第12話 探索者ギルド
エルトールダンジョンを出た俺は、その足で探索者ギルドにやってきていた。
ここにやってくるのはこれが初めてだ。
期待を抱きながら、扉を開けて中へと入っていく。
すると、活気のある光景が勢いよく目に飛び込んできた。
「おおっ、これは……!」
様々なアイテムを売り買いするシーカーたち。
訓練場で模擬戦を行うシーカーたち。
併設した待合所で情報収集、パーティー募集を行うシーカーたち。
異世界では決して見ることのなかった景色がそこにはあった。
その盛り上がりを見て、俺は興奮が隠せなくなる。
「こんな光景が、異世界にも広がってくれていれば……!」
そう思わずにはいられない。
ただまあ、無いものねだりをしていても仕方ない。
今この光景が生まれていること、そのことに心から感謝しよう。
そんなことを考えながら受付に向かうと、受付嬢が微笑みながら応対してくれる。
「こんにちは。本日はどういったご用件ですか?」
「中級ダンジョンの転移結晶を購入したい」
「かしこまりました。ただ転移結晶は購入制限のあるアイテムですので、確認のため探索者カードをお見せいただけますか?」
「どうぞ」
言われた通りに探索者カードを提示する。
すると、すぐに受付嬢は表情を強張らせた。
「神蔵さんはまだシーカーになったばかりなんですね。申し訳ありませんが、転移結晶は初級ダンジョンを攻略した人にしたお売りできないことになってるんです」
「ああ、なるほど」
受付嬢の言葉には心当たりがあった。
というのも、ダンジョン内で入手できる転移結晶が誰にでも発動できる仕組みだと、実力が備わっていない者が上位のダンジョンに挑む可能性がある。
だからこそ、ボス討伐によって実力で手に入れた個人専用の転移結晶を持っていなければ、他の転移結晶も発動できないという仕組みになっているのだ。
というか、そうしたんだけど。魔王時代の俺が。
受付嬢は俺の探索者歴を見て、まだ専用の転移結晶を持っていないと思ったのだろう。
そう判断した俺は、荷物袋の中から転移結晶を取り出した。
「それなら問題ありませんよ。既に初級ダンジョンのボスも倒していますし」
「……へ?」
受付嬢は俺の転移結晶を見て、目を丸くしていた。
何はともあれ、これで他ダンジョンの転移結晶も買えるだろう。
と、俺がそんな風に考えていると――
「って、えええぇぇぇぇぇ!?」
――どうしたのか、受付嬢は盛大に驚愕の悲鳴を上げていた。
「し、しし、シーカー歴たった3日で初級ダンジョン制覇!? そんなことありえるわけが……他人のもので騙そうとしてる? でもでも、神蔵さんが触れて転移結晶の光が強まってるってことは、本当に神蔵さんのものってことだし……」
後半にいくにつれ、何かをボソボソと呟く受付嬢。
そして、
「神蔵さん!!!」
「あ、はい」
突然、ずいっと身を乗り出してきた受付嬢の呼びかけに応じる。
「こ、この転移結晶はどうやって手に入れたんですか!?」
「普通に昨日、ダンジョンボスを倒してだけど」
「ありえません! 日本の最速記録保持者である
ふむ、素直に答えたというのに受付嬢の興奮は収まらない。
そこまで規格外のことをやってしまったのだろうか。
「おい、何があったんだ?」
「瀬名さんがあれだけ取り乱してるの、初めて見たな」
そんな俺たちのやり取りが騒がしかったのか、いつの間にか周囲には何人ものシーカーが集まっていた。
ところで、どうやらこの受付嬢は
その後、事情を把握したらしいシーカーたちが、ざわざわと話し始める。
「シーカーになってたった三日でボスを倒した? 冗談だろ?」
「大方、他のパーティーに寄生したとかじゃないのか?」
「ああ、なるほど。そんな実力で高望みして中級ダンジョンに挑んだところですぐに死ぬだけだろうけどな、自殺志願者かよ」
ふーむ、ただ転移結晶を買いに来ただけだったのに、かなりの騒ぎになってしまった。
いったいどうしたものか。
視線を前に向けると、受付嬢――瀬名も頭を抱えていた。
「ど、どうすれば……転移結晶を持っている以上、規則的に購入は問題ありませんけど、探索者歴三日でなんて前例がありませんし……」
困惑する瀬名。
どんな言葉をかけようか悩んでいると、新しい声が喧騒の中に響いた。
「おいおい、随分とナメたことを抜かす奴がいんじゃねえか」
その声が聞こえた瞬間、周囲に集まっていたシーカーたちが道を開ける。
その中心を、恵まれた筋肉質な肉体が目立つ、30代中ごろのイカツイ表情の男が歩いてくる。
「おい、あれってまさかCランク探索者【初心者潰しの
「ああ、なんでも気に入らないシーカーを次々引退させてるって噂だぞ」
「この前レベル60を超えたって言ってたっけ? あの性格で実力だけはあるんだから困ったもんだよな……」
ご親切にも、男の情報を話し合ってくれる外野陣。
ちなみに彼らが言っているランクというのは、レベルを基準とした大雑把なシーカーの分類だ。
ざっくりとだが、
1レベル~15レベルがEランク。
15レベル~40レベルがDランク。
40レベル~70レベルがCランク。
70レベル~100レベルがBランク。
100レベル~がAランク。
Aランクの中でも飛びぬけて強い奴は特別にSランク。
って感じで分かれていたはずだ。
その基準で考えると、俺や雫たちはDランクで、大迫と呼ばれたあの男はCランク――その中でも上位に位置するシーカーなのだろう。
大迫は自分のことを語る外野に鋭い目を向ける。
「てめぇら、今なんか言ったか?」
「「「い、いいえ!」」」
外野が震えて口を閉ざすのを見届けた大迫は、そのまま俺の前にやってくる。
「おい坊主、話は聞こえたぞ。随分とふざけたことを言ってやがったな?」
「……ふむ」
どうやら大迫は俺に用があるらしい。
「ふざけたこととは?」
「誤魔化してんのか? テメェが言ったんだろ、シーカーになってたった三日で初級ダンジョンをクリアしたって」
「ああ――事実だ」
「ッ」
まっすぐ視線を返しながらそう答えてやると、大迫は顔を強張らせてわずかに後ずさった。
しかしすぐ、表情をもとに戻す。
「俺様がお前を試してやるよ」
「お、大迫さん、待ってください!」
「そいつはできねえ相談だ。それにアンタらにとっても悪くない提案のはずだぜ。規則なんざ置いといて、とにかくコイツに初級ダンジョンを突破できるだけの実力があるかどうかが分かればいいんだろ?」
「そ、それは確かにそうですが……」
慌てて止めようとする瀬名を制した後、大迫は再び俺を見る。
「そういうわけだ。テメェの言葉が嘘かどうか俺様が試してやる。今すぐ嘘でしたって謝るなら許してやるが……どうする?」
「……ほう」
これはこれは。
流れに身を任せていたら、なかなか面白い展開になった。
まさかここで挑戦状を叩きつけてくる奴がいるとは。
大迫という名前らしいこの男。
レベルが60を超えているという話通り、確かに
今の俺が戦ったら苦戦は必至だろう。
だが――
「いいだろう、かかってこい――身の程というものを教えてやる」
「ッ、テメェ……ッ!」
挑戦状を叩きつけられて逃げるなどという選択肢、初めから俺には存在しない。
かくして、俺と大迫による決闘が行われることになるのだった。
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