クラス5職員

 俺は今回の騒動の原因と戦い、倒れた。だが、どうやらまだ死なせてはくれないらしい。


「…輩…先輩。」


 暖かい声がする。これまでよく聞いてきた声だ。まだ、俺は生きているらしい。体に力が入れられる。辺りの魔力を感じることができる。

 どれくらい倒れていたのだろう。元凶を殺すことはできたのか?気になることがたくさんある。そして目を開けるとそこには、


「…先輩は、生きてくださいね?」


 そこには、今いるはずのない後輩が、倒れていた。


 体の中にあった汚れた魔力が光の魔力と溶け合い、定着していく。


 「はあ、またか。」


 この会社のクラス5職員になることのできる人は実力を持つ一握りである。そのため、もしクラス5職員が危険に陥った場合にはクラス3程度の職員を犠牲にすることも多い。

 目の前の後輩は多分俺に自分の魔力を流したのだろう。だが、俺の体にある魔力を馴染ませるほどの魔力を一気に体から失えば、普通の人間は今倒れている後輩のようになる。生きているか、死んでいるかさえ分からない。


「死んでは、いない、か」


 かなり危険な状態だが今は死んでいない。しかしこれでは…


「だが、任された。」


 クラス5職員は呪われた役職だ。自分のために、多くの人が死ぬ。長い目でみたら、自分が生きたほうがもっと多くの人を救えるのかもしれない。それでも、目の前の後輩1人の命も救いたいというのはただの自分のエゴでしかない。だが、俺はクラス5職員。この会社の最高戦力として、成すべきことがある。


 俺は最後、奴の方をみる。

 奴の体全体から霧と魔力が出ている。もう、終わりだ。これで、この悪夢みたいな戦場は終わる。これは、俺の仕事だ。

 倒れている奴の首に槍を突き刺す。それによって空いた穴からは止めどなく魔力が流れ続ける。ああ、そういえば忘れていた。


「こちら突入隊、元凶の殺害に成功。ただ、予期せぬ事態によりダンジョンそのものが危険な状態にあります。ダンジョン内にいる関係者は今すぐ脱出してください。」


 これで俺の正式な仕事も終わりだ。

じゃあ、後輩を逃がすとしよう。

 俺はその辺に転がっているリザードマンの死体から簡単なネックレスを作る。そしてそこに魔石をはめる。


「ぐっ…あぁぁ…」


 体から魔石を取り出す。これはあの変異種リザードマンの魔石だ。後輩の魔力でこの魔石を加工する。こいつの生命力があればまず死なないだろう。

 次に俺の武器。中にはいっている赤の魔石を取り出して、後輩の武器に埋め込んでやる。

 この魔石は感情の変化にともなって力を増幅させる。後輩にはピッタリの品だ。


「さて、もう時間もないか。」


 奴の死体から出ている魔力量は異常だ。上級エリアのポータルは氾濫し、魔力によって変貌した異形の魔物が出現し続けている。

 しばらくすればこのダンジョン自体が爆発でも起こして消滅すると思われるが…爆発までに起こる被害は計り知れない。


 そうそう、これを忘れるところだった。後輩にクラス5の証である腕章をつけておく。

 その後は前にやったのと同じように後輩をダンジョンの外に転移させる。俺の魔石でかなり回復しているし、ここの魔力量も多い。恐らく回復できているだろう。


「じゃあ、元気で。」


 気を失った後輩の転移を見届ける。


「最期くらい、仕事に追われない方が嬉しかったんだが。」


 目の前に迫る異形。俺は槍を振ってそいつの首を飛ばす。後輩のお陰で体は好調。魔石も後輩に渡したから蝕まれる心配もない。それに空気中の魔力も濃い。これなら、まだまだ戦える。


「バイバイ、社会。」


 俺は中級エリアと初級エリアを繋ぐポータルを魔力を流して破壊する。これでここと外界との繋がりは消えた。後は、俺が如何にして死ぬかの物語だ。


「ほら。」


 気色の悪い触手を切り落とし、首を飛ばして、心臓を貫く。






「はい、これで30体目とかか?」


 今、1つ心配なのが後輩だ。家の会社の昇進はクラス1から4までは普通に行ける。だが、クラス5になるためにはクラス5の腕章をつける必要がある。どういうことか?つまりクラス5職員から力ずくで腕章を奪うか、クラス5職員の死亡に立ち会うかの二択でしか昇進できないというわけだ。例外的に付与される場合もあるらしい…だが俺はそんなものを見たことはない。

 俺がクラス5職員になったのは…クラス4の時にクラス5の先輩が、精神汚染によって自殺を試みた後、


「これは、君の方がふさわしいよ。」


 そんな一言と一緒に手渡されたものだった。あのあと先輩は…死んだんだろうな。きっと。 よく考えればあの時は俺も強制転移で逃げさせられたんだったか。


 あの後輩が、この現実を受け止めてクラス5になれるだろうかなどと考えながら、異形を狩り続ける。

 とんでもない魔力を吸収しているため倒せば倒すほど魔石もポンポンドロップしている。


「こいつ…固いな。」


 蛇のような見た目をしたそいつは傷をつけた瞬間にその傷は元通りに治っている。


「ふぅん。」


 体を粉々に砕いて殺す。しかしその破片は元の位置に戻っていく。


「これは…気味が悪いな。」


 魔石が体の形成を再び始めた所で一気に魔石に魔力を流して、破壊。浮いていた破片はそのまま重力にしたがって地面に落ちる。

 魔石は破片が集まり、元の姿に戻ったが体を再生する様子はない。


「どんな魔石なんだか。」

 

 とりあえず拾っておく。


「はいはい、怖い怖い」


 目の前にまた敵。それをさっさと殺しきる。

 まだなんとか戦えそうではある。






 



「ふいー…」


 さすがにキッツい。数が多いし一体一体の強さもなかなかのレベルに達している。ダンジョンが爆発する様子は未だしない。

 せめて最期は爆発で死にたかったが。

 やれ、何体殺したんだろうな?少なくとも天国に行くことはなさそうな数殺したが…


 頭に触手が巻き付く。

 

 でも、まあこれで騒動は一段落するだろう。そして俺は労働から解放されると。

 

 お疲れ。俺。

これで、終わりだ。



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