ヘル・シミュレータ~最兇最悪のシリアルキラーが教える地獄の暮らし方ガイド~

ki-you(きゆ)

第1話 Hello, Hell world!


 青々とした満月が照らす白い花畑に、血と、骨と、臓物と、叫喚が、万雷の拍手のように降り注ぐ。


「なるほど、僕らみたいな重罪人は、データ化されて仮想空間に収容されるんだ?」


 ナイフを軽快に振り、数秒前まで穢れを知らなかった花々をどす黒い警戒色に染めなおしながら、手足を縛って転がしている中年男性に向かって話し続ける。


「たしかに僕は死刑囚だった……ような気がする。記憶はあいまいだけど、てっきり刑が執行されて、地獄に墜ちたとばかり思っていたのに……」


「大差ねぇんだよクソが! 俺らの肉体はとっくに処分されちまってる! 感染症騒ぎの後に起きた大戦と大恐慌で、世界がメチャクチャになったのも忘れたってか?」


「寝て起きたらここにいたんだ。たぶん薬を盛られたんだと思うけど、そのせいか、死んだショックなのか、どうも……うーん……思い出せないな」


「ああ、そうかよ! なら教えてやる! 俺たちみたいな犯罪者のために使う金も時間も労力もねぇって、戦後まもなく世界機関せかいきかん主導で構築された重犯罪者管理システム――」


 戦争は技術を飛躍させる。


 今次大戦も例外ではなかったらしい。


 量子コンピュータの発展。

 ペタビットパーセコンドを超える通信インフラ。

 進化したAI。

 現実と区別のつかない仮想・拡張現実。

 一般化されたブレイン・マシン・インターフェース。

 エトセトラ、エトセトラ。


 それらの技術レベルは、人間のあらゆる精神活動すら電子化して保存する高みに至った。


 魂などと呼ばれていた崇高な何かすら0と1の羅列に置き換わり、社会から寛容さと余裕が失われた結果、人工の地獄は完成をみたのだ。


「それが、この【ヘル・シミュレータ】だ!」


 これは、僕が地獄で生き直すお話。


 それは、地獄で罪人たちが繰り広げる、血と、骨と、臓物と、叫喚に塗れた、笑えない喜劇。


 つまるところこの世は地獄であり、ヒトはみな罪人なのだ。

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