第21話 査定の時間

 翌日。

 探索者ギルドに来た俺は、受付のテーブルに約20個の適応型てきおうがた魔術石まじゅついしを置く。

 すると奇遇なことに、再び俺の担当になった受付の瀬名せなが困惑したような表情を浮かべた。


「えーっと、これはいったい……」

「魔道具です、査定してください」

「これ全部ですか!? こんな数の魔道具が取れる穴場がダンジョンにあるだなんて……わ、分かりました、少々お待ちください!」


 そう言いながら、魔術石の一つを手に取りじっと見つめる瀬名。

 ちなみにだが、今回提出した中に超越せし炎槍アルス・フレイムを付与した魔術石はない。

 残りがたった二つしかないということもあり、まずはこちらの量産可能な適応型魔術石から査定してもらおうと考えたからである。


 ちなみに目標金額は、中級ダンジョンの転移結晶てんいけっしょうが購入できるようになる100万円以上。

 できれば余裕をもって、200万円くらいは欲しいところだが……



 ――――【現在 0円/200万円】――――



 さて、いったいどれくらいの値がつくか。

 俺は脳内カウンターを出しながら査定が終わるのを待つ。


 しかしその数秒後、瀬名がゆっくりと魔術石をテーブルに置くと、困ったように口を開いた。


「おかしいですね、鑑定を使用しても魔道具の情報がうまく読み取れません……」

「どういうことですか?」

「ダンジョンから入手できる魔道具ですと、ほとんどの場合、鑑定でどんな効果か分かるんです。いつもならその情報をもとに査定を行うんですが、こんなイレギュラーも発生するものなんですね」


 ふむ。

 この魔道具はダンジョン産ではなく、俺が一から作り出したもの。

 それゆえに鑑定がうまく起動しなかったということか。


 その推測を瀬名に伝えてみると、なぜか彼女は鳩が豆鉄砲を食らったように目を見開いていた。


「か、神蔵さんが自ら魔道具を製作した……ですか?」

「はい」

「な、なるほど……あはは」


 瀬名はぎこちない笑顔を浮かべながらそう答えたかと思うと、後ろを向いて何かを呟き始める。


「いやいや、探索者歴数日の子が魔道具を作れるなんてありえないし、嘘に決まっていますよね? これだけの魔道具が入手できる穴場があることを教えたくなくて情報を隠そうとしているとか、そういうことに決まってます……決まってるに違いありません!」


 ブツブツと一人で何かを呟き切った後、受付として見本のような笑みを浮かべてこちらに視線を戻す瀬名。

 今のはいったい何の時間だったんだろう?


「だ、ダンジョンで取れたものではないのなら、鑑定が発動しないのも納得ですね。しかしそうなると、このままではうまく査定ができませんので、困ってしまいましたね……」

「……ふむ」


 仕方ない。

 昨日の分と合わせて二度手間にはなるが――


「なら、実際に試してみますか?」

「いいんですか? 売却数が減ってしまいますが……」

「はい」


 既に昨日、検証と優斗たちのレベルアップのために数十個使用した後だ。

 いまさら1個や2個程度、誤差の範疇でしかない。


 そう思い肯定の言葉を返すと、瀬名はほっとしたように胸を撫でおろした。


「ありがとうございます、では実際に検証を行いましょう。ちなみにですが、この魔道具がどういった効果なのか神蔵さんは把握していらっしゃるんですか?」

「はい、効果は――」


 そこから簡潔に、注いだ魔力量によって威力が変わる火属性魔術が付与された攻撃型魔道具であることを伝える。

 すると瀬名は納得したようにこくりと頷き、


「かしこまりました。それでは少し準備がありますので、先に訓練場の方でお待ちください」


 そう告げるのだった。



 ◇◆◇



「大変お待たせいたしました」


 訓練場で待つこと10分強。

 ようやく準備を終えたのか、瀬名が幾つかの荷物を持って中に入ってくる。

 ――1人の少女を連れて。


 年齢は俺より1~2歳くらい下だろうか。

 肩まで伸びる黒髪に、凛とした目つきが特徴的だ。

 腰元には剣が携えられており、彼女が剣士職であることは一目でわかった。


 いったい彼女は何者なのか。

 そう疑問を抱く俺に気付いたのか、瀬名が説明を始める。


「彼女はCランク探索者のミツキさんです。今回の魔道具については、神蔵さん本人ではなく他の探索者に使ってもらうのが一番だと思ったので、彼女に協力してもらおうと思いまして」

「なるほど」


 俺が作った魔道具の検証を行う以上、当然の措置だろう。


 俺はミツキという名前らしい彼女に視線を向ける。


「神蔵 蓮夜だ。今回はよろしく頼む、ミツキ」

「……どうも、こちらこそよろしく」


 落ち着いた様子のミツキと話した後、俺は彼女に魔術石を手渡すのだった。

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