第31話 過去の因縁

 大魔王の手でこのダンジョンに封印されたと語る魔人。

 その言葉を聞いて、ようやく俺は思い出した。


「もしかしてお前――魔剣グラムか?」

『ッ! なぜ我の名前を知っている!?』


 魔人――もとい魔剣グラムは驚愕しながら肯定する。

 どうやら確定みたいだ。


 というのも、それはまだ俺が

 魔界のある地域に封印されていたグラムと戦闘を行い、俺は見事に圧勝した。

 その後、便利な能力を有していたグラムを配下に加えると共に、数ある主要武器メインウェポンの一つとして運用していたのだ。


 ただ、魔王になって以降は特にその力を使う機会はなかった。

 どちらかと言うと魔剣グラムは成長過程で必要となる剣。

 そんなわけで、悩みに悩んだ結果――



『よし、最近この剣使ってないし、せっかくだから勇者へのドロップアイテムとして隠しエリアに設置しよう!』

『――なぁ!?』



 魔王城の宝物庫にて。

 俺は魔剣グラムを掲げながら、力強くそう叫んだ。


 隠しエリアの攻略報酬が決まったことに満足する俺。

 そんな俺の前で、何故か・・・グラムは驚いたような声を上げていた。


『あ、主様あるじさま、いきなり何を仰っているのですか?』

『え? 我が今作っているダンジョンの報酬について考えていただけだが――』

『主様が今ダンジョンを作成しているのは知っています! ですが、そこでなぜわたくしの名が出るのですか!?』


 それはもちろん、俺が魔王になってからはほとんど使っておらず、能力的にも勇者が使用するのにピッタリだから。


 そう伝えると、不思議なことにグラムは喚きだした。


『そんな! せっかく数年ぶりに手に取ってもらえ、共に戦場を駆け抜けられると思ったのに! こんなのはあんまりです! 私を勇者の武器にするなど……お考え直しください!』

『それじゃさっそくグラムを隠しエリアに設置してっと……そうだ、それっぽい台座なんかがあった方がかっこいいな』


 そう呟きながら、俺は隠しエリアの最奥にふさわしい台座を探し始める。


『聞いていない!? ま、まあいいでしょう。こうなってしまったからには、主様がいなくなった後に自分でダンジョンから抜け出せばいい――』

『そんでもって、台座に刺さった剣は挑戦者じゃないと抜けないようにして――うん、完璧だ』

『――あれ? 自分から動けない? ふ、封印されている!? お、お待ちください! 主様、主様ぁぁぁ――!』



 ――と、そんなやりとりを経て俺はグラムを隠しエリアの奥に設置した。

 その際、1人では台座から抜けられない封印と、ダンジョンの外には行けない封印を二重にかけておいたのだ。

 現在はその二つの封印のうち、1つが解かれた状態ということだろう。


 とまあ、だいたいの経緯はそんな感じ。

 当時の出来事を振り返ったのち、俺はグラムに向かって真っすぐに告げる。


「おい、お前は挑戦者の報酬だろうが。自分から逃げ出そうとしやがって何考えてやがる、最低最悪だな」

『なぜ我が非難されている!?!?!?』


 グラムはそう叫んだあと、ブンブンと頭を左右に振る。


『落ち着くのだ我よ! こんな矮小な存在が大魔王であるはずがない! なぜ事情を知っているかは不明だが、いずれにせよ不届きものには容赦せんぞ!』

「――――これは」


 直後、グラムの体から禍々しい漆黒の魔力が放たれる。

 魔力は一瞬でこの広間いっぱいに拡散した。


「なんだ、これは!?」

「意識がもうろうとして……」

「く、そ……」


 グラムの強力な魔力に耐えきれなかったのか、背後の5人が一斉に気を失う。

 その様子を見て、グラムは意地の悪い笑みを見せた。


『クハハ、どうだ! 我の魔力によって大切なお仲間が全員気絶してしまったぞ。心から謝罪するなら貴様の命一つで許してやってもよいが――どうする?』


 そう提案してくるグラム。


 それを聞き、俺は真剣なまなざしでグラムに尋ねた。


「ところでお前の剣、なんでそんなに真っ黒なんだ? 俺が使ってた時はもう少し灰色気味だった気がするんだけど」

『それは大魔王への憎しみをつのらせた結果、剣ごと変色して――って違うぅ! そんな会話をするために力を開放したわけではないわ!』


 俺が一目でグラムだと気付けなかった理由だし、今のところ一番の気になるポイントだったんだがひどい言われようだ。

 まあ、語ってもらえただけよしとするか。


「神蔵さん? いったい、何がどうなって……」

「ふむ、ミツキは無事だったんだな」


 そんな風に会話していると、背後からミツキの声が届いた。

 どうやらミツキに限っては、先ほど体を乗っ取られている際にグラムの魔力に耐性ができていたみたいで、気絶せずに済んだみたいだ。


 俺はミツキを安心させるように告げる。


「コイツを倒せばすぐに収まる、気にしなくていい」

「……む、無理よ、この魔力、Aランク探索者シーカーすら上回るほどの圧力だわ。神蔵さんにどうにかできる相手じゃ……」

「……ふむ」


 ミツキの言葉は正しい。

 確かに一部とはいえ封印から解放されたグラムは、今の俺の実力を大きく上回るだろう。


 しかし、だからといって戦いから逃げる理由にはならない。


 俺は改めてグラムに向き直ると、威風堂々と告げた。



「前世での出来事とはいえ、一度は配下に加えた間柄だ。この機会に自ら、もう一度しつけなおしてやろうではないか」

『この殺気、覚えが……!? いや、そんなはずはない! 貴様はこの手で殺してみせる!』



 かくして、俺と魔剣グラムによる戦闘の火蓋ひぶたが切られるのだった。

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