第2話 みんななかよ死
今から30分前。
僕は白い花畑で目を覚ました。
自分の身に何が起こったのか、判然としない。
記憶は虫食いだらけ。右も左もわからず、真っ白な花畑をさ迷い歩いていた。
白い花が地平線を埋め尽くす光景は美しいが、どこか非現実的で空疎だった。
夢見心地で歩いていると、面白いくらい花が似合わない男たちが花びらを踏み散らしながら走ってきた。
人相の悪い彼等――総勢20名は僕を素早く取り囲み、告げる。
「
「
「
このように、20人の男たちはひじょうに友好的。
僕も笑顔で応じる。
「
後から知った事だが、みんな犯罪者だった。
//
現在。
20人のうち18人は、二度目の死刑に処された。
五感で感じるすべてがデータだが、それらはリアルすぎるくらいリアルに再現されており、ナイフで切り刻んだ感触も現実と大差ない。
白い花の香りに混じった死臭が鼻腔を通り抜けていく。
そのおぞましい香りは、なんなら生きていた頃よりも鮮明かもしれない。
良くできた地獄だと思う。
残った2人は戦闘不能にして、手足を縛り上げている。
縄は、人を襲う準備が万端だった彼らの物を拝借した。
一人はしっかり四肢を縛り上げて、自決しないように口輪をしている。
もう一人は、手足の自由を奪うだけに留める。
準備が整ったら、仲良く談笑開始だ。
「ムゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
ちょうど口輪をされた男の手が何も掴めなくなった。
手の関節に従って左右14回、肉と骨をこそぎ落としていくと、たいていのヒトは素直になる。彼は素直に、痛みで泣き叫んでいた。
「実際、君たちが来てくれて助かったよ」
そう言って微笑みかけると、口輪をしてない方の男から唾を吐きかけられた。
「クソサイコ野郎!」
僕を口汚く
「ここに来て間もない人間の身ぐるみを剥ぐために、大人数で襲いかかってくる君らも大概だと思うけれど……えっと、【プロパティ】? だっけ?」
そう言うと僕の眼前の何もない空間に、光る枠線と文字が表示される。
窓枠のような光る映像に浮かび上がっているのは、僕の持ち物や肉体の情報だ。
プロパティは、ヘル・シミュレータに堕ちたすべての人間が使え、その人間のあらゆるデータが、いつでもどこでも一声で表示できる機能だと、先程指有り君から教えてもらったところだ。
「確か、初期のステータスと装備は、AIが受刑者の体や記憶をスキャンして、全盛期の身体能力と生前もっとも愛用していた道具や衣服を割り当てるんだよね?」
指有り君は無視してきたが気にせず、僕はプロパティに目を走らせていく。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・Name:Unknown
・Sex:Male
・Age:Unknown
・STR:30
・DEX:30
・CON:1
・INT:13
・WIS:15
・CHA:1
・LUK:0
・KAR:Unknown
・Money:0
・Item:
・防弾セットアップ(ダークブルー)×1
・ライトガス・スペツナズ・ナイフ(ワイヤー巻取り機構付き)×12
・婚約指輪×1
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「まるでゲームだ」
いくつかのステータスの名称は意味が分からない。
自分の名前は不明だ。
「なん、だ、その数字……」
僕のプロパティをちら見していた指有り君は、頬を引きつらせていた。
「どうかした?」
「……………………」
「だんまり? 話をしようよ。こう見えて僕、ヒトと話すのが好きなんだ」
「ムグウウウウウウウウウウウウウウ‼」
指無し君の掌にナイフを突き立て、ひねる。
そのナイフを引き抜いてちらつかせると、指有り君は観念したように話し始めた。
「……20人がかりで勝てねぇわけだ。てめぇのSTRとDEXはイカレてる」
そう言われて身体ステータスのところに目を向ける。
「30……って、大したことなくない?」
「それがヘル・シミュレータで表示される筋力(STR)と敏捷力(DEX)の最大値だ。ヘル・シミュレータの開発を手掛けたメインプログラマーが、古典的ロールプレイングゲームのクソイカレオタクだったって噂だぜ」
そのほかに耐久力(CON)、知力(INT)、意志力(WIS)、魅力(CHA)、カルマ(KAR)、運(LUK)という能力が設定されており、0から30の数字で表されると、指有り君が説明してくれた。
いや、それよりも、それよりも、だ。
「魅力……1?」
え、全盛期なんだよね、僕?
ベストコンディションをAIから正式に魅力がないと判定されるなんて、残酷すぎるだろう。
しかも全盛期が魅力1だとすれば、僕の残りの人生は魅力1以下の状態しかないという事では?
「……それでこのカルマって何なの?」
僕は魅力1に引きずられたテンションで確認する。
「力だ、この地獄で俺たちに与えられた罪の形――――油断大敵だぜ、クソ野郎!」
カチカチと、音が鳴り始める。
時計の秒針が動く音だ。
あたりを見回すが、それらしい音源はない。
「2分30秒、俺と話したな! 時計の針の音が聞こえ始めただろう⁉」
「うん、聞こえてるよ。それで? 何なのこれ?」
「すでに俺のカルマは発動している! ボマージーンとは俺のことよ! カルマ発動時の俺と会話し続けた人間は、3分で火のついたダイナマイトを鼻先に放り込まれる! そのダイナマイトからは誰も逃れられず、時計の針の音を聞くものだけを爆殺する!」
指有り君あらため、ジーン君が
「つまりカルマって、超能力や魔法みたいな特殊能力ってこと?」
口を動かしていたのは、我が身可愛さだけではなく、カルマが発動する条件を達成するためだったと、言いたいらしい。
「そのとおりだ! カルマ《爆風と共に去りぬ》! さぁ3分だ、死ねぇ!」
すると突然目の前に、棒状のダイナマイトが現れた。
その導火線についた火は、本体に到達する寸前だ。
「すごいね」
僕はナイフを使い、素早く火のついた導火線を切り取った。
「へあ???????」
ジーン君の目では何をしたかわからなかったようだ。
ぽかんとした顔で、地面に落ちたダイナマイトを見ている。
「本当に魔法みたいだ」
「お、え? いや、は?」
「急に言葉が通じなくなったな……
「わ、わかったぞ! そ、そのナイフが、てめぇのカルマか!」
「こんなの大道芸と変わらないよ」
ナイフを指から指へ、ペン回しの要領で移動させたあと、回転させながら空中に放り投げる。
「ナイフを使った近接格闘術を極めれば、誰でもできるんじゃない?」
落ちてきたナイフの柄をノールックでキャッチ。
「まあ、僕のは我流だけどね」
ナイフの切っ先をジーン君の鼻先の地面に力いっぱい突き立てた。
「ヒッ?!」
「指無し君は気を失っちゃったから、次は君の番だね?」
「うぐっ……」
「話すか話さないかは自由だけど、お勧めは断然、話す方だ。希望は、掴める内に掴んでおいた方がいい」
「話す、なんでも話す! だから頼む、命だけは助けてくれ! 虚無には堕ちたくねぇ!」
「虚無……肉体を失った僕らがヘル・シミュレータで死ねば、天国も地獄も輪廻転生もなく消え去るってことかな? まだまだ分からないことだらけだ……とりあえず、3分ごとにダイナマイトを出されたら面倒だから、手早く終わらせようか?」
僕が笑うと、ジーン君は半泣きになりながら何度も頷いた。
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