第10話 討伐報酬

 仲間と協力し炎の獅子イグニス・レオを倒したという事実に歓喜している俺の前で、放心状態から返ってきた優斗たちが口々に感想を零す。


「嘘だろ、本当にたった一人で倒しちまいやがったぞ」

「凄まじい火力だったな」

「うん、まるで夢でも見てるみたい……」


 その後ひとしきりの感想を言い終えた後、優斗がハッとした表情で俺を見た。


「いろいろと気になることはあるが、まずは礼を言わせてくれ。ありがとう蓮夜、お前のおかげで助かった!」


 そう言って頭を下げる優斗。

 続けて緋村や雫もお礼を言ってくる。


 そんな三人に対し、俺は顔を上げるよう手で促しながら言った。


「気にしないでくれ。それに……仲間で助け合ってこそのダンジョン攻略だろ?」

「あ、ああ」


 決まった。

 そう確信してのセリフだったのだが、なぜか優斗たちの反応はどこか鈍かった。



「言うほど助け合ったか……?」

「いや、一方的に助けてもらった気が」

「私は魔術を使いこそしたけど、最後まで何が何だかって感じだったし……」



 顔を見合わせながら、ボソボソと何かを呟き合う三人。

 きっと仲間と協力することの大切さを改めて嚙み締めてるのだろう。

 そう判断した俺は、満足したまま視線をボス部屋の奥に向けた。


 するとそこには、先ほどまで存在しなかったはずの巨大な魔水晶が浮かび上がっていた。

 あれは攻略者に報酬を与えるためのもので、ボス討伐と同時に出現する仕組みになっている。


「ほら、いつまでもそんなところで話してないで、報酬をもらいにいこう」

「は、はい!」


 元気よく返事する雫たちを連れて魔水晶のもとにたどり着く。

 俺が炎の獅子イグニス・レオにトドメを刺したということで、代表して魔水晶に触れる。

 直後、ボス部屋いっぱいにシステム音が響き渡った。



『エクストラボス【炎の獅子イグニス・レオ】の討伐を確認しました』

『通常報酬に加え、特別報酬が与えられます』



 システム音が鳴りやむと同時に、俺たちの前に四つの透明な魔石――転移結晶が出現する。

 この転移結晶は、ボス部屋を含めたダンジョン内の幾つかの場所で使用でき、中級ダンジョンへの移動や地上へ帰還することが可能となる。


「おおっ、これが転移結晶か!」

「これでようやく俺たちも中級探索者シーカーの仲間入りだな」

「半年間すごく頑張った分、感慨深いね」


 転移結晶を手にした雫たちは、これまでの旅路を噛み締めるようにしてそう呟いていた。

 俺? 俺はまあ二日目だし……うん、特にはないかな。

 いや、今日の協力プレイ自体は魔王時代に経験しなかったことだし、なかなか有意義には思ってるけど。


「っと、そんなことより――問題はこっちだな」


 転移結晶の他にもう一つ、攻略によって与えられたそれ・・を手に取る。

 赤色の魔導書――すなわち特別報酬だ。

 せっかくだしありがたく頂きたいところなんだけど、確か炎の獅子イグニス・レオ討伐時の特別報酬に設定していたのは――


「うそ……火属性の初級魔術適性Lv5!? すっごくレアな魔導書じゃないですか! すごいです蓮夜さん、さすがエクストラボスを倒しただけはありますね!」

「あ、ああ」


 突然、ずいっと身を乗り出してきた雫が、魔導書を見て興奮したように話しかけてくる。

 そのテンションの上がり具合に、俺としたことが思わず圧倒されて後ずさってしまった。


 というか、


「よく中身を読まずに、魔導書の内容が分かったな」

「え? それはもちろん、鑑定を使ったからですけど……」

「ふむ」


 言われてみれば、炎の獅子イグニス・レオと遭遇した時にもそんなことを言っていたか。

 ダンジョン配信を視聴している際にそういったスキルがあることは知っていたが……ステータスがない前世では存在すらしなかったスキルだ。

 そのせいで、うっかりこれまでそんなスキルがあることを忘れてしまっていた。


 しかし、モンスターの情報だけでなくアイテムの内容まで見抜けるとは……


「鑑定か……かなり便利なスキルみたいだな」

「もちろんですよ! パーティーには鑑定持ちが最低でも一人は必要だって言われるくらいなんです、から……」


 語尾にいくにつれ、なぜか勢いを無くしていく雫。

 さらにどういうわけか、俺に対して信じられない者を見たかのような視線を向けてくる。


「も、もしかして蓮夜さん、ソロなのに鑑定スキルも持たずにこれまで攻略してたんですか!?」


 どうやら、鑑定は必須スキルらしい。


「まあそうだけど」

「何を考えてるんですか!? 初見のモンスターやトラップに遭遇した時に正しい判断をするためにも鑑定は絶対に必要なんですよ! これまでどれだけ危険な探索を続けてきたんですか!?」

「続けてきたっていうか、今日で二日目なんだが」

「そうでした! それであの実力……もう何もかも意味が分かりません!」


 くるくると目を回し、混乱する雫。

 見ているだけでなかなか面白い。

 ここまででも何となくわかっていたことだが、落ち着いた見た目に反してなかなか愉快な性格のようだ。


 ……そうだ!


 いいことを思いついた俺は、あたふたと動き回る雫の手に魔導書を差し込む。

 さすがに違和感に気付いたであろう雫は、それを見た後、ギギギギとこちらを見る。


「あ、あの、蓮夜さん、これは……?」

「あげる」

「ええッ!? でもでも、炎の獅子イグニス・レオを倒したのは蓮夜さんですし、魔導書は一人にしか使えないんですよ!? さすがに私が受け取るわけには……」

「いや、火属性ならもう上級適性まで持ってるから俺はいらない」

「じょうっ!?」


 処理能力が限界を迎えたのか、雫は頭から蒸気を発しながら崩れ落ちていく。

 さすがにやりすぎてしまったかもしれない。

 楽しいから反省も後悔もしてないけど。


 そんなこんなで、行動不能中の雫はおいといて優斗たちに視線を向ける。


「そういうことなんだが、お前らもいいか?」

「いや、そりゃ魔導書をくれるなら大歓迎なんだが……いいのか? 蓮夜自身に使えないにしても、売ればかなりの額になると思うけど」

「む」


 そう言われたら少し惜しくなってしまうが、今さら取り下げるのは魔王的プライドに反する。


「ん? あれは……」


 そこで俺はいいものを発見する。

 炎の獅子イグニス・レオが消滅した場所に、ポツンと赤色の魔石が転がっていたのだ。

 体は全て蒼炎によって焼き尽くされたが、最も硬質な魔石だけは耐えきれたようだ。

 思い返してみれば、ブラッディゴーレムを倒した時も同じように魔石だけが残り譲ってもらったっけか。


 俺はその魔石を拾い上げ、優斗に見せる。


「その代わりと言っちゃなんだが、この魔石は俺がもらっていいか?」

「ああ、当然だ」


 そんなこんなで、報酬の取り分にしては一件落着。

 残された問題があるとすれば……


「それで、ここからはどうする? さっそく転移結晶を使って中級ダンジョンに挑むか?」


 そう尋ねると、優斗はいっそう疲れた表情をみせ、


「……いや、最下層までに来るのとボス戦で、さすがに疲労もダメージも溜まりすぎた。今日は帰って休むとするよ」

「……まあ、それが最善だな」


 そういう俺も、炎の獅子イグニス・レオ討伐で魔力をほとんど使い果たしてしまった。

 優斗たちと同じように撤退するのが一番だろう。



 その後、ようやく混乱から復帰した雫が、申し訳なさそうな表情で問いかけてくる。


「その、蓮夜さん、何度も確認するようで申し訳ないんですが、本当にいいんですか? 魔導書をもらっちゃって」

「ああ。魔導書からの適性獲得は人によって失敗することもあるだろうが、さっき雫の魔力を扱った感じ的には問題ないはずだしな」

「気になっていたのはそこではないんですが……でも、蓮夜さんがそう言ってくださるなら、ありがたくいただきます」


 そこで一度、雫は言葉を止めた後、少しだけ頬を赤らめながら満面の笑みを浮かべて――


「ありがとうございます、蓮夜さん!」


 ――そう告げるのだった。



 その後、俺たちは優斗や緋村の「雫にもとうとう春が来たか」「あのお転婆娘にこんな日が来るとはな……」というよく分からない感想を聞きながら、転移結晶で地上に帰還するのだった。



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 LvUP↑

 神蔵 蓮夜 20歳 レベル:26

 職業:なし

 攻撃力:89

 耐久力:87

 速 度:90

 魔 力:93

 知 力:93

 スキル:上級魔術適性(火)Lv2


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