第3話 勇者の姉となったその日


 7年が経った。


 そして、成人の式典は、明日に迫っていた。

 セルフィリアがエティに手をあげ、国外追放されるという考えたくもない未来。それに目を背けないようにと思いながらも、私の目は少年の方に向いていた。


「ライズ、貴方も立派になったわね」

「いいえ。全て姉上のおかげですよ」


 腰に名工の打った名のある剣を腰に刺し、家紋の刺繍と邪魔にならない程度の装飾が施された白基調の騎士服を着るライズに一瞬見惚れてしまう。この7年で本当に成長したものだ。

 10歳という異例の若さで剣の際を見出され、近衛兵に入団し、今やその中でも副団長を任されている。

 そんな12歳という歳を感じさせない経歴と振る舞いの影に見えるのは、金髪碧眼でアホ毛が特徴の美少年。一層萌える男の子に育ってしまった。

 

 その美しさに目を眩ませ、よろけてしまう。


「姉上! 大丈夫ですか!?」

「大丈夫よ、心配しすぎ」 


 ふらついた私の身体を、ライズは慣れた手つきで抱え込んだ。


 顔近すぎ。反則。顔赤くなってないわよね?


「いやいや、姉上の身に何かあっては、一家の落ち度となりますから。それに、俺は姉上の身を守る為に騎士団に入ったのですからこのくらいのことはさせてください」

「過保護に育ったものね」


 まったく、誰に似たのかしら。まぁ、十中八九私なのでしょうね。


 7年前のことを思い出す。

 あの日彼を家に連れ帰り、私は両親に頭を下げた。


 「この子をうちの養子にしてほしいの。その為ならなんでもするから」。


 そう言った。 


 色んな問題も条件もあったが、全て乗り越えた。私にとってそれが最低条件だったからだ。

 彼が成長しないと私の平穏な未来が消える。ただ、それだけの感情のはずだった。しかし、いつの間にか私は彼の魅力に取り憑かれてしまっていたのだろう。

 魔学や魔物知識を含む一流の学びを得させ、一流の剣術も覚えさせた。公爵家なのでそこまで難しいことでもなかった。

 成長速度の方で言えば、流石は主人公キャラというべきか、一度やって仕舞えば、習得速度は凄まじいものだった。

 ここまでは良かったのだが、私の中のショタコンがそこで火を吹いてしまった。『勇者のため、世界のため』という免罪符でもって彼を甘やかしまくった。

 宮廷仕えの仕立て職人に服を織らせ、王族御用達の一流ヘアスタイリストにセットをさせた。親達は、ライズへの異常な愛に不信がられたが、一度動いてしまった心は時が来るまで止まらない。

 『アーレア・ヤクタ・エスト』という奴だ。私は自分の身だしなみ以上にライズの見目、将来を案じていた。

 まぁ、それに、私だけでライズを可愛がっていたわけではないしね。


「そういえば、姉上。時間は大丈夫なのですか? 15時からエティ様とのお茶会だったはずでは?」


 ライズの声でハッとする。

 そうだ。そろそろ時間だった。


「そうね、そろそろ支度しないと。ライズ、貴方も昼からの訓練頑張るのよ! 今夜は特別に私が食事を作るから」


 普段は宮廷に仕えているライズだが、私の成人の式典に出席する為に今は家に戻ってきていた。

 そんな状況でも訓練を欠かさないのだから、本当に立派な副隊長なのだろう。


「え!? でも大丈夫なのですか? この前料理長に叱られていたと記憶していますが……」

「あれは、事前に言伝するのを忘れていたからよ! 今日は大丈夫!」

「そうですか! それは楽しみです! 姉上の料理は極上ですから!」

「そう言ってもらえるとこっちも嬉しいわ! じゃあ、夕方には戻ると思うから」

「はい! 全力でやってきます!」


 その声を聞き、私は安心して支度を始めた。

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