第11話 自白剤

 王女宮の中庭にある広めのガゼボでお茶会をすることになった。


 アマーリエ様と私が先に来て座っている。


 お茶を淹れるメイドはもちろん影だ。うまい具合に技を使い、殿下のカップには解呪剤、ザラ嬢のカップには自白剤を入れる。


 ふたりは何かが入れられているなんて全く考えていない様だ。


 普通、自分か魔法をかける様な人なら、他人も疑うはずだが、とんだお馬鹿さんだわ。


 アマーリエ様は何も話さずじっとふたりを見ている。


「シル、エミール卿との結婚おめでとう。エミール卿はシルにベタ惚れだったから蜜月も大変だったんじゃない? 蜜月中なので仕事を休ませるってエクセグラン公爵が陛下に話しに来ていたわよ」


「そうなのですか? エミール様は優しいですので、蜜月もお優しかったですわ」


 チラッてザラ嬢の顔を見る。薬はまだ効いてないのかな。


「ぐぅっ」


 エーベルハルト殿下が口を押さえている。吐き気かな? 薬が効いてきたようね。


「エーベル、どうかした?」


「気持ちが悪いのです。まさか姉上、毒が盛ったのでは?」


 殿下は気分の悪さは王女に毒を盛られたと思っているみたいだ。


「まさか、なんで私があなたに毒を盛らなきゃならないのよ。貸してみなさい!」


 アマーリエ様がエーベルハルト殿下のカップを取り上げて残っていたお茶を飲み干す。


 アマーリエ様は魅了の魔法にかかっていないので解呪の薬を飲んでもどうにもならない。


「普通の美味しいお茶じゃないの。よくも私に冤罪をかけようとしたわね。そう言えば貴方達は冤罪にかけるのが得意ですものね」


 扇子で口元を隠しほほほと笑うアマーリエ様、怖いです。


「姉上……それは……」


 吐き気と酷い頭痛かしら、殿下は顔をしかめている。薬が効いているようだ。やはり殿下は強くかかり過ぎているようで簡単には解けないかみたいだ。


「私を階段から突き落としたのもザラ嬢でしょう? あなたのその手に背中を押されたのを覚えていますわ」


「くっ……言いがかりだ。ザラがそんなことをするわけがない」


 殿下は苦しみながらもザラ嬢を庇う。馬鹿ね〜。


「ザラ嬢、どうなの?」


 アマーリエ様がザラ嬢を扇子で指す。


「だって~、邪魔だったんだもん。思いっきり手のひらで押してやったわ。他の女達は泣き寝入りだけど、こいつはあたしに歯向かって来るのよね。目障りだったの。一緒に落ちてこいつに突き落とされたって言うつもりだったのに、1人で落ちたのよ」


 ザラ嬢はそう言うと手で口を押さえて、頭を振っている。


「なぜ? どうして?」


 独り言だ。どうしてってそりゃ自白剤が効いているからなのでしょう。


「じゃあ、あなたがデルやイレーネ達から嫌がらせをされてると言うのは?」


「そんなの嘘に決まってるわ。あたしはいつも殿下達と一緒だし、あいつらと会ったこともないわ。でもいじめられたって言ったら、みんな簡単に信じて面白かったわ」


「では、私を好きだといったのは嘘だったのか?」


 エーベルハルト殿下は痛みに耐えている。痛苦しそうな顔をしながら隣に座るザラ嬢を見た。


「当たり前でしょう? 殿下は王太子だから近づいたのよ。後の側近はどうでもよかったわ」


 自白剤もよく効いているようだな。


 殿下はショックを受けているようだが、身体の辛さが心の辛さを上回っているみたい。


「何故、私はザラ嬢のことをなぜ好ましく、愛しく思ったのだろう? どこが良かったのかわからない」


 小声でぶつぶつ呟いている。


「ねぇ、ザラ嬢、あなたどんな手を使ってエーベルや側近達をたらし込んだの? 後学の為に教えてくれない?」


 アマーリエ様は立ち上がり、ザラ嬢の側に来た。


「魔法よ。魅了の魔法」


「魅了の魔法? 嘘よ。今の我が国にそんな魔法を使える者はいないわ」


 煽っているな。


「ふふふ、それがいるのよ。あたしよ」


 ザラ嬢はまるでアマーリエ様に勝ったかのように微笑む。


「どうやって魔法が使えるようになったの?」


「練習したのよ」


「誰に教えてもらったの?」


「本よ、本。魔法のやり方が載っている本を見つけたの」


「その本はどこにあるの?」


「うちよ」


「うちのどこ?」


「あたしの部屋。ベッドの下よ」


「そう。ペラペラ話してくれてありがとう。エーベルハルト、あなたもちゃんと聞いたわね?」


 アマーリエ様が身体をエーベルハルト殿下の方に向けた。


 その時、ザラ嬢が立ち上がりアマーリエ様の腕を捻り上げた。


「あたしを捕まえるつもりなんでしょう! 私は王妃になるのよ。この国でいちばんの金持ちになって贅沢するのよ! 捕まらないわ!」


 アマーリエ様を盾にして逃げるつもりか。

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