第20話 追憶:告白
その出会い以降は、少しずつ彼女のことを知っていった。そして、多分、彼女も私のことを知っていってくれた……はずだ。少なくとも、出会った当初よりは。
私がその間で見抜いた彼女の本質は、一言で言えば、『ずるい人』ということだった。
勉強、運動、人間関係、先生への態度。それらは、問題にならない程度に卒なくこなす。それでいて、少し強めの天然で抜けているところもあって、それが良いスパイスとして機能している。
勉強しか取り柄のない私とは違った。
ただ、別に羨ましいとかは思わなかった。それは多分、それらが天性のものではなく、計算に則った行動だと察することができたからだ。
いつ、それに気づいたのかは覚えていない。ただ、言動の節々と、あとは表情と表情の変わり目に宿る違和感がきっかけだった。そのブリッジ映像に彼女の本質が映った気がした。
『計算づくの関係』。それをわかってなお、私は彼女から離れなかった。
それは、何となく彼女なりの苦労とそれを隠す辛さが見え隠れしていたからだと思う。
「ねえ、莉子。ここの公園覚えてる?」
「え?」
気がつけば、結構離れたところまで歩いていた。目の前の公園には確かな見覚えがある。
「ここは……ゲーセンの帰りに寄ってたあの……」
「正解、第三公園だよ。まぁ、最近はめっきり行かなくなっちゃったけど」
私は、ここの公園に来なくなった理由を知らない。知らず知らずのうちに、梨珠が足を運ばなくなったのだ。その時は特に気付かなかったけど、今になってみれば少し気になる。
「どうして……」
気付かぬうちに声に漏れてしまっていた。
「どうして、か。それは、私達が少し生き方を変えたからなのかもね」
そう言って彼女は、とある一軒家を遠い目で見ていた。そこで、あることを思い出した。
赤羽美香。女子中心に私のクラスを牽引する中心人物。彼女らのグループが下校の際に、この講演の方向に歩いていくのを見たことがある。
もしかしたら、今梨珠が見た家は彼女の家なのかも……。そして、その家の近くの公園に近付かなくなり、私としか遊ばなくなったということは──。
当時の私は若かった。年齢で言えばまだ今でも若いが、そういう意味じゃない。まだ青く、未熟だったのだ。
私がもっと早くに察していれば、あんなことにはならなかったのに。
公園に入り、梨珠はブランコに腰掛ける。いつもそうしたように、私もその隣に腰掛けた。
「さーて、何を悩んでるのか言いなさい」
彼女は顔をこちらに向けてそう言った。その顔は笑顔でも心配でも無く、無表情に近かった。だけど、彼女なりの優しさをそこに感じた。
「何も悩んでない……」
「嘘おっしゃい! 何も悩んでいないような奴はそんな顔しないわよ。あんた、何か隠してるでしょ」
「隠して……ない」
本当に隠してはない。ただ、本当のことを言っても信じてもらえないと思っているだけで──
「信じるわよ。あんたの言うことなら、何だって信じるわ」
「え、なんで。心の声、読まれ……」
「そんなもん、読めるわけないでしょ! でもそのくらいわかるの! どれだけ私があんたといっしょにいたとおもってるのよ!」
「梨、梨珠……」
「やっとこっち向いたな、梨珠」
彼女の眼はまっすぐ私の目を見つめていた。一度私の眼を捉えた彼女からは、もう逃げられないような気がするから不思議だ。
「ほんと、ずるいよ……」
やはり彼女はずるい。凛々しい目も、ふとした時に見える八重歯も、大事な時にだけ使う男口調も全部。
「ほら。全部話してみなさい。そもそも、私が冗談以外であんたの話信じなかったことなんてなかったでしょ?」
「うん……」
そして、私は今世二度目の記憶の全吐き出しをする。
今度は、ウィズダムの時よりも、深く、思い告白だった。
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