記録1:祠と解けない雪⑥
「こ、これは……スノードーム、か?」
「そう、みたいですね?」
お互いに顔を見合わせ、鏡合わせのように首を傾げる。祠とスノードームに、繋がりを見いだせない。
さらに不思議なのは、スノードームの中が見えないことだ。スノードームと言えば、台形の土台に、半円形の透明なドームがくっついている。そして、土台の上には小さな人形が置かれる。水と洗濯のりで、雪の結晶型やキラキラした紙を浮かせる。スノードームを逆さにすると、中の紙がドームの上部に浮き上がる。元に戻すと、人形の上に紙が舞う。スノードームとは、こうして楽しむ雑貨だ。中が見えないのでは、意味がない。
再度、スノードームに視線を移す。ドームの九割が真っ白な何かに覆われていて、人形が一切見えない。普通なら少しの紙片があるのみで、真っ直ぐにしようが逆さにしようが、中の人形は見える。人形が覆われている造りは、どう考えてもおかしい。飾りとして、機能していない。
数十秒は、ただただ黙って立っていた。しかし、冴子はすぐに目を輝かせ、スノードームを持ち上げる。そのまま右回りに一回転させた。特に変わったところがないのか、顎に手を当てて悩み始める。
「う~む。『人形が白い何かに埋まっていて見えない』こと以外は普通だな。白い何かは雪の見立てか? 人形を入れず、雪が積もっている景色だけを楽しむ置物、という可能性もあるな」
「確かにそうですね。それと、中の白い物体。これって、本物の雪に質感が似ていませんか? まぁ、本物の雪が解けずに残っているわけないんですけど」
初芽の言葉で、冴子は何かに閃いたらしい。祠に近寄って、懐中電灯で照らしながら屋根を凝視する。続いて、スノードームを目前まで持っていき、同じように凝視する。
冴子の行動を見て、初芽もすぐに理解した。
「もしかして、二つは同じ雪ってことですか?」
「ああ、多分な。
本物の雪なら、いずれは解ける。そして、Y県は積雪の多い地域ではない。その上、今はまだ秋だ。それなのに、祠の上にもスノードームにも雪は残っている。偽物が置かれているだけか? いや、違う。これはどう見ても、触っても、本物の雪だ。……う~む。一体、住人はいつどこで手に入れたんだろうな」
冴子は祠の屋根に手を伸ばし、人差し指で雪を掬う。体温に触れても、一向に解ける気配がない。それなのに、触感は本物の雪と全く同じだった。造り物ではない。
雪を祠の屋根に戻し、冴子は考え始める。お喋りな彼女が黙ったのなら、初芽も黙るしかない。どうせ、話しかけても答えはない。
数分後、冴子はいきなり初芽の肩を揺すった。彼女の顔には、説明したくて仕方ないと書いてある。勢いよく揺すられたせいで、初芽の頭はクラクラした。しかし、輝く瞳を向けられると、文句の一つも出てこなくなる。これは、冴子の不思議な魅力の一つなのだろうか。
話を聞く意思を告げるため、初芽は小さく頷いた。冴子も満足そうに頷き返す。
「良いか。雪が解けないのは、祠の力が影響しているからだ! その根拠は、この洞窟だよ」
「え? 洞窟……ですか?」
予想外の言葉に、初芽は首を傾げる。まさか、洞窟の中で冷やされているから雪が解けない、とでも言うつもりなのか。
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