第10話 ミッション頑張るぞ!(エミール視点)

 私はぼんくらだった。


 殿下がヤバい女にまとわりつかれはじめた。最初は嫌悪していたのに、いつの間にか仲良くなっている。

 殿下には婚約者がいるので、私は何度も殿下にダメだと言ったが、気がついたら自分もたいして変わらない状態になっていた。


 自分が何をしたのか、ぼんやりとしか思い出せない。でもあの女を優先し、あの女を崇拝していたようだ。


 命より大事だと思っていたフィアに酷いことを言ったし、階段から落ちて怪我をしたフィアを助けるどころか罵った。


 魔法にかかっていたなんて言い訳だ。


 かかった私が全て悪い。とんだ間抜け野郎だ。

 でも、不幸中の幸いだったのはフィアが私と結婚してくれていたこと。神様ありがとうございます。

 しかし、白い結婚での婚姻無効を望んでいるなんて。


 フィアや父のいう通り何としてでもここでやるべきことをきちんとやり終えフィアに見直してもらわねば、信頼を取り戻さねば。



「エミール、やっぱり戻ってきてくれたのね」


 私の姿を見たザラ嬢が駆け寄ってくる。瞳を潤ませて上目遣いで見つめる。


 キツい。吐き気がする。魔法封じが効いている。


「私達はこれから姉上のお茶会なんだ。お前の夫人も来ているそうだ。姉上とふたりでザラをいじめるつもりだろう」


 殿下は不機嫌だ。


「申し訳ございません。結婚のことは親が勝手に致したこと。私の心はザラ嬢のものでございます」


「きゃ~、うれしい」


 うへぇ~、気持ち悪い! 離れろ! 心で叫ぶ。


「とにかく私達は行ってくる」


 エーベルハルト殿下とザラはアマーリエ様のお茶会に行った。これは私に与えられたミッションが行いやすいようにとのはからいだろう。ふたりがいないうちにやってしまおう。


 まずはステファンからだな。


「ステファン、お前正気だよな」


 ステファンは私を情けない顔で見る。


「エミール、なんで戻ってきたんだ? 好きな女と結婚できたんだろ。もう戻ってこないと思った」


「戻りたくなかったんだが、フィアに良いとこ見せたくて戻ってきた」


「相変わらずだな」


 私は跪きステファンの足首に魅了の魔法無効化の魔道具をつけた。そして立ち上がりポケットから薬を取り出してステファンの口に放り込んだ。薬は口に入れると溶けるようになっている。


「これはなんだ?」


「魅了の魔法と別れるための薬と魔道具だ。お前は私と同じでかかりが浅い気がしたから1番先に解呪させてもらった」


「酷いな。これで完全に正気に戻ってしまったよ。私は魔法にかかっている間にやらかしたんだろ? アンリに酷いことをしてしまったんだよな」


「あぁ、そうだよ。だから私に協力してくれ、ザラが魅了の魔法を使って私達を操っていたことを暴いて、ザラに罪を償ってもらう。そしたらアンリエッタ嬢ももう一度会って話をしてくれるかもしれないぞ。お前このままでいいのか?」


 ステファンは婚約者を愛していた。このまま別れてしまうなんて辛いだろう。


「魅了の魔法なんかにかかった私達が間抜けだったんだ。アンリをこれ以上傷つけたくない。悪いが私は協力できない。このまま消えるよ。殿下の側近も辞める。ふっ、殿下ももう終わりだろうな」


 ステファンは笑いながら部屋を出て行ってしまった。


 ステファンにはステファンの思いがあるのだろう。


 私は何も言えない。



 後のふたりはひとりでは難しいな。


 とりあえず私がされた様に縄で縛り、猿ぐつわだな。猿ぐつわをする前に薬を5錠くらい放り込むか。あいつらよりは私の方が身体も大きいし、強いはずだ。


 なんとかなる。いやなんとかしないと後がないんだ。頑張れ私。


「おう、エミール、戻ってきたのか。やはりザラの側がいいよな。ザラ最高!」


 馬鹿だな。パトリック。


 私は後ろにまわり、ハンカチで鼻と口を押さえて染み込ませてある薬物を嗅がせた。


 パトリックは暴れていたがすぐに静かになった。用意していた縄で縛り上げる。私は身体が大きく、力も強くて良かったと本当に思う。

 そして、足首に無効化の魔道具をつけて、口に薬をとりあえず5錠突っ込んだ。


 唾液で溶けているから大丈夫だろう。


「エミール! 何をしてるんだ!」


 アーノルドが部屋に入ってきた。しまった鍵をかけるのを忘れていた。


「アーノルド! 私が部屋に入ってきた時はパトリックはこうなっていたんだ。どうすればいいのだろう? ザラに知らせるか?」


 私は発見者になりすますことにした。ザラの名前を出せば魔法にかかっているアーノルドは騒ぎ立てないだろう。


「さっきステファンとすれ違った。まさかあいつか」


 アーノルドが呟いた。


「まさか、ステファンがこんなことするわけないよ」


 ステファンのせいにはできない。


「そうだな。ザラは殿下とあの鬼姫のところに行っている。きっと鬼姫にいじめられているはず。助けに行くか?」


 アーノルドの心はザラでいっぱいだ。もうパトリックのことなど見えないみたいだな。本当に魅了の魔法は怖い。


 背を向けたアーノルドを後ろから羽交締めにし、パトリックと同じように意識を薄れさせて、縄で縛り、魅了の魔法無効化の魔道具を足首につけ、薬を飲ませてから猿ぐつわをしておく。


 さぁ、私のミッションはとりあえずこれで終了。


 こんなんじゃまだ、フィアは見直してくれそうもないなぁ。


 まぁ、これからだ。


 フィアが心配なので王女宮に忍び込むか。お茶会はどうなっているのだろう。


 私はパトリックとアーノルドを転がしたまま、部屋を出て扉に鍵をかけ、王女宮に向かった。




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