第36話 ミツキとの会合

 ミツキとの待ち合わせ場所であるカフェに到着すると、既に彼女は席に座って俺を待っていた。


 近づいていくと、彼女は俺を見つけてわずかに表情を崩す。


「おはよう。昨日ぶりね、蓮夜」

「ああ、おはよう」


 そう答えながら席に着き、店員にブラックコーヒーを注文する。

 そしてミツキに視線を向けた。


「それで、昨日はちゃんと休めたか?」

「……悲しいことに、あんまりね」

「何かあったのか?」

「実は昨日、蓮夜と別れた後、ひいらぎさんたちと会ったのよ」


 柊というと、ミツキの所属するパーティーのリーダーだ。

 確かに彼女は以前から、無茶をするミツキを心配している様子だったな。


「柊から何か言われたのか?」

「それがね……」


 ミツキの話によると、柊はまずダンジョンに一人で潜っていたことをミツキに注意したとのこと。

 その後、他のパーティーを助けるために無茶をしたこともバレ、こっぴどく叱られたらしい。


 俺はブラックコーヒーを一口飲み、カップを机に戻す。


「そうか、ということは柊たちも事情は知ってるんだな」

「簡単にだけどね。それで、ようやく本題なんだけど」


 するとミツキは姿勢をピンと整え、真剣なまなざしで俺を見る。

 そして、桜色の唇を動かして言った。



「蓮夜、あなたはいったい何者なの?」



 ……ふむ。



「何者……とは?」

「とぼけなくていいわ。魔道具のクオリティだけでもおかしいとは思っていたけど、それ以上に昨日の実力は明らかに常軌を逸していた。あんなの、何か理由がないと信じられないわ……も、もちろん、何か言いたくない事情があるならこれ以上は訊かないけど……」


 そう言いながら、どこか気まずそうに顔をそむけるミツキ。

 そんな彼女を見ながら、俺は心の中で自問自答。


 彼女が訊いたことを答えるなら、俺の前世が大魔王であったことも語らなければならない。

 それには少し抵抗感が――ないな。

 うん、ない。これまで語らなかったのも、特に訊かれなかったからだし。

 特別隠し通す理由もないか。


 そんなわけで、


「いや、別に語ることぐらい構わないぞ。そんなに大したことでもないからな」

「そうなの?」


 待ってましたとばかりに、ぐいっと身を乗り出してくるミツキ。

 そんな彼女に向けて俺は言う。


「端的に言うと、俺は魔王なんだ」

「――は?」


 ポカーンとした表情を浮かべるミツキに、俺は全てを赤裸々に語った。

 俺の前世は異世界の大魔王だったが、なんか地球こっちに転生してきちゃったから好き放題やっていることを。


 全てを聞いたミツキはしばらく呆然とした後、どこか警戒した様子で呟く。


「そう……変わってるとは思ってたけど、蓮夜って中二病そういうひとだったのね」


 ん? 何やら言葉の裏に、変な意味が込められてそうな気がしたんだが。


 しかしそれを尋ねようとするも、ミツキは後ろを向いて一人で何かをブツブツと呟く。


「大魔王? 本気で言ってる……わけないわよね? やっぱり何か特殊な力や事情があるけど、それを言いたくなくて誤魔化してるって感じかしら……別に言いたくないんだったら、無理に聞き出そうだなんて思ってないのに。まだまだ信頼されてないってことね、これから頑張らなくちゃ」


 しかし、小声でのせいで何を言っているかは聞こえない。


 というわけで、俺は彼女の言葉が止まったタイミングで問いかけた。


「どうかしたか、ミツキ?」

「ううん、何でもないの。おかで全部理解できたわ! ありがとう蓮夜!」


 するとミツキは満面の笑みでそう返していた。

 どこか要領を得ないが、本人が理解できたと言ってるならまあいいか。


 俺はそう判断し、ブラックコーヒーを飲み干すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る