記録1:祠と解けない雪⑦

 初芽の反応が予想通りで面白かったのか、冴子は大笑いした。

「あっはっは。いや、すまん。怒るなよ。真面目に話すさ。初芽は、この洞窟を見てどう思った?」

「どうって……自然にできた洞窟には見えませんでした。人の手で―」

「そう、まさにその通りだっ! この洞窟は、人工的に作られたものなんだよ。その目的は、祠を人目から遠ざけるためだ。元々はこんな流れだったんだろう。

 この集落には、昔から祠があった。初めて雪が降った日、当然祠の屋根にも積もるよな。それから数日、どれだけ経っても雪は解けない。しかし、他の場所に積もった雪はとっくに解けている。そこで、原因は雪ではなく、祠にあると考えた。そして、祠と解けない雪には重要な意味があると信じた。

 祠は道にぽつんと置いてあるだけだ。人間や動物に悪戯されたり、台風の影響を受けたりしたら、壊れてしまう。だから、祠の保護や隠すことを目的にして、洞窟を作った。

 壁はつるつるで、床に障害物はなかっただろう。きっと、『灯りを点けずに歩く』を前提に作られたんだ。壁を伝って歩けるように、物につまずかないように。一本道なのも、そのためさ。さっきの老人達は、小さな懐中電灯しか持っていなかった。事情を知っている集落の人間が、『手元しか照らせないライト』で真っ暗な洞窟に来たんだ。間違いないだろう」

 ここまでいっきに喋り終えると、冴子は自慢げな顔で、腰に手を当てた。言葉を遮られた初芽は、その様子を見て文句を言うつもりだった。しかし、彼女の推理が完璧すぎるせいで、何の言葉も出てこない。

 改めて、冴子の頭脳を目の当たりにした。そんな初芽には、質問することしかできない。

「どうして、そこまで分かったんですか」

「言っただろう。根拠はこの洞窟だ。洞窟には、人工的に作られたと分かる痕跡が多い。そして、祠は洞窟の最奥に置かれている。わざわざ洞窟を作り、その中に祠を入れた。集落での祠の重要度は、かなり高いと考えられる。それが分かれば、祠とその上の雪に注目するだけだ。

 さっき雪を触ったが、体温で解けることはなかった。この集落に、雪は積もっていなかったな。解けない雪が降ってきて、それが住民にとって特別な意味を持つのなら、集落中に残っているはず。しかし、雪があるのは祠の屋根とスノードームの中だけだ。だから、祠に積もった雪にだけ、解けない効果が現れたことになる。これにより、祠に特別な力が宿っているのだと推測できた。一度祠に積もった雪は、永久に解けないという効果を得る。だから、スノードームに入れても人が触っても、解けないんだよ」

 いつもは人を振り回すだけの先輩が、ここぞという時に賢さを発揮してくる。初芽は、尊敬の気持ち半分、困らせてみたいという悪戯心半分で、次の質問をした。

「どうして、スノードームに雪を入れる必要があったんですか?」

「分からん! まっ、本来の使い方で確かめれば、解明できるさ」

「え!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る