第2話 謎の文字列

「この本からはみ出てました。しおり……でしょうか?」

「もしこれが栞なら、なかなかの趣味ですね」

「そうですね……」

「どうしたの?」

「あっ、先生。ちょっと気になるものが……」

「どれどれ……」


 綿谷わたや詩織しおりの持つ不気味な栞を見て、気持ち悪がった。


「うぇー、何よこれ〜」

「まぁサイズ的には栞だと思いますけど」

「どうでしょう……」

「あっ、すみません。さっきからって」

「ふふっ、別に良いですよ」

「でも、ただの紙かもしれないのでメモって呼びましょう」

「お気遣いありがとうございます」


 3人が見ているメモには謎の文字列が書かれている。


 —————————

 いたちばたんおたく

 たかぎのほたんだな

 たうえをたたかろた

 —————————


「全く意味が分かりませんね」

「何かの暗号かしら?」

「ただのイタズラじゃないですか?」

「あっ、でも3文字ずつ読むと意味が分かる部分もあるわね」

「いたち・ばたん・おたく」

「たかぎ・のほた・んだな」

「たうえ・をたた・かろた」

「意味が分かるのは1行目の3つと、2行目と3行目の1つ目ですね」

「えっ、ばたんって何?」

「倒れる音……」

「それはないんじゃない?」

「ですよね」

「ではそれを抜いた、いたち・おたく・たかぎ・たうえ、この4つから何かを連想するのでしょうか?」

「うーん……」


 3人は険しい表情で考えている。


「たかぎって人の名前じゃない?」

「たうえって人もいると思いますけど」

「そうよね〜」

「では人の名前の線は無さそうですね」

「あっ、ちょっと待って! やっぱりたかぎさんよ!」

「どういうことですか?」


 首をかしげる2人の前で、綿谷は自信満々に考えを話し始めた。


「いい? まず、いたちは動物のイタチ。で、おたくはそのままオタク。たかぎはこの学校のたかぎさん。そして最後は田植え。つまり、イタチオタクのたかぎさんが田植えをするって意味よ!」

「意味は……通りますね」

「でもそれはちょっと……」

「えー、結構良い線いってると思ったけどな〜」

「てかよく考えたら、3文字ずつ読むっていうヒントが無いからそもそも考え方が間違ってるかもですね」

「私も思いました。あとは、縦読みなのか横読みなのかも分かりません」

「はぁ、振り出しに戻ったのね〜」


 綿谷はやれやれという表情で時計を見た。


「2人とも、あと15分で……」


 そのまま続けて「下校時間になるから今日は諦めましょう」と言おうとしたが、あることに気付いた綿谷は思わず口に出してしまった。


「あら、そのたぬきの絵、可愛いわね〜」

「えっ、狸? どこですか?」

「裏にあるわよ」

「あっ、本当だ」

「ふふっ、小さくて可愛いですね」


 メモの裏には左手を挙げている可愛い狸が描かれていた。


「でも、何で狸?」

「元々プリントされていたのでしょうか?」

「いや、それはなさそうです。見てくださいここ。かすかに描き直した跡があります」

「本当ですね」

「じゃあそれも何か意味があるってこと?」

「もしかして……」


 何かに気付いた拓真はそのまま続けた。


「この謎の文字列から“た”を抜けってことじゃないですか?」

「あっ、だから狸なのですね」

「おーなるほど!」

「そしてこの狸は左手を挙げてるから、左上から読むんだと思います」

「やってみよー!」


 拓真は別の紙にの文字列を書き出して左上から読んだ。


「いちばんおく、かぎのほんだな、うえをかろ……この図書室に鍵が掛かった本棚ってありますか?」

「それは無いわね〜。まぁあったとしても……」

「うえをかろ、この意味が分かりませんね」

「ですよね」

「書いた人が間違えたのでしょうか?」

「かもね〜。これ書いたの児童だろうし」

「えっ、何で分かるんですか?」

「だって先生方にはこんなの作ってる暇無いもの〜」

「あー……でも間違えたってのはないと思います」

「どうして?」

「こういうのって、普通は作る前に正しい文を書いて、その後に消す文字を足しません?」

「確かに……」

「そうすると、2文字だけ間違えるのはおかしいですね」

「そうなんです。だから他に何か手掛かりが……」


 拓真はそう言いながら周りを見回し、テーブルに置かれた本を見てひらめいた。


「そういうことか」

「えっ、分かったの?」

「はい」

「教えて!」「教えてください!」


 同時に迫る2人から少し離れ、拓真は残りの謎を解き始める。


「このメモが挟まっていた本のタイトルは『鏡の国のタヌキ』です。ここのタヌキが栞に描かれたとすると、この栞は鏡の国になります」

「鏡の国……もしかして鏡に映すと何か分かるとか!?」

「いや、違います」

「えー、なら何なのよ〜」

「鏡の国、かがみの国、つまりになるってことです」

「そういうことでしたか!」

「さっきの文字列にあるにすると……」

「いちばんおく、みぎのほんだな、うえをみろ!」

「それが答えです」


 下校時間までは残り10分。

 3人は図書室の右奥へと向かった。

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