第5話 図書カードは笑う
「さっきからずっと入力し直してから検索してるんだけど、全然ダメなのよ〜」
「他の児童たちは検索出来たんですよね?」
「ええ、もう確認し終わったわ。最後の1枚でこうなったの」
「パソコンが急に壊れてしまったのでしょうか?」
「どうかしら……別の児童で試してみるわね」
画面には該当するデータが表示されている。
「うーん、パソコンは問題無いわね〜」
「ですね」
「そうなると、借りた人が書き間違えたんじゃないですか?」
「それはありえるかも〜」
図書カードにはこう記載されている。
【6/9|1−1|水川一】
水は、真っ直ぐな棒にくが左右対称に付いてるだけで、川に至ってはただの棒3つ。それでも問題なく読めるが、テストでは減点されるだろう。
1年生が書いたのであれば、間違えたというのも考えられる。
「1組以外は確認しましたか?」
「流石に自分のクラスは間違えないでしょ〜」
「一応ですよ」
「はぁ、じゃあまずは2組から……ダメね。3組は……ダメ。最後に4組……これもダメだわ〜」
「なんか面倒くさいやり方ですね。学年検索とか無いんですか?」
「セキュリティーの関係で図書室のパソコンには無いのよ〜。ついでに言うと、3つの項目全部を入力しないと検索出来ないの。どこか1つでも空だとエラーが出るわ」
「特定出来なければ表示されないということですか……確かに安心ですね」
「じゃあ、同学年同クラスで同名の児童がいない限りは、検索結果は必ず1人になるってことですか?」
「そういうこと〜。まぁ基本的に同じクラスに同じ名前の児童は入らないようになってるから、絶対1人と言えるわね〜」
「なるほど」
「では、1学年にはいないということになりますね」
「ですね」
「そうね〜」
「じゃあ、次は2年生をお願いします」
「えっ、もしかして全学年調べなきゃダメ?」
「今のところはそれしかやりようが無いと思うので」
「えー、もう嫌だ〜」
「子どもみたいなこと言わないでくださいよ」
「じゃあ、
「えー」
「お願い!」
「そもそも児童が触って良いんですか?」
「いいのいいの! 私が見てるから」
(おいおい……)「はぁ、分かりました」
「……全部ダメでしたね」
「どうなってるのよ〜」
拓真は学年とクラスを全パターン確認したが、どれも【該当する児童は存在しません】と表示されるだけだった。
「この学校にこの名前の児童は存在しないってことですね」
「では、自分の名前を書き間違えたのでしょうか?」
「まぁそうなるわよね〜……でもそんなことある?」
「どうでしょう?」
「さぁ? 自分が小1の時は全部ひらがなで書いてたんで分かんないです」
「あっ、そう言われたらそれが普通よね〜」
「漢字で書いたことが原因ということですか?」
「うーん、でもこの漢字って間違えますかね?」
「水・川・一……確かに、間違えるとは思えないわね〜」
「多分3つとも小1で習うと思いますけど」
「ちょっと調べてみる」
綿谷は使い慣れているスマホで検索した。
「間瀬くんの言う通り、3つとも1年生で習う漢字だったわ〜」
「でもまだ2ヶ月経ったくらいですし、名字のどちらかは習っていない可能性もあるのではないですか?」
「たとえまだ習っていなかったとしても、日常的に読書してたらこれくらい簡単ですよ」
「そうですよね」
「もしかして……転校してきたばかりでまだデータが登録されてないとか?」
「そこまでは分からないです。でも普通は入る前に手続き済ませるので、可能性は低いと思います」
「だよね〜」
「あの……偽名を使ったというのはどうでしょう?」
「1年生が〜? 無いでしょ〜」
「でも偽名だとしたら、学年もクラスも適当だと思います」
「あー、確かに」
「私たちは1年1組という情報に惑わされていたのかもしれません」
「でももしそうなら、全児童に可能性が出てくるわね〜」
「調べようがありませんね」
「はぁ、お手上げだわ〜」
2人が無言になった時、疑問を抱いていた拓真が声を出した。
「偽名はないと思います」
「えっ、どうして?」「どうしてですか?」
「使うメリットが無くないですか?」
「メリットか〜」
「……例えば、友達や先生にこの本を借りることを知られたくなかった、というのはどうでしょう?」
「それなら駅前の図書館で借りれば良いじゃないですか」
「確かにそうね〜」
「それに、借りる時も返す時も手続きが必要だからその時に顔がバレますよ」
「あっ、本当ですね」
「また考え直しか〜」
存在しない児童に出会ってから20分以上経っていたが、3人は未だに手掛かりを掴むことが出来ず、悩みに悩んでいる。
そんな3つの険しい顔を見て、問題の図書カードは笑っていた。
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