第13話 毎日、いたるところに、全て、修羅場


「ふ~、いい仕事した~」


 僕の足元では、傷だらけのバイクがシクシク泣いていた。


 協力は確約させた。


 いつ心変わりしてもいいように、街頭を眺めているあいだに創った偽爆弾を車体にくくりつけている。


 作りは単純。ダイナマイトの側だけを残し、見た目をそれっぽくしただけの虚仮威こけおどしだ。それでも、バイクには確かめようもないだろう。


「リモコン爆弾だ。走行中にわざところんだりするなら、最低でも道連れだから。よろしくね」


 保険として、そんな嘘を言い含めておく。


 すると僕の命はだいぶん安定したように感じられた。

 

 一通り作業が終わったあと、何の気なしに街路樹の枝葉の隙間を見る。


「また覗き見? もう、欲しがりさんだな」


 バイオリニストの襲撃以来、感覚を研ぎ澄ませてみると、ちょくちょく見られているような気配を感じた。


 場所は特定できないが、同じ気配だ。


 試しに笑顔で手を振ってみる。


 しばし、ファンにサービスするアイドルの気分を満喫する。


 目が合った瞬間――実際目があるわけではないので、なんとなくだが――すぐに気配は消えた。


 僕のファンはかなりシャイだ。


「……さて、逃げるべきか、殺すべきか、それだけが問題だ」


 大気が重くなり、胃がキリキリする。


 台風のように渦巻く殺意が、ゆっくりと近づいてきていた。


 僕の命の支えが揺らいでいる。


 先方はヤル気満々だ。


「ねぇバイク君、名前はあるの?」


『……ブルー(T_T)』


「今の気持ち?」


『ボクチンの名前!(TДT#)』


「いい名前だね。10メートルくらい後ろで待機していてよ。それ以上離れたら逃げたとみなして起爆するから、気を付けてね? たぶん、それくらいで巻き込まずに済むと思う」


 逃げる事もできたが、あえてとどまり、戦う事にした。


 実のところ、ちょくちょく刺客を差し向けられる現状が少し楽しい。


 色んなカルマを見るのは、クリスマスプレゼントの箱を開けるような驚きと好奇に満ちている。


「毎日が修羅場おまつりだ。君たちもそう思うだろう?」


 振り返ると、異形の3人が佇んでいた。


 腕をハサミのように変えた長身痩躯の男。


 下半身が蛸のような触腕になっている美女。


 全身から棘を生やした老人。


 見た目は三者三葉。共通点は殺意だけ。


 僕の問いかけは当然のように黙殺される。


「アサイラムってシャイなヒトの集まりなの?」


 無視には慣れているが、少しは余裕を持てばいいのにと思う。


 最期くらい、他人との会話を楽しんでも罰は当たらない。


 それと……もう一人いるな。


 常に監視してくるキャリアーとは別の雰囲気だ。


 距離をとった死角から僕の命を狙う5人目の存在を感じていた。


「まあ、殺し合えば否が応でも分かり合えるさ。理不尽な今わの際に思うことはだいたい同じ、『死にたくない』ってね? その瞬間だけは、全人類が理解し合えるんだ」


 願わくば、DJ閻魔えんまレベルの混沌を見せてくれ。


 来た甲斐が感じられるような地獄を、僕は望んでいる。

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