第4話 悪魔 ≦ 我ら
「もしてめぇが、いや、あなたのカルマが
「普通に喋っていいよ。具体的にどうなるの?」
「 ダルマに加工されて薬漬け。そのあとは生かさず殺さず、栄養剤と麻薬の
「うわ~血も涙もな~い。あ、だからジーン君は郊外にいたの? 君、
目の前にダイナマイトが現れる。
僕は流れ作業のように素早く導火線を切断し、落ちたダイナマイトをアイテムボックスにしまう。
ジーン君のカルマ《爆風と共に去りぬ》は、彼と会話した時点でターゲッティングされ、2分30秒で時計の音が鳴り出し、3分で火のついたダイナマイトをターゲットの目前に生成する仕組みだ。
ここにくるまでの実験で、突然現れるダイナマイトは、最初の爆発まではターゲットしか影響を受けない魔法のダイナマイトだが、一度爆発を防ぐと通常の
爆発を防がれた経験がなかったジーン君は、自身のカルマの特性を完全に把握しきれていなかったのだ。
以来、ずっとカルマを発動した状態で会話し、生み出されるダイナマイトをアイテムボックスに収納していた。
いつかきっと役に立つだろう。
ちなみに、アイテムボックスはプロパティと連動しており、物品をデータ化して持ち歩ける。
空中に浮かんだ平らなプロパティのウィンドウにダイナマイトが沈み込んでいく様子は、ここが仮想空間だと再認識させてくれる。
「条件や罰があるけど、0から1を生み出せる。都合のいい力だな……」
罰とは、カルマの使用後に必要となる代償だ。
罰を実行しなければゲームオーバー――死ぬ。
比喩でもなんでもなく、罰を受けなければ本当に死ぬ。虚無に堕ちるのだ。
データ化された魂が完全に消去される事を、ヘル・シミュレータの住人は虚無に堕ちると表現していた。
誰が言い出したのか知らないが、言い得て妙だ。
《爆風と共に去りぬ》の罰は『生み出したダイナマイトの数だけ他人に感謝されなければならない』だ。
罰の実行状況は、ヘル・シミュレータのAIが自動的に判定してくれる。
ジーン君がおとなしく協力してくれているのは、罰の実行不能による死を回避するためでもあるのだろう。僕はまあまあ彼に感謝している。
罰は、カルマの強大さに比例して達成難易度が上がり、なかには本人の意思に関係なく強制的に執行される罰もあるらしい。
大きな罪には大きな罰が科される、という事だろう。
「けっ、てめぇも血も涙もねぇクソ野郎の一人だ」
「言いがかりも
「俺以外皆殺しにしといてよくそんなこと言えるな? 過剰だ過剰」
「よく考えてみてよ。僕をリンチしようとした君が、五体満足で、正気のまま、発言の自由も保障されている。ダルマに加工されて薬漬けに比べれば、かなり良心的じゃない? ブッディズムで言うところの『地獄に仏』さ」
首の縄を引いて無理やり頷かせると、ジーン君は恨みがましい視線を送ってきた。
「悪魔の親戚じゃねぇのか? 里帰りしたって言われても信じるぜ?」
「まさか……でも、悪くない場所だとは思っているよ。人を縄に括って散歩しても誰も何も言わないんだから、ほんと地獄だよね?」
縄を引っ張ると、カエルが潰れたような声を上げるジーン君。
「ところで、その悪魔はいないの? 仮想地獄って言うくらいなんだからさ」
4
汚らしい格好のヒト、半裸の変質者、汚らしい言葉遣いのヒト、血だらけで笑うヒト、裂けた腹から出た自分の小腸を持ち歩くヒト、全裸の変態……ヒトばかりだ。そしてバカばっかりだ。
地獄の歩行者天国と言える。矛盾している。
「NPCのことか?」
「ノンプレイヤーキャラ?」
「ああ、悪魔や魔獣なんて幻想上の生き物は、AIがコントロールするNPCとしてデザインされてんだよ」
「いよいよゲームっぽいな」
「いまや絶滅寸前だがな」
「なんで?」
「そりゃあ俺たちのせいだ」
「えぇ……でもまあ……そっか……そうか……」
妙に納得できてしまった。
地球上で最も多く生物が死ぬ原因を作っている生物はホモ・サピエンス――賢い人間だ。
歴史を紐解けば、我々が他の生き物を絶滅させる能力に優れていることは疑いようもない。
しかも、ここには極悪人しかいないのだ。
共存共栄、環境への配慮、多様性の尊重、SDGsなんて、おはようからおやすみまで頭にないような連中だ。
悪魔よりも悪魔的に、悪魔を狩ったのだろう……。
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