しながら、一つため息を吐く。

 どうやら、まだダンジョンの謎を解明することはできないみたいだ。


「ん、なんだ?」


 そうこうしているうちに、スマホから着信音が鳴る。

 見てみるとミツキからのメッセージが届いていた。


 メッセージ内容としては、改めて昨日の出来事について話し合いたいが、時間を貰えないか? というものだった。

 彼女自身、気がかりな部分が幾つか残っていたのだろう。


「……まあいいか、特に予定があるわけでもないしな」


 そう判断した俺は、集合場所と時間を書いたメッセージをミツキに送るのだった。

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