第2章

先輩になった日

 私は何も出来なかった。先輩を助けるためにダンジョンに行って、そして外に転移させられた。でと、まだ私は先輩のことが気になって、死んでほしくなかったから、またダンジョンに入った。

 そこで私は倒れていた先輩を見つけて、今、助けようと魔力を…


「そうだ、先輩は…先輩は。」


 見慣れた風景。ここは…本部の宿舎?


 どうやら私は、結局生きたらしい。ドアが開く。中に入ってきたのは、私の部門のお偉いさんだった。


「あの、先輩は?」


「残念ながら、行方不明だよ。恐らくダンジョンの爆発に巻き込まれたのだろう。」


 あくまで淡々とお偉いさんは口にする。


「そんな、はず」


「この会社じゃそんなことは日常茶飯事だ。君も気持ちを切り替えて、業務に支障がでないようにしてくれ。」


「はい…」


 先輩は死んだ。それもあまりにあっけなく。私は…救いに行ったはずなのに、結局なにも解決はしなかった。最終的に先輩は何を考えながら死んだのだろうか。


「後、そうだ。」


「はい、なんでしょうか。」


「ダンジョンの外で君が気絶していた時にクラス5職員の腕章がつけられていた。その他の装備品と一緒に、保管してある。」


 私が、クラス5職員の腕章を?


 つまりそれは、先輩は自身の死を察し、私に腕章を渡したということなのだろうか。このままいけば私はクラス5職員になって、後輩ができる。


「そんなの、無理ですよ…」


 後輩はおろか、自分自身すらまともに守れないような私に、その仕事は荷が重すぎます。さらには、自分の無力さを心の底から感じているような時に渡してくるなんて、先輩は鬼ですか?

 でもこれがこの会社の日常なのも、また事実なんですよね。


「…装備の確認に行きますか。」


 本当に先輩がつけていた腕章なのか。私は、先輩から託されたのか。それをこの目で確認したかったから。



 私のロッカーの中にはきちんと杖がおいてあった。あの時握っていた杖だが、1ヶ所だけ違うところがある。杖の中心部、一番魔力が集中するところに赤色の魔石が埋め込まれている。


「先輩が使ってた魔石と一緒…」


 元々こんな魔石、私の杖には埋まっていなかった。見たことがあるのは、先輩が武器を振り回していた時だけだった。試しに持つと身体中に魔力が行き渡る。昇進する後輩へ先輩からのプレゼントということだろうか。


「これは?」


 キラキラとした見たことのないネックレスが入っている。以前に先輩がくれた物とはまた別の物だ。

 中心には緑の魔石が埋まっている。少し雑な加工だが、身に付けてみると体が活力で溢れるようだった。これはあの時、先輩の体を蝕んでいた魔石だろうか。実際、少しだけど先輩の魔力も感じる。


 そして最後に残っているのは…腕章だった。


「本当に先輩が使っていたの、なんですね。」


 これにも先輩の魔力が少しだけ残されている。先輩は、私が先輩となることを良しと思ってしたのか、それとも私しかその場にいなかったから私に渡したのか、今となっては分からない。

 それでも、託された者として、その職務と責任は全うしなければいけない。


 恐る恐る腕章をつける。すると、頭が急に痛くなってきた。


「なにか、流れ込んで…」


 先輩の声が聞こえる。幻聴だろうか。それとも、これは。


「後輩。お前がこの記憶を読んでるってことは俺は多分死んでる。そうじゃなくとも、お前は俺の腕章を今、身に付けてる。つまり俺は死んだも同然の状態ってことだ。」


 頭に先輩の声がこだまする。先輩は、魔力を応用して自分の意識すら持ち運び可能にしたのだろうか。そんなこと、現代社会では聞いたことが無い。いや、魔力での記録?聞いたことはありますが実用化されたとまでは…


「いいことを教えてやろう、後輩。先輩になったら、守るものがうんたらとか考えがちだが、一番したいことを心の奥に据えておけばまあ、なんとかなる。経験談だ。」


「それに、俺がクラス5職員になったのも、俺自身の先輩からこの腕章を手渡されたからだ。そこまで気に病む必要はない。この会社じゃ、悲しいかな先輩、後輩の死亡は日常の出来事として忘れ去られていくだけだからな。」


「じゃあ、記録終わり。ちょっと短かったか?まあいいだろ。頑張れ、後輩。んで、お疲れ、俺。」


 そして私の頭の中にいた声は消えた。


「先…輩。」


 少し、感動しちゃいました。まさか先輩からこんなサプライズプレゼントをもらえるとは思っていませんでしたからね。

 それに、先輩は自分の命にすら大して執着を持っていなさそうで、結構驚きましたよ。あとは~そうですね、あんな人がまさか後輩を労う精神をもってるだなんて。


「でも、これを聞いたら頑張るしか無いみたいですね。」


 先輩の悪い癖が出てますねこれは。いや、この会社自体がそういった仕組みなのだから仕方はないのだけれど。


「頑張りますか、明日から。」


 フラグじゃないですよ。本当です。真面目に、明日から頑張りますよ。ただ今だけは、ちょっとだけ先輩を惜しんでも問題はないですよね?

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