第32話 VS魔剣グラム

 かつての因縁を語り合った後、始まった俺と魔剣グラムの戦闘。

 初手はグラムだった。


『喰らえ――黒閃刃こくせんじん!』


 グラムが振るった腕から、漆黒の閃光が放たれる。

 込められている魔力量は尋常ではない。

 防御は難しいと判断し、俺はサイドステップで回避する。

 すると閃光はそのまま後方に飛んでいき、ダンジョンの硬質な壁に大きく切り裂いた。


「うそ! ダンジョンの壁をあんなに傷つけるなんて……」


 それを見て驚愕するミツキの声が響く。

 ダンジョンの壁や天井は非常に硬質な素材で出来ている。

 隠し通路に続いているなどのギミックがあった場合を除き、かすり傷一つ与えるのにも一苦労するというのが現実だ。


 そんな中、グラムの攻撃は易々とその常識を打ち破った。

 ミツキが驚くのも当然だろう。


『クハハ、いいぞ、もっと驚愕し恐れおののけ! 貴様らのような矮小な身で受ければ、一溜りもない威力なのだからな』


 高らかに笑いながらそう告げるグラム。

 そんなグラムに向かって、俺はまっすぐに告げた。


「何を言っているんだか。いくら火力があろうと当たらなければ何の意味もないだろう?」

『ほざけ! これを見てもまだ同じ口が聞けるか!? 黒閃刃・五連撃!』


 グラムは両腕を連続で振り、5本の刃を放ってくる。

 確かに攻撃範囲は広がったが……

 この程度で通用すると思われているとは心外だな。


「身体強化」


 体内の魔力を循環させ、身体能力を上昇させる。

 その直後、五本の閃光は



『フハハハハ! 生意気な口を聞くからそうなるのだ! さあ、数十枚に下ろされた貴様の無様な姿を観察しようではないか――』

「悪いが、一撃も当たっていないぞ」

『――なぁ!? ありえん! 今、確かに刃が貴様の体を切り裂いたはず!』



 驚愕の声を上げるグラム。

 驚いているところ申し訳ないが、やったのは単純なこと。

 同時に襲い掛かってきているように見えた五本の閃光だが、実際にはグラムが複数回腕を振るった際の時間差が存在していた。

 よって、数コンマ遅れで到達する閃光の隙間を縫うようにして、全ての攻撃を回避しただけだ。


 真正面からだと、確かに俺の体が刃に切り裂かれたように見えただろう。

 しかし魔力の流れを確認すれば、その程度すぐに分かったはず。

 しばらく戦闘しないうちにここまで勘が鈍っているものかと、俺はグラムを見ながら失望した。


「それじゃ、そろそろこちらの攻撃に移らせてもらおうか」


 そう呟いたのち、俺は火の魔力を練り上げる。


「術式変換――纏炎てんえん


 炎の鎧を纏った俺は、一瞬でグラムとの距離を詰め殴打を浴びせた。


『グウゥ!? なんだ、体に見合わぬこの威力は……!』

「魔力の操作に長けていれば、これくらいは容易いはずだが……やっぱりお前には難しかったか?」

『ヌウゥゥ! ぬかしおって、貴様だけは決して許さんぞ! 完膚なきまでに叩きのめしてくれる!』


 そこからは殴打の応酬となった。

 ……まあ、応酬とは言ってもほとんど一方的なものだったが。


 グラムは両手に漆黒の魔力を纏い殴りかかってくるが、その動きは力任せでほとんど素人同然。

 魔力の質や威力だけなら現在の俺を大きく上回っているものの、当たらない以上は何の意味もなかった。


 対して、俺は炎の拳を数十数百とグラムに浴びせていく。

 一発一発の火力は低くとも、積み重ねれば強固な鎧を突破できるだけの矛となるものだ。

 その証拠に――


 ガキン!


『ガハァッ!?』


 数ある殴打の中の一撃によって、グラムの硬質な皮膚にヒビを入れることに成功する。

 攻め切るなら今だろう。


 そう判断した俺は後方に飛びのけながら、右手をまっすぐグラムに向ける。

 そして眼前に巨大な術式を展開した。



「瞬間構築――【超越せし炎槍アルス・フレイム】」

『――なッ、ガハァァァ!』



 そしてその傷口目掛け、巨大な炎槍を解き放った。

 接触、同時に爆発。

 莫大な熱量を持った炎槍はグラムの体を焼き尽くし、奴の悲鳴と共に大量の煙を生じさせた。


「やったの、神蔵さん!?」

「……いや、まだだ」


 攻撃が直撃したのを見てミツキが期待のこもった声でそう叫ぶが、俺は首を横に振る。

 大ダメージは入っただろうが、グラムの潜在能力を考えれば倒しきるまではいっていないはずだ。


 その予想は正しかった。

 黒色の風によって煙が拡散し、中から怒りの形相を浮かべたグラムが姿を現す。


『この卓越した魔術の数々に、敵をあざ笑うかのような圧倒的な戦闘スタイル……何故だ!? 何故、我の記憶の中にある大魔王の姿と被る!? 姿かたちや純粋な実力に至るまで、あの者とは完全に異なっているにもかかわらず……!』


 何かを一人でブツブツと言っているが、距離があるためよく聞こえない。


『……違う、違う違う違う、このような者が大魔王であるはずがない! それを今から我が証明してやる!!!』


 何かを叫びながらバッと顔を上げ、こちらを睨みつけるグラム。

 ありがたいことに、勝負はまだ終わりではないみたいだ。


「まだやる気か?」

『当然だ! 大魔王を語る不届き物に、今から本物の大魔王の力を見せてやる!』


 グラムがそう宣言するのと同時だった。

 化身となったグラムではなく、地面の転がった魔剣本体から大量の魔力があふれていく。


 それらは空中に集ったかと思えば――次の瞬間、数十の術式へと姿を変えた。

 その術式に囲まれた中、グラムは告げる。



『これは我の身に封印された、使。この力をもって、今後こそ貴様を殺してやろう!』

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