第19話 戦え!超奇怪生命体

 エキゾーストパイプが排気ガスを放出し、エンジンが咆哮を上げる。


 5インチTFTカラーディスプレイに表示されたスピードメーターは、ブルーが出せる限界速度を示している。


 法律を気にせずハイウェイを走るのは気持ちがいい。


 追跡車の集団が一緒じゃなければ、最高のナイトツーリングになっただろう。


 バックミラーには、セダン、クーペ、オープンカー、ステーションワゴン、ワンボックスカー、ミニバン、トラック、バス―――まるでモーターショーのような光景が映っている。


 街中の車がここに集まっているかもしれない。命懸けのモーターショーだ。引き返す道はない。追いつかれたら轢き殺されるだろう。


「付かず離れず、不安定さが付いてくる……追っ手にキャリアーがいそうだ」


『チーターなら射程はピンキリですよ? わざわざ姿を現しますかね?(゚Д゚)』


「僕の同類だ。このお祭り騒ぎに参加しないなんてもったいない。できるなら直接手を下したい。そう考えるはずだ」


『どうしてわかるんですか?(゚Д゚)』


「僕ならそうする」


『はぁ?(゚Д゚)』


「殺気が物語っているんだ。あの中にいると思うよ、純粋で勤勉な異常者が」


『気持ち悪いシンパシー……(|||゚Д゚)』


「実際いるにせよ、いないにせよ、まずはあの車の大群を何とかしないとね」


『ここまで逃げるばっかりだったのに、できるんですか?(゚Д゚)』


「ここまで逃げたからできるのさ。キャリアーを引きずり出して御覧に入れよう」


 急ブレーキをかけ、車体を横向きしながら滑るように停車した。


 暴走車両たちが猛然と迫る。


『ちょ、ちょっと、追いつかれますよ! どうするんですかマスター!(((( ;゚д゚)))』


「まとめて吹き飛ばす」


 アイテムボックスから、紐で数珠つなぎにしたダイナマイトを取り出す。


「道幅の制限されたハイウェイの一本道で団子になってるんだ。存分に堪能してくれ」


 大量の爆薬に火をつけ、先頭車両に投擲。


 爆発が連鎖的に起こり、ハイウェイが揺れる。


 多くの車両が爆発に巻き込まれて炎上した。


 後続車も炎上した車両につっこみ、玉突き事故のような状態になる。

 

 最終的に、20台以上が廃車になる大惨事に発展した。


 僕たちと追跡車の生き残りのあいだには、燃え盛る廃車の壁ができあがり、炎が夜闇を煌々と照らし出す。


『や、やりましたねマスター!(´ ∀ ` *)』


「いいかいブルー? 古今東西、事実を確認する前に敵の死亡を確信した味方がそれを口にして、実際に死んだ例はないんだよ?」


『そんな事ありません! 「スター○ーシャン」と「テイ○ズオブ○バース」のラスボス、アニメ版「紺○の艦○」の敵戦闘機、「伝説○神イデ○ン」32話のガロ○・ザン、「甲鉄城のカ○ネリ」の6話、映画「○ン・○ジラ」のヤ○オリ作戦もやってましたよ!(ꐦ`•ω•´)』


「よくわからないけど、詳しいね」

 

 本当のところ、僕はわかっていた。


 ずっと不安定さを感じ続けている。


 キャリアーは健在。炎の向こう側にいる。


 炎がいっそう激しく燃え上がった時、重苦しい金属音が轟く。


 何かを接合し、折り曲げ、擦り合わせるような機械的な音と共に、炎の壁のスクリーンに影が映り込んだ。


 それは、巨大な人型のシルエットだ。


 身の丈は3メートルを優に超えている。


 その人型は、炎を跳び越えてきた。


 金属の装甲、光沢を放つマニュピュレータ、油の匂いを撒き散らし、重苦しい音と共に稼働する姿は、人型ロボットとしか形容できない。


「カーッカッカッカッ! いぃねぇ~! 俺の射程圏内だぜ!」


 ロボットが喋った。


「誰、君? ヒトなの?」


「俺はフリーウェイ・キラー! 罰でこんな身体になっちまったがヒトだぜ、かわいこちゃん Hot babes 


 獲物を品定めするように頭の先からつま先まで視姦される。


 あと、かわいこちゃんって、もしかして僕の事かな?


「まあ、この身体のおかげで、全裸で外を歩いても文句を言われなくなったがな。おかげで即ぶち犯せるぜ、カーッカッカッカッカッカッ!」


 ロボットの股間部分に垂れ下がっていた一本のドリルが、徐々に持ち上がっていく。


「同類と思っていたけれど……ジャンルが違うかも……」


「おいおい、引き締まったケツ揺らしてキャンキャン喘ぐんじゃねえよ。誘ってんのか?」


 ドリルは天をき、ギュインギュイン回った。


「これも魅力1の弊害か……」


 変なのから好かれる。


「まあいいや、君もアサイラムの刺客ってことで良いんだよね?」


「おうよ! 全ての車の頂点に立つこの俺、フリーウェイ・キラーにケツを追われて無事に済むと思うな!」


「御託はいいから、とっととかかってきなよ」


 会話は嫌いじゃないけど、こいつは早く片付けたいタイプの敵だ。


「カッカッカッ! その反抗的な目、物怖じしない態度……いぃぜ~! かしずかせて、バックでぶち込んでやるよ!」


 雄々しいドリルがしきりに回転し、その先端から油のような液体を滴らせていた。


 彼と僕は殺人鬼という点で似通っているが、趣味嗜好まで一緒だと思ってほしくない。


 ちょっと似ている他人に引導を渡すために、僕はナイフの柄側面にあるボタンを押した。


 ライトガス方式の作動原理は、エアソフトガンと一緒だ。


 柄部分に収まったメタンと空気の混合気の燃焼・爆発で第一段内にあるピストンを作動させて水素ガスを圧縮し、この水素ガスで発生する衝撃波をぶつけられた刃部分は、理論上マッハ32まで加速する。


 音速の刃はナノカーボンセラミックス製、分厚い鉄板も貫通し、慈悲も容赦もなく相手を沈黙させる……、


「この身体にっ!」


 ……はずだったが、敵もさるもの引っかくもの。


「そんな生ぬるいペッティングッ! ぜんっぜん感じねえな!」


 刃が機械の体にわずかに刺さっただけだった。


 どんな耐久力CONをしているんだ。


「おらあ!」


 刺さった刃と繋がるワイヤーが引っ張られる。


 僕は慌てて柄を手放した。


「次は俺の番だ!」


 フリーウェイ・キラーはナイフを引き抜き、こちらに殴り掛かってくる。


 紙一重でかわし、ロボットの股下を走り抜ける。


 すれ違いざま、その脚部に数度ナイフをふるうが、少し傷がついただけだ。


 重苦しい作動音と共に、機械製の脚が僕を踏みつけようとしてくる。


 ぺしゃんこにされる寸前で難を逃れ、再び距離を取った。


「頑丈だ」


「俺を感じさせたきゃ爆弾でも持ってきな!」


「そうさせてもらおう」


 アイテムボックスからダイナマイトを取り出して投げる。


「食らうかバーカッ!」


 そう叫ぶフリーウェイ・キラーのやった事を目撃した僕は、言葉を失った。


 瞬間的にロボットの頭と腕がボディに折り畳まれ、ドリルが前方にスライド。腰部が180度回転し、側面からは4つの車輪が展開する。


 ヘッドライト、ボンネット、フロントガラス、ルーフ、バックドアガラスにバンパー、2つのドアが備わった流線型のフォルムが生まれた。


 フリーウェイ・キラーは、車に変形したのだ。


 フロントバンパーにドリルが付いたスポーツカーは、急加速してダイナマイトをかわす。


 同時に、巨大なホウルトラックが炎と廃車の山を押しのけて姿を現した。


 出来上がった間隙から他の追跡車も続々と僕らの側に渡ってくる。


 僕はブルーに乗り、急いでその場から退避する。


「これがこの俺、フリーウェイ・キラーの力だ!」


 意気軒昂、追跡車を引き連れたドリル付きのスポーツカーが迫ってくる。


『なんですかあれ、トランス◯ォーマーじゃないですか! ありえないですよ!。゚(゚இωஇ゚)゚。』


「君も似たような存在だと思うけど?」


 ブルーの悲痛な叫びを置き去りにするような速度で、再びカーチェイスが始まった。



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