転移、そして救助

「っ、はぁっ、ここは?」


 ダンジョンの…外?

 やられた。私は先輩によって外に転移させられてしまったようだった。

 転移のショックでどれくらい倒れていたのか。先輩はまだ生きているのか。様々な疑問が頭に浮かんでくる。


 先輩は今度こそ死ぬかもしれない。あの人は目標達成のためにはそれをも厭わない人だから。それを阻止するため、ストッパーになるために自分がずっと側にいようと。そう思っていたのに、現実は甘くなかった。いや、先輩の方が一枚上手だった。


「くっ、」 


 頭痛がする。中級エリアから直接外に飛ばされたのだから、体に入ったダメージはそこそこだったのだろう。それでもダンジョンの中に再び入らなければならない。今度先輩にであった時、存分に怒ることが出来るように。


 ダンジョンの初級エリアに入る。そこは中々の地獄だった。

 リザードマンはほとんど倒れ、残ったリザードマンももうほとんど独立して戦っている。体勢は決したようですが、しかし…


「たす…け、」


「大丈夫ですか!?」


 足元で負傷者が助けをよんでいる。いや、呼んでいた。もう既に息はしていない。

 どうやら近くも似たような状況のようで、多くの人が救命活動を行っていた。私はそれを無視して中級エリアに行こうとする。きっと先輩はまだ戦っているはずだから。

 それでも、私は他人を見殺しにすることなんて出来なかった。

 きっと、ここで感情に流されるのか、やるべき事をやるのかという点が先輩と私の差なのだろう。


「今、助けます。」


「助かる。すまんな。」


 大きな盾を持った人を立たせ、一時的に魔力を流して応急処置をしておく。それから出口の位置を教え、別れる。同じようなことを三回くらいしていたタイミングで通信がきた。


「」


 …空白。先輩からだった。それは、ダンジョン内部で行方不明になったときに使われる位置情報ボタン。そこから来た位置情報は中級エリアのど真ん中。しかし、次の瞬間には別の場所に位置が変わっており、恐らく何かしらの転移魔法でも受けたのだろうと推測できた。

 そして位置情報が送られてきたということは苦戦している。もしくはこんな事を気にすることも出来ないほどに激しく戦っているか、なのでしょう。

 先輩の性格的に前者は無いでしょうね。多分。


 なにはともあれ、今の私に一番欲しい情報を手に入れることができた。自分がしたいことをする決断の、支えになる情報を。

 

 私は走り出す。中級エリアのポータルまでの距離はまだあと少しある。


「救助してくれ!」


「すみません!」


 ごめんなさい。今、私にはやるべきことがあるんです。

 自身の体に魔力を巡らせ、より速く走る。間に合いますように。見えてきた。中級ポータルだ。しかしガードが復活している。ここのガードはコボルトの軍団でしたね。魔法を使える私にとってはそこまで苦戦する相手でもない…と思いますが。


「光よ、敵を貫け。」


 固まっているところに光の槍を突き刺す。そのまま爆発させ、素早く軍団を始末する。

 さあ、先輩の顔をもう一度拝みに行きましょう。


 恐らく、ほんの数十分前までここで戦っていたとは信じられない光景に中級エリアはなっていた。ここに生き物の姿は見つかりそうもない。あるのは、人と、リザードマンの死体。そしてでこぼこの地面だけでした。そこからは戦闘の規模の大きさがよく分かった。

 しかし、変異種も、先輩もいない。送られてきている位置情報を見る。

 

「安定、してませんね。」


 位置がふらふらしている。まるで魔力濃度が異常な所で戦っているかのようだ。大体の場所はこの先のようだ。でも、やっぱり先輩の姿はなく、戦闘の音もしない。


「あれ?」


 なんだかこの辺りの魔力の流れが変な感じだ。あるところを境界に流れが中心に向かって収束しているような…


「っ、これは?」

 

 空間が、歪んでいます。そこから魔力が大量に漏れでていて、近くにいるだけで少し、気分が悪くなってきました。でも、もしかしたらこの空間こそが先輩のいる所、なのかもしれません。実際位置情報もここを指しています。


 なら、善は急げです。もう一度、杖を掲げて、周りの魔力を詳しく調べてみます。すると、どうやらこの近くに魔力の箱のようなものがあって、そこから魔力が漏れだしているような感じでした。


「なにっ!?」


 魔力の流れの中心地に行こうとすると、ちょうどそこで爆発が起きました。何度も、何度も、その爆発は大きくなり続けています。まるで…魔法を故意に暴発させたような爆発です。

 そう考えていた瞬間、1つの事に気がついてしまいました。


「位置情報が…消えた?」


 本来装備として支給されているベルトにボタンはあるはず。しかしそこから送られるはずの位置情報が消えた…となると。


「…」


 もう、手遅れなのかもしれない。それでも、まだ生きているかもしれない。それが、先輩か、元凶かは分かりませんが。


 大きな魔力の箱。そこからは不安定で、大量の魔力が流れ出ています。そして、どんどん大きくなっていく爆発も。ですが私はなかに入らなければいけません。


「行きましょう。」


 深呼吸をする。そして魔力を全身を覆うように展開します。これである程度のダメージは無効化できるはず。

 先輩を助けるために、私は魔力の箱で魔力が薄いところを見つけ、そこに私の魔力を流してポータルを作ります。

 しかし、その瞬間にその魔力の箱は爆発してしまいました。さらに威力を大きくしながら、連鎖的に放たれる魔法はもう、その空間を破っていました。


「この中に、先輩が?」


 生きてますよね?先輩。いや、先輩はきっと生きてる。先輩は生きる。

 私は魔力の壁を信じて、爆発の中に突っ込みました、

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