第23話 隠しボス部屋【大魔術師の工房】

 魔道具を売却して1000万円を入手した後。

 俺はまず、本来の目的でもあった中級ダンジョンへの転移結晶てんいけっしょうを購入することにした。


 問題は、どの中級ダンジョンに繋がる転移結晶にするかだが――


「そこのガレリス中級――いえ、第九中級ダンジョンの転移結晶をください」

「かしこまりました。こちら、200万円になります」


 地球こちらではダンジョンの名称までは伝わっていないようなので、指定された呼び名で注文し、無事に購入を終える。

 その後、もともと自分の持っていた転移結晶を取り出すと、購入した転移結晶は魔力に還元され吸収されていった。


「うん、成功だな」


 その光景を見て、俺はこくりと頷いた。


 探索者が使用できる転移結晶は、その本人がダンジョンボスを討伐して入手した個人のものだけ。

 ダンジョン内で新しく入手した転移結晶は、既に持っている個人の転移結晶それに対して、異なるダンジョンへの転移が可能となるような情報を付与するための素材でしかないというわけだ。


 何はともあれ、これで俺は無事に新しい中級ダンジョンへ挑めるようになるのだった――



 ◇◆◇



 ――【ガレリス中級ダンジョン中層】――



 数日後。

 俺はガレリス中級ダンジョンの中層を探索していた。


 ここは他の中級ダンジョンに比べて比較的モンスターが強力な代わり、レベル上げ効率がよく、優秀な魔道具も入手可能となっている。

 そのため挑戦する探索者の数も多いようで、なんと数十分に1回のペースで他のパーティーとすれ違うことができる。

 そもそも挑戦者が少なかった異世界向こうではありえない出来事だったため、俺はそのたびに感極まっていた。


 閑話休題。


 ダンジョン内を進み続けて目的地にたどり着いた俺は、荷物袋から七つの魔石を取り出す。

 そして目の前にある扉のうち、空いている七つのくぼみにそれらを埋め込んでいった。


「わざわざ数日かけて必要アイテムを集めたんだ、ちゃんと前世で構築した通りに開いてくれよ」


 そう呟くも、すぐに杞憂きゆうだったと分かる。

 七つの魔石がすべて埋まったタイミングで、扉は光を発しながら開いていった。


「よし、いくか」


 そして俺は迷うことなくその中に足を踏み入れる。



 ――【ガレリス中級ダンジョン 隠しボス部屋:大魔術師だいまじゅつし工房こうぼう】――



 すると中は、様々な実験用の道具が備え付けられた巨大な空間になっていた。


 ここはガレリア中級ダンジョンにある隠しボス部屋の中の一つ、【大魔術師の工房】。

 俺は今回、ここの攻略報酬を目当てにやってきていた。



『■■■――――』



 俺がボス部屋に入るのと同時に、頭上からローブを身に纏った魔術師が降ってくる。

 その手に持つ巨大な杖の先端には、俺が扉に埋めたのと同じ七つの魔石が埋め込まれていた。


「きたか」


 あのモンスターの名称は【マスター・メイジ】。

 数多の種類の魔術を得意とすると同時に、魔石使役術を使うことで他のモンスターを配下にすることもできるなかなか優秀なモンスターだ。

 配下のモンスターのうち一部はガレリアダンジョン内に散らばっており、そいつらを倒して魔石を回収してくることで、この隠しボス部屋への扉が開くというギミックである。


 地味に前世の魔王時代に俺が作ったギミックの中では、お気に入りの部類だったりするんだが……それはさておき。

 さっそく戦闘に入るとするか――


「っと、その前に。せっかくだしアレ・・を使っておくか」


 あることを思いついた俺は、マスター・メイジを見ながら小さく呟いた。


「鑑定、発動」


 すると視界にマスター・メイジの情報が飛び込んでくる。



 ――――――――――――――


【マスター・メイジ】

 ・討伐推奨レベル:60

 ・数多の魔術を習得した大魔術師。魔石使役術を得意としており、自前で作り上げた魔石を他のモンスターに埋め込むことで使役が可能となっている。


 ――――――――――――――



「ほうほう、だいたいは俺の知っている情報か……にしてもやっぱり、モンスターの情報が文字化して説明されているのを見るのはあまり慣れないな」


 鑑定結果を見た俺は、興味深くそう呟いた。


 ――――【鑑定】。

 ステータスのない異世界では存在すらせず、地球こちらでは探索者シーカーの基本となっているスキルだ。


 実はガレリス中級ダンジョンの転移結晶を買った後、金にだいぶ余裕があったため、鑑定スキルを習得可能な鑑定石を50万円で購入しておいたのだ。

 まだ使用感には完全に慣れていないが、確かになかなか便利で、多くの探索者がこれに頼りたくなる気持ちも分かる。

 改めて、自分の知らない魔術について学ぶのは面白いと実感する。


『■■■■■――――!』


「おっと、考え事をしすぎたか」


 そうこうしているうちにマスター・メイジも準備を終えたようで、空中に浮かびながら幾重にも術式を展開していき、工房内のあらゆる場所から配下の魔物が出現する。

 新しいスキルを使用して感慨にふけるのもほどほどにして、さっさと討伐してしまうことにしよう。


「さあ、いくぞ」


 そうして俺は、マスター・メイジとの戦闘を始めるのだった。



――――――――――――――――――――


 LvUP↑(ここ数日間の成果)

 神蔵 蓮夜 20歳 レベル:48

 職業:なし

 攻撃力:162

 耐久力:156

 速 度:165

 魔 力:175

 知 力:175

 スキル:上級魔術適性(火)Lv4、魔力凍結Lv2、鑑定


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