第14話 大魔王、金欠になる

 俺が大迫に勝利したのを見て、ギャラリーが一斉に賑わい始める。



「マジかよ!? 新人シーカーが勝ったぞ!」

「すげぇけどいったい何が起きたんだ!? 光のせいで最後の方はほとんど見れなかったんだけど!」

「俺はこの目で見たぞ! 新人の攻撃を受けた大迫が、魔術の操作をミスって自爆したんだよ!」

「そういうことか! けど、まぐれとはいえ大迫に勝つとは大したもんだ!」



「……ふむ」


 彼らの反応を見るに、大迫が自滅したと思っている者がほとんどのようだ。

 まあ火炎の球ファイアボールによる発光のせいで俺が大迫の魔術を奪い取るところは見えてなかったみたいだし、そう勘違いしてしまうのも仕方ないか。

 もしくは、新人シーカーが実力で勝てるはずがないという常識から、そう思い込んでしまっているだけかもしれないが。


 いずれにせよ、重要なのは俺が勝利したという事実。

 彼らの感想や評価など、この際どうでもいい。


 俺は立会人を務める瀬名に視線を向ける。


「俺の勝利ということで構いませんね?」

「は、はい……大迫さんの気絶をもって、神蔵さんの勝利といたします!」


 瀬名の宣言を受けて、ギャラリーたちは最後にもう一度だけ盛大に歓声を上げるのだった。



 ◇◆◇



「なあ神蔵っていったか、お前うちのパーティーに入らないか!?」

「こら抜け駆けすんじゃね! 俺らが先に誘うんだよ!」

「よく大迫さんの攻撃をあれだけ躱し続けられましたね!? どうやったか教えてくれませんか!?」


 決闘後、しばらく俺の周りには称賛やらパーティー勧誘やらを行うギャラリーがが集まってきていた。


 その全てに対し「パーティーには興味がない」「後にしてくれ」と返し、集団を抜けアイテム売買の受付に向かう。

 するとそこには、既に疲れ果てた様子の瀬名が座っていた。


「何はともあれ、これで転移結晶を売ってもらえるんですよね?」

「は、はい……大迫さん相手にあれだけの立ち回りができるくらいですし問題もないでしょう……ごほん」


 さすがのプロ意識というべきか、瀬名は咳払い一つで受付に相応しい満面の笑みを浮かべる。


 そして告げた。



「それでは中級ダンジョンの転移結晶ですと、一つにつき100万円からとなっています。どれになさいますか?」

「……え?」



 瞬間、俺の中で時が止まった。


「100万?」

「ええ、100万円からとなっています」

「……ドッキリで実は1万円から~とかじゃなくて?」

「は、はい。転移結晶はレアアイテムですので、最低でもそれくらいはしますが……」

「ちょっと待った」

「神蔵さん!?」


 受付に背中を向け、慌てて財布の中を確かめる。

 そこにあったのは五千円札が1枚に千円札が3枚、それから小銭が幾つか。

 ……100万円には全く届かない額だった。

ってか一万円にすら届いてない!

 

「なんって、悪夢だ……!」


 この事実に俺は恐れおののいた。

 だけど仕方ないじゃないか。

 魔王の記憶を取り戻した数日前まで、俺はただの一人暮らし大学生。

 そんな大金を持ち合わせているはずがなかった!


 世知辛せちがらい世の中に、俺は絶望した。


 しかしこれはかなり厄介な問題だ。

 このままでは目的のダンジョンを探索することができなくなる。

 いったいどうしたものか……そう思いながら受付の様子を窺うと、後ろに置かれてある魔導書に目がいった。


 俺はそのまま、抱いた疑問を口にする。



「その魔導書ってもしかして……」

「こちらですか? こちらは火属性の初級魔術適性Lv1となっています」

「値段に150万って書かれてあるんだが」

「魔術適性の魔導書は転移結晶以上にレアですから、高額で販売させていただいております」

「……ちなみに初級魔術適性Lv5の魔導書の場合はいくらになる?」

「滅多に出回ることはないですが、400万円くらいでしょうか……」

「…………」



 それを聞いて、俺は昨日、優斗から言われた言葉を思い出した。


『いや、そりゃ魔導書をくれるなら大歓迎なんだが……いいのか? 蓮夜自身に使えないにしても、売ればかなりの額になると思うけど』


 確かに言われていた!


 くそっ、あの時どれくらいの額になるか聞いておくべきだったのだ。

 魔王大失態。だからといって、今から返してと頼み込むのも魔王的プライドに反する。

 というかそもそも連絡先知らない。


 となると、他に方法は何かないだろうか?

 ……そうだ! 荷物袋の中にはブラッディゴーレムと炎の獅子イグニス・レオの魔石がある。

 これを売ればそれなりの額になるんじゃないか?


 そう思った俺は、さっそく査定してもらうことにする。


「これとこれの売却価格を教えてほしい」

「は、はい。ざっくりとですが、こちらが5万円で、こちらが15万円程度になると思います」

「くっ!」


 ブラッディゴーレム(5万円)と炎の獅子(15万円)を合わせても、半分にすら届かない!

 これならいっそのこと、魔石を加工して魔道具にしてから売った方が稼げるんじゃ――



「――そうだ。その手があるじゃないか」



 ――そこで俺は、ある重要なことを思い出した。

 とある事情からうっかり忘れてしまっていたが、エルトールダンジョンにも一つだけ、今の俺にとって役に立つ報酬が残っているかもしれない。


 そうと決まれば!


「また来ます!」

「ちょっ、神蔵さん!?」


 俺は瀬名に別れの挨拶をした後、急いで探索者ギルドを出て、その足で再びエルトールダンジョンに向かった――



 ――しかし、



意気揚々いきようようと出てきてしまったが、もう日は落ちてるし、よくよく考えると残存魔力量も少ないな。ダンジョンに向かうのは明日でいいか」


 そんなこんなで翌日、今度こそ俺はエクトールダンジョンに挑戦するのだった。

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