第2話 勇者との出会い
というわけで、早速スラムに行くことにする。
正直、勇者が姫と出会う前にどこで何をしていたのかは詳細に語られていない。事実としてあるのは、剣聖と賢者であった両親が魔王との決戦に向かう際、信頼できる仲間に自分の仲間を託したということ。そして、その仲間がいた国も、魔族の侵攻により滅ぼされ、難民としてこの国に来ると言う勇者の過去だけであるが、その具体的なタイミングは示されていないのだ。
でも、先に動くのに損はないので、私は家の見張りを振り切り、下街へと駆け出した。
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「おねぇさん、僕になんか用? この辺じゃ見ない格好だけど……」
見つけた。エティと主人公が出会う、ボロボロの女神の石像の前。そこに勇者の証である右手の痣を宿した少年が座り込んでいた。穴だらけのローブから傷んだ金髪が覗いている。結構深く被っているので、顔は見えないがほぼビンゴと言ってもいい。
ここまでは想定通りだったが、彼を見つめていたその気配を感じ取られたらしく、気づかれてしまった。スラムに合わせてそこそこに傷ませた衣服を着ていたが、それでもここでは不自然だったらしい。
「あぁ……いや、そうね。もう先に話した方がいいわね。貴方、ライズ君であってるわよね?」
ライズ……勇者伝説の主人公のデフォルト名だった。
目の前の彼は少し肩を震わせた。
「何でその名前を……」
「図星みたいね。良かった。ライズ君。お願い、私と来てほしい。食べ物も服も住むところも用意するから」
そう言って、右の手を差し出した。外し忘れていた指輪が嫌味に見えるかもしれないが、伸ばした手は下げられない。
「なんで、俺なんかを……」
「君が必要だからよ!」
心の底からの本音だった。
ハッピーエンドに辿り着くには、彼の存在は必須だったから。
「……」
数秒彼は黙り込み、下を向いた。
そして、今度はゆっくりと被っていたローブを取って頭を上げた。
「俺が……俺なんかが必要とされていいんですか?」
こちらを見る真っ直ぐな瞳には少しの涙が浮かんでいた。
そして、それと同時に私は最悪なことを思い出してしまった。
その幼くて麗しく、誰かの助けを求める切ない目、小さいながらも男らしい腕、綺麗すぎる鼻筋。次々と目が移る。
そう、前世の私には、『ショタコン』の気があったのである。
ゲームはドット絵だったが、直で見るとこれほどの美形とは……。
「いいのよ。貴方は将来、世界の人々全員から必要とされるんだから」
真っ直ぐでキラキラ光るその目に灯った焔が、私の脳を焼き切ってしまうように感じられた。
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