第20話 魔術石を試そう②

 俺が作った魔術石によって無事にギガアイスゴーレムを討伐した雫と、それを見届けた優斗たち。

 一通り叫んだ後も、彼らの興奮は収まらないようだった。


「レベル50のモンスターを一撃で倒す魔道具って……そんなもんありかよ」

「上級ダンジョンで稀に入手できるアイテムの中にはそういった物もあるって話だけど、それを新人シーカーが自前で作るなんて前代未聞だぞ」


 そんな二人の会話を聞き、雫が小さく零す。


「しかも私、ほとんど魔力使ってないよ……」

「「はあ!?」」


 大げさなリアクションを取る優斗と緋村。

 雫は呆然とした表情のまま、手に持つ魔術石を見つめ続けていた。


 するとその直後、魔術石がパラパラと音をたてながら崩れて落ちていく。


「あっ! れ、蓮夜さん、魔道具が突然壊れて……」

「ふむ、さすがに今の出力には耐え切れなかったか」

「ごめんなさい、売り物を壊してしまって……」

「いや、そういった部分も含めて実験したかったんだから大丈夫、むしろ感謝しているくらいだ」


 付与した術式が一つだけだったことからも分かるように、もともと一発限りの仕様だったわけだし、もっと言えば魔石の強度的にこうなるのも想定済みだった。

 売る前に限界を知れたことは、俺にとってプラス要素でしかない。

 複数回発動できる魔術石を作るには、さらなる強敵から魔石を取るしかないということも分かったしな。


「だから雫も気にしなくていい……雫?」


 責任を感じる必要はないと伝えたかったのだが、なぜか雫は虚空を見つめながら口をパクパクとしていた。

 金魚のモノマネにでもハマっているのだろうか。


 そんな風に考えていると、雫はロボットみたいにギギギと顔をこちらに向け、ゆっくりと口を開いた。


「ど、どうしましょう蓮夜さん……今のギガアイスゴーレム討伐で、私のレベルが5も上がっちゃってるんですけど……」

「……ふむ」


 魔道具で敵を倒した際、モンスターの魔力(地球こちらにおいては経験値)が発動者に吸収されるのは俺にとって常識だったため、特に驚くことではない。

 なので、


「よかったな」

「対応が軽くないですか!? 5レベルですよ! 一昨日の分を合わせたら8レベル! これだけの経験値を横取りするなんて、普通なら一生恨まれてもおかしくないくらいのことだと思うんですが!?」


 思ったことをそのまま返してみると、なぜか雫から怒られてしまった。

 相変わらず変わった奴だ。


 それにしても、8レベルか。

 確か雫は炎の獅子イグニス・レオと戦う前に、30レベルを超えたと言っていた。

 そこから合計8レベル上がっているということは、雫は現在、最低でも38レベル以上。

 今の俺が37レベルなので、そこから導き出せる解は一つ。


「なるほど、つまり雫は俺よりレベルが上になったのか。おめでとう」

「やっぱり何かがすごくおかしくないですか!?!?!?」


 なぜかは知らないが、雫はどうしても納得できないみたいだった。


 まあそれはさておき。

 盛り上がる雫をいったん放置して後ろを向くと、そこでは優斗と緋村が何かを期待した目で俺を見ていた。


「な、なあ蓮夜、今みたいなのって俺たちも使えたりしないのか?」

「見てたらちょっと気になってな」


 雫が簡単にギガアイスゴーレムを倒したのを見て、自分でも試してみたくなったということか。

 ふむ、これはこれでちょうどいいかもしれない。


 というのも、もともと攻撃系魔道具は前衛職も使うことが多い。

 自分では魔術を使えない分、外付けで補おうとするからだ。

 そういう観点で考えた場合、優斗たちにも協力してもらえるのはありがたい。


 それにそもそもの話、雫のレベルだけが二人より高くなってしまった今、今後のパーティー活動で支障をきたす可能性もある。

 実験に協力してもらった身としては、そこにも責任を持たなければ。

 具体的に言ってしまうなら、この二人のレベルもその水準まで上げてしまった方がいいだろう。


「他に問題があるとすれば……」


 荷物袋の中を確認する。

 超越せし炎槍アルス・フレイムを付与した魔術石は残り二つ。

 さすがにこれ以上、数を減らしたくはない。

 となると……こっちの方がいいか。


 素材袋の中から、もう一種類の魔術石を取り出す。

 こちらは付与した術式の変数のうち、火力に関する部分を発動者の魔力によって補う仕様にした適応型魔術石だ。

 こうする仕様にすることで、耐久力の低い魔石に対しても壊すことなく術式を付与できるのである。


「今のとは違って、注いだ魔力量によって火力が変動する魔道具なら構わないぞ。最大火力ではだいぶ劣るとは思うが」

「それでもいい! 十分すぎる!」

「使わせてくれ!」


 こちらならまだ在庫は数十個はある。

 本人たちもやる気十分なようだし、遠慮なく協力してもらうとしよう。

 仮に数が減ったとしても、また量産すればいいだけの話だからな。


 というわけで。

 俺はテンションの上がっている二人に対して、これからの方針を告げる。


「よし! それじゃせっかくだし、二人のレベルが雫に追いつくまでの耐久戦でもするか!」

「……は?」

「今、なんて……?」


 よく聞き取れなかったのか、聞き返してくる優斗たちに、俺はもう一度だけ方針とそうする理由を告げた。

 すると、二人は高速で首を横に振る。



「いや、無理無理無理無理! 雫とのレベル差を減らした方がいいのは理解できるけど、それはさすがに無理だって!」

「一日で8レベル上げようだなんて正気か!? それがどれだけ無茶なことか分かってるのか!? やめておいた方がいい!」

「そこまで遠慮しなくても」

「「遠慮じゃない! 本気だ!」」



 謙虚な奴らだなと思っていると、横で雫が「ほっ」と安堵の息を吐く。


「いきなり何を言い出すのかと思いましたが、私は巻き込まれなさそうでよかったです。短期間でのレベル上げなんて無謀ですし、死ぬほどしんどいのが目に見えてますからね」

「いや、せっかくの機会だし雫には火属性魔術の応用を教えてやるよ。二人がレベル上げしてる間、隣でぶっ通しでな。下手したらレベル上げより大変だけど……よろしく!」

「え、ええぇ!?」



 その後、いつまでも遠慮する3人と一緒に、10時間以上にわたって俺たちは氷風ひょうふう雪原せつげんのモンスターを討伐しまくった。

 途中からは魔道具の数が減ったので、素の能力で戦ってもらったりもしたけど。


 最終的には二人とも36レベルまでしか上がらなかったが、二人が限界そうだったのと、2レベル差ならまあ許容範囲ということで許しておいた。

 雫には簡単な術式の変数についてなんかも教えたのだが、こちらは習得するまでもう少し時間がかかりそうだ。


 何はともあれ、これにて【魔力凍結】入手と魔道具製作は無事に終了。

 疲れ果てて横たわる雫たちを眺めながら、俺は充実した1日が過ごせたなと満足するのだった。



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