悪役令嬢に転生したので、ヒロインより先に勇者拾って勝ち逃げします!
キエツナゴム
第1話 悪役令嬢に転生したので、ヒロインより先に勇者拾って勝ち逃げします!
『勇者伝説〜眠りの姫と終焉の魔王〜』
一昔前のゲームタイトルだ。ジャンルはRPG。
大まかなストーリーは以下の通り。
ある国の姫が魔王の力により、永遠の眠りについてしまう。その眠りを覚ます為、姫に全てを捧げた勇者が魔王を倒し、最終的に目覚めた姫様と結ばれる。
よくある話で何処にでもある話だ。
でも、そんな予定調和の物語の中に、一つの異物が紛れ込んだ。
そう、『私』という異物が。
私、佐藤莉子がそのゲームの悪役令嬢セルフィリア・シュティルナーに転生したのは約8年前のことだ。とは言っても、前世の記憶を思い出したのはつい最近のことなのだが。
設定上のセルフィリアは、公爵家シュティルナー家の生まれで、非常に身分が高い令嬢だった。国の姫で、ゲームのヒロインであるエティ・スリーピアに唯一対等に口を聞ける存在で、奥手なセルフィリアをよく周りの貴族を遣い、遠回しに虐めていた。
自分より身分が上の癖に塩らしく振る舞うその姿に嫌気がさしたなんていう自分勝手な理由だった。
しかし、心が強かったエティはそれに耐え続けた。虐めに屈しないエティに憤りを感じ続け、15の成人を迎える式典で直接手を上げそうになったところを、主人公である勇者に止められる。そして、王族に手を上げた叛逆者として泣く泣く国外追放されるという、同情の余地もない中々なクズキャラだ。
しかし、今世でのセルフィリアは一味違う。何故ならこのゲームの展開を完全に把握している私が中に入っているからだ。みっちり全ルートをやりこんだのだ。思い違いなんてない。
どう動けば最適かということは手に取るようにわかる。
私の最終目標は『勝ち逃げ』だ。
正直、エティのことも他のキャラのことも好きではあるが、自分の身には変えられない。一人生き延びればそれでOKだ。生きてさえいればどうとでもなる。
まぁ、流石にゲームのセルフィリア同様に、無抵抗な姫様を虐めるような趣味はないので、他の方法を考えるのだけど。
勝ち逃げする為に、やるべきことはまず、勇者とのコンタクトだ。エティとの接触はその後でいい。
エティと勇者は何か運命的な何かで繋がっているのかもしれないが、きっかけを作ったのは紛れもなくセルフィリアだ。
エティは、セルフィリアに虐められたことで、心を落とし、気分転換の為、城の者に内緒で街に下りる。そこで、スラムで育つ勇者と出会うのである。
つまり、彼女がエティを虐めたからエティは街に出るわけで。つまり、セルフィリアがエティを虐めない今世では、そもそもエティが勇者と出会う保証はないのだ。
だから、代わりに私が勇者と出会って魔王討伐まで導いてあげるのだ。
ただし、これは世界一つを賭けた大使命で、失敗は許されない。
ゲームのバッドエンドの一つ。勇者が魔王本人やその部下に殺されてしまうと、そのまま抵抗する間もなく人間界は魔王に滅ぼされてしまうというルートがある。
それだけは防がねばならない。
だって、国外追放を免れたところで、世界が滅んじゃ意味ないからね。
エティとセルフィリアは同じ歳で、勇者はその3つ下。エティが勇者と出会うのは今から2年後のことだ。
そのイベントの前に勇者に接触し、魔王討伐まで導き、私は平穏な未来を手に入れるんだ!
その為なら世界の一つくらい、お茶の子さいさいで救ってやらぁ!
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