第3話 真っ白な折り紙

 図書室の奥に並ぶ本棚は他のより大きい。

 近くには注意書きがある。


『ここの棚板は全て固定されていません

 危ないので絶対に登らないでください』


 斬新な安全対策である。



 3人は問題の本棚の前に来た。


「ここですね」

間瀬ませくんがさっき探してた本棚じゃない?」

「はい」

「うえをみろ……一番上の棚にある本に何か隠されているのでしょうか?」

「それならって書くと思うので、棚の上面じょうめんを見るんだと思います」

「なるほど」

「これはあの台がないと無理ね〜」

「簡単には見つからないようにしたのですね」

「はぁ、面倒なことを……」

「ちょっと台持ってくるわね」

「「お願いします」」


 綿谷わたやは台を取りに小部屋へ向かった。


「それにしても、何故こんなに手間のかかることをしたのでしょう?」

「まぁ何か意味はあると思いますけど、暇人なのは確かですね」

「……そうですね」


 数十秒経って、綿谷がキャスター付きの台を引きずりながら戻ってきた。

 拓真たくまが台に乗り、本棚の上面を調べる。


「どう?」

「壁際に紙が1枚あります」

「それだけ?」

「はい」

「周りの本棚の上には〜?」

「……特に何も」

「そっか。ありがと〜」

「ありがとうございます」


 拓真は台から降りた。手には1枚の紙がある。


「それで、何か書いてあった?」

「いや、白紙です。見てください」

「……本当ね」

「真っ白ですね」

「やっぱりイタズラだったのかな〜?」

「うーん……」

「……いや、イタズラではないと思います」

「どうして?」

「何か分かったのですか?」

「はい、多分……」


 拓真は考えながら話を進めた。


「先生、図書室って毎日掃除してると思うんですけど、流石に本棚の上までは毎日やってないですよね?」

「そうね〜。そんなに汚れないから1週間に1回だね〜」

「ちなみに、最後に掃除したのはいつですか?」

「えーっと、一昨日おとといだったかな?」

「じゃあこの紙は一昨日の掃除の後に置かれたのか……」

「えっ、何で分かるの!?」

「それより前に置かれてたら掃除の時に気付きますよ」

「あっ、そうね。あはは〜」

「一昨日より前に置かれていて掃除の前に一度回収した、というのは考えられないですか?」

「ないですね」

「どうしてですか?」

「この横並びの本棚は他のよりタッパがあります。紙は壁際にあったので、この台を使わないと取れなかったです。でも普段これは小部屋に置いてあって、児童が使う時は必ず先生が同行して支えます。ですよね?」

「そうね。小さいのは自由に使っていいけど、これは危ないから」

「つまり、この台を使うと先生に気付かれます」

「なるほど……」

「棚板に体重をかければ板がこちらに傾いて本の雨が降る。よじ登るのも不可能です」

「なら児童Xはどうやってその紙を置いたの?」

「小さい台からジャンプしたんですよ。で、その時は紙が下から見えないように奥に飛ばした。壁際にあったのがその証拠です。だから後で回収するのは無理なんです」

「納得です」

「あとこの紙ですが、どこかで見たことありません?」

「んー、そう言われると見たような……」

「もしかして、折り紙ですか?」

「だと思います。試しに綺麗に三角に折ってみてください」

「何で?」

「それで分かります」

「やってみます」


 詩織しおりが細い指で紙を三角に折った。


「出来ました。どうぞ」

「ありがとうございます。……やっぱり。見てください。微妙に端が揃ってないですよね?」

「本当だー」

「ですね」

「市販の折り紙のほとんどは、完全な正方形になってないんです。だから綺麗に三角に折ってもぴったし揃わない」

「そうなの?」

「工場で複数枚同時に裁断されるので微妙にズレが生じるんですよ」

「何でそんなこと知ってるのよ〜」

「前にテレビでやってました」

「へぇー」

「長くなりましたが、暗号作って本に隠したりわざわざ白色の折り紙を使ったり……ここまで手が込んでると、流石にイタズラとは思えないです」

「さっすが〜」

「本当にすごいです!」

「たまたまですよ」



 ♪〜



 拓真の顔が少し赤くなったと同時に、下校時間を知らせる音楽が校内に流れ始めた。


「時間ですね」

「じゃあ今日はここまで! 続きは明後日あさっての放課後にしましょ〜」

「はい」

「はい……」(またゲームの時間が減る……)

「あっ、今日のことは誰にも言わないでね〜」

「どうしてですか?」

「だって図書室がいっぱいになったら面倒でしょ〜?」

「図書室の先生とは思えない発言ですけど、賛成です」

「分かりました。3人だけの秘密ということですね!」

「そういうこと〜」


 ***


 拓真と詩織が帰る準備をしている中、綿谷があることを思い出した。


「そういえば、前にも謎めいたことが起きたわよね〜」

「あっ、覚えてます」

「そんなことありました?」

「委員会が始まってすぐのことよ〜」

「あー、何となく記憶が……」

「まぁ帰りながら思い出してみて〜」

「そうします。じゃあ、さようなら」

「はーい、さようなら〜」


 帰宅途中、拓真は綿谷の言うを思い出していた。

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