第18話 盗賊団の襲撃
シャールたちは順調に旅を続ける。
帝国追放刑に処されたという布告より一日先行できている意味は果てしなく大きかった。
住民も布告を知らなければシャールを忌避するはずがない。
食事をしたり、必要な消耗品を買ったりすることができるだけで旅の快適さは全然違った。
侮りを受けずにすむということも負担の差が大きい。
シャールやカチュアは完全武装しているとはいえ、総勢七名のうちの男性は年寄りと少年しかいない。
何をしても罪に問われないとなれば、魅力的な女性に邪な思いを抱く輩はどこにでもいるのだった。
実際、ブラン帝国南部の端の方にさしかかった際には、その辺を根城にする盗賊団の襲撃を受ける。
総勢二十名ほどの集団は道を塞いで最初にナナリーに目を付けた。
「金目のものと、そこの色っぺえ姉ちゃん置いていきな。俺様が腰が抜けるほど可愛がってやるぜ」
髭面の盗賊団のボスがゲハゲハ笑う。
ナナリーが体を強張らせた。
小六は落ち着かせるように手をポンポンと叩いてやる。
盗賊団の部下がボスに声をかけた。
「あっちの二人もあんな格好していますが女ですぜ」
「おう。確かにそうだ。よーし。お前ら。俺は気前がいいからな。あっちの二人はお前たちの好きにしていいぞ。勢いあまって殺しちまわないようにな」
「俺はあっちの栗毛がいい」
「赤毛の方は澄ました顔してるが、ああいうのに限って乱れるんだぜ」
そんな勝手なことを言う中に別の主張も混ざる。
「俺はあの黒髪の男の子が欲しい」
「……ああ? まあ、好きにしろよ。じゃあ女の方は権利放棄な」
小六がうええ、と声を漏らすと同時に戦いの火蓋が切られる。
シャールが乗馬に合図を送ると前に出て縦横無尽に馬上槍を振るい始めた。
本来、馬上槍は助走をつけた馬の突進力を乗せて、金属鎧ごと相手をぶち抜くか吹き飛ばすためのものである。
小脇に抱えて使うもので、振り回して使う重さと長さではなかった。
盗賊団もそのことを理解しており、助走する余地がないところまで接近できれば、威力は軽減できると考えている。
シャールを取り囲んだ連中はすぐにその考えは甘いと思い知らされた。
さすがに片手では無理だが、馬上のシャールは両手で槍を振り回す。
ブンと音がしたと同時に鉄の塊が頭上から降ってきて、不幸な盗賊の頭部を簡素な兜ごと叩き潰した。
その反動を利用して槍を持ち上げると反対側を薙ぐ。
剣はなんの防御にもならず鋭い槍先に喉を裂かれて、三人が噴血をまき散らし倒れた。
シャールは脚の締め付けだけで馬を制御し、次の賊へと迫る。
この間、老騎士たちは動かない。
下手に追随するとシャールの動きを制約するだけだということをよくわきまえている。それにこの程度の連中にシャールが遅れを取るはずがない。
一番戦闘力が劣ると目している小六とナナリーを中心に鉄壁の円陣を組んでいた。
そして、カチュアはシャールより少し遅れて参戦する。
シャールの後ろに回ろうとする小賢しい者を斬り捨てるのが役割だった。
口の中で呪文を唱えると、手にした剣を鋭く振るい賊の腕を斬り飛ばす。
いつものカチュアの戦いぶりを知っている者が見たら、初動が遅いと思ったかもしれない。
盗賊の一人が小六が欲しい、と発言した際に思わず妄想に耽ってしまったのが原因だった。
髭面のおっさんに襲われて身悶えする小六を想像して興奮する。
この世界では宗教上の理由で男色は一般的ではない。
それにも関わらず、カチュアが容易に想像できたのには理由があった。
何かの弾みで小六のいた世界では、武将が美少年を侍らせ情を交わすことがままあり、衆道と呼ばれていることを知ったからである。
今まで知らなかった世界が広がった瞬間だった。
一応カチュアも良識がある人間なので、実際に小六が責められるところを見たいわけではない。
妄想が現実化しないために剣を振るった。
その戦いの一番外側では狼のアーレが忙しく走り回り、盗賊たちのうちの飛び道具を持っている者を優先的に無力化していく。
素早く地を駆けるアーレの姿をとらえることができないうちに、指をかじられ、目を爪で傷つけられた。
戦いが始まって十を数える間に、盗賊団はほぼ壊滅している。
最後にボスが捨て身でシャールに挑み、あえない最期を遂げた。
「バケモノめ……」
相手の実力を正確に測れずに襲った盗賊団に非があり、自業自得と言えるのだが、その代償はあまりに大きい。
生き残った盗賊たちも根城に案内させられ、今までに奪ったものをすべて供出させられる。
捕らえられていた者を開放して、近くの村まで送っていった。
妻や娘を取り戻した村人は喜んだが、同時に生き残った盗賊たちへの憎悪を燃やす。
シャールは求めに応じて生き残りたちの身柄を村人に任せた。
盗賊たちがため込んでいたものの大半も合わせて返還すると一行は村を後にする。
もっと遠くの出身で旅の途中に盗賊団に囚われていた娘たちは次の大きな町まで連れていった。
縁者を聞き出し、金品を与え馬車に乗せて送り出してやる。
その後、これからの旅に必要な買い物を済ませたところで、帝国の旗を背負った騎士数名が街の役場の建物に向かって駆けていくのを目撃した。
どうやら、ついに帝国追放刑となった布告文を知らせる使者が追いついてしまったようだと、シャールはすぐに町を離れることにする。
山賊のせいで余計な時間を取られたが、その生き残りから目立たずに国境を越えられる場所を聞き出せていた。
町から国境までは馬で半日の距離である。
街道を外れて森の中を進み密かに国境を越えた。
隣国は帝国の友好国、平たくいえば属国であり、国境警備はそれほど厳重ではないことが幸いする。
結局、帝国追放刑による実質的な損害を受けずに帝国から出国することができた。
シャールは胸をなでおろすと同時に、この僥倖を陰で演出した者に思いをはせる。
しかし、誰の差し金によるものかは想像もつかなかった。
見知らぬ敵は脅威だが、密かに支援してくれる存在はおそろしくはない。
どうしても追及の手は鈍くなる。
小休止の際にそれよりももっと差し迫った疑問を解消することにした。
「ナナリー。あなた、本当は私たちの言葉分かっているでしょ?」
シャールはブラン帝国の言葉で話しかける。
首を傾げたナナリーはよく分からないという顔をした。
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