転生した大魔王、地球に出現したダンジョンを作ったのが前世の自分であることを思い出す。 〜魔王時代の知識と経験で瞬く間に世界最強になって無双します！〜

第22話 大魔王、小金持ちになる

　探索者ギルド、訓練場にて。

　検証に付き合ってくれることになったＣランク探索者（シーカー）のミツキに対して、簡単に魔道具の使い方を説明する。

　最後まで聞いたミツキは、理解できたのか小さく頷いた。

「なるほど、火力変動型なのね。使用制限は？」

「１個につき１回限りだ」

「そう……一番ポピュラーな仕様ね」

　そこでミツキは、俺から瀬名（せな）に視線を移す。

「数には限りがあるんだったわよね？　ここで何度も使っちゃうのはもったいないし、最大火力を試す感じで大丈夫かしら」

「はい、それで問題ありません」

　そんなやり取りの後、瀬名は持ってきた荷物の中から小さな案山子のようなものを取り出した。

　瀬名はそれを訓練場の奥に持っていくと、魔力を注いで巨大化させる。

　見たところ、どうやらアレも魔道具みたいだ。

　それに――

「ふむ、あの案山子には魔力に対する耐性があるのか」

「ええ、魔術の的にするためにギルドが作った魔道具よ……結構有名だと思うんだけど、もしかして神蔵さんはアレを見るの初めて？」

「ああ」

　前世でも見た記憶がないと思ったが、ミツキの説明を聞くにギルドが生み出したものらしい。

　それは見覚えがないのも納得だ。

「珍しいわね。神蔵さんは中級シーカーだって瀬名さんが言ってたけど」

「ああ、数日前になったばかりだけどな」

「そういうこと……だったらこれも中級ダンジョンの浅層で取れた魔道具ってわけね。だったらせいぜい、あの案山子に傷一つでも与えられたら十分かな……」

「ん？」

　理由は不明だが、魔道具を作ったのが俺であるということは、瀬名からミツキに伝わっていないらしい。

　まあ、大したことじゃないから別にいんだけど。

　そんなことより――

「準備ができました。始めてください！」

　案山子の設置が無事に終わったようで、ようやく検証に入れそう。

「じゃあ、いくね」

　ミツキはそう告げると、手に握る魔道具に魔力を注いでいく。

　それが規定量に達すると、自動的に術式が前方に展開され、それなりに大きな火炎の矢が放たれた。

　ゴォォッと、大気を切り裂くように放たれた矢はそのままの勢いで案山子に直撃する。

　そして爆発音と爆風を辺りにまき散らしながら、案山子の胴体を半分ほどえぐり取った。

「……ふむ、やはりこの程度か」

　その結果を見て、俺は小さくそう零した。

　昨日の実験でも分かっていたことだが、やっぱり変動型では大した火力は出ない。

　アルス・フレイムなら、一発で案山子を爆散させられただろうに。

　せめて１個につき５万近い値がついてくれればいいんだが。

　そう思いながら、瀬名とミツキを見ると――

「……………………」

「……………………」

　なぜか二人は無言のまま、傷ついた案山子をじっと見つめていた。

「れ、レベル６０クラスの耐久力を持つ案山子に一撃であれだけのダメージを与えるなんて……」

「……しかも魔力効率もかなりいいわよ、これ。普通の魔術師が同水準の魔術を放つときに比べて、半分以下しか使用してないんじゃ……」

「そんなにですか!?　これは……売れますね！」

　瞬間、瀬名の目がキランと光る。

　その目はすぐさま俺の方を向き、彼女はこちらに駆け足で寄ってきた。

「神蔵さん！　素晴らしい魔道具ですよ、これは！」

「そ、そうか。ならいいんだが、売り物にはなりそうか？」

「もちろんです！　そうですね……一つにつき４０万円でいかがでしょう!?」

「４０万!?」

「足りませんか!?　なら４５……いえ、今後のことも考えて５０万円でぜひ！」

　まさかの金額に困惑しただけなのに、なぜか値段が吊り上がっていた。

　少々驚きつつも、俺は瀬名に問いかける。

「そんな高値で買い取ってくれるのか？」

「もちろんです！　これだけ強力な魔術を放てるんですから、初級シーカーはもちろん、中級シーカーにもかなりの需要があるはずです！」

「需要はあったとしても、その値段で買い手がつくのは驚きだな」

　そう尋ねると、瀬名は興奮したように続ける。

「何を言ってるんですか！　中級シーカーだと月に数百万円稼いでいる人は珍しくないですし、初級シーカーだとしても無理をしてでも買う人は多いはずです！」

「そうなのか？」

「はい！　それに普段から使う以外にも、もしもの場合に備えて一つ持っているだけで、多くのシーカーにとっては探索時の安心材料になるはずですよ」

「なるほど」

　最後まで使わない主義だったとしてもアイテム欄にマスターなボールやエリクサーがあれば安心できるという、ゲームでよくあるあの現象か。

　そう考えればかなり説得力がある気がする。

　いずれにせよ、俺の答えは決まっていた。

「分かった、それじゃその金額で売らせてもらう」

「ありがとうございます！　２０個分を合わせて、１０００万円の買い取りとなります！」

　チャランチャラ～ン

　――――【現在　１０００万円／２００万円】――――

　脳内ＢＧＭを鳴らしながら、俺の脳内カウンターが大台を突破する。

　まさかこんなにも稼げるとは思っていなかった。嬉しい誤算だ。

「これさえあれば……」

　そんな風に喜ぶ俺の横では、ミツキが手に持つ魔道具を見つめながら何かを呟いていたが、それはさておき。

　いずれにせよ俺は今回の魔道具売却によって、ちょっとした小金持ちになるのだった。