後輩のいる生活

「右に隙が多いですね。もっとそこを気を付けた方が良いと思います。」


 私は今、警備会社の人に魔物との戦闘で留意すべき点と戦闘のアドバイスをしています。


「まだ少し甘いですね。」


 ここの人たちは力はあるけどその力を使いきれていない典型的な人たちですね。大切なのは単純な力比べじゃなくて生きたいという意思なのだと。昔に私の先輩が言っていました。まあその先輩も亡くなってしまいましたが。


「今回の演習はここまでです。皆さん目の前に力を出すのではなく、自身の周りに気を配るようにするとより戦いやすくなるでしょう。」


 これで死ぬ人が1人でも減ったらいいなぁ。ダンジョンが出てからかなり経つというのに、ダンジョン関係の死者はまだまだ出てきているんですよね。


「お疲れ様です!先輩!」


「ん、お疲れ。」


 そういえば私にも後輩ができたんだった。これまでは私が後輩でしたけど私が先輩で私に後輩がいるという生活もとても…新鮮!良い!


「この次はどうするんですか?」


「大量発生の調査だね。最近魔力の量が不安定なところがあってね。」


「場所は…」


「D1だよ。」


「了解です!今から行きますか?」


「うん、そうだね。」


 可愛い!なんて純粋な目をしているんだ…この子にはずっとこのままで生きていて欲しい…でもこの会社に入った時点で純粋は…まあ、今が良ければそれでよしとしましょう。


 


「到着、到着っと。」


 私の転移魔法でサクッとD1ダンジョンに転移する。


「魔力…どうですか?」


「結構濃いね。まあまあきついかも。」


 なんだろう。魔力の量は多いけれどまるで内に内に溜め込むかのように濃縮されている。なにか魔法に長けた魔物が突然変異でもしたのかもしれない。


「まあ、行こうか。」


 ダンジョンの中に入る。なんだか…霧が出ていて非常に見通しが悪い。


「ん、」


 魔力の流れが変わった。かなり遠くにゴブリンが4体。さっさと光の広域魔法で飛ばす。


「先輩、正面です。」


「多いねぇ。」


 正面にはゴブリンがさらに6体。もしかしたらゴブリンの大量発生なのかもしれない。このゴブリンは各々がしっかりと武装しており、なかなか面倒な相手だ。


「光で消し去る。」


 ゴブリンの居るところに光の柱が出て…ゴブリンは消えた。近づいて地面を見てみたけど魔石は出てないのか、残念。


「っ!先輩!」


「え?」


 気がついたら後ろにいた後輩がどこかに連れ去られている。


「落ち着いて。冷静に。」


 周りのツルが悪さをしてるみたい。植物が意思を持っているように動いている。それも、私を奥につれていこうとしているようですね。これまでは私が体に魔力を張っていたから、私には攻撃してこなかった、いや出来なかったらしい。


「まずは、後輩の場所をチェックしなきゃ。」


 魔力を使った緊急ボタン。これで位置が分かるはず。


「かなり中心によってるなぁ。」


 中級ポータルの中、さらに奥といった所だろうか。あまりダンジョンの中で転移魔法はしたく無いんですけど…まあ後輩のためなら仕方がないですね。



 さて転移魔法を使って、中級ポータルの前までやって来たわけだけど。

 当たり前だけど居るよね。ガードが。


「今回はインプかぁ。」


 とりあえず光の矢。これで牽制しながら、もし倒せたらラッキーということで。


「弾かれた?」


 しかし私の光の矢はあっけなくインプの防御魔法に弾かれる。おかしい。インプにしては魔力量が多すぎる。空気中の魔力がおかしいからかな?


「光の前に消えるんだ。」


 私を中心に光が広がる。それに当たったインプはそのまま地面に倒れてじたばたしてから消えた。魔力量が多くてもまあこれくらいならなんとかなりますね。


「さて、私の可愛い後輩はこの先ですか。」


 中級ポータルに入る。



 中級エリアは草原のような場所だった。見通しがかなり良いため、後輩を見つけるのに時間がかからなかったのはありがたい。

 まあ無事で発見できた訳ではなかったんだけど。


「後輩?」


 返事がない。ただのしかばねのようだ。


 なんちゃって。さすがに、後輩はまだ死んじゃいませんね。初のダンジョンくらい意識のあるまま返したかったんですけど。

 今更ながら多少無茶をしてもしっかり私を守ってくれた先輩はすごかったんだなと実感する。


「でも、ここにつれてきた奴がいない…?」


 周りに敵はいない。この見晴らしの良さで見落とすはずもない。

 透明化とか?いや、違うな。透明化でも魔力の流れを見れば大体は位置が分かるものだ。


 後ろだ、いきなり魔力の流れが…

 地面から出てきた杭で腹が貫かれる。でもその傷はすぐに埋まっていって、また元通りに戦えるようになる。

 それにしてもこれは…ダンジョンそのものが変異しようとしているのかもしれません。だとすれば、かなり不味い状況にあります。前代未聞ですよ、これは。


 腕が吹き飛ばされる。前衛がいないためぼこぼこにやられてしまっているが、ダメージよりも治癒力の方が高い。


「いや、でもこれはかなりキツイですね…」


 どうやっても勝てる見込みがほとんどない。


「まあ、やるっきゃないのも事実ですから。」


 杖を握る。周りに障壁を張る。で、敵をしっかり補足する。これ大事ですよ?テストに出ますから。今回は敵が地形、ダンジョンであることだけが面倒な点ですけど。


「じゃあ、始めましょうか。」


 対ダンジョン戦闘(物理)の開幕です。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る