余命十数分。

 俺はあいつの攻撃に耐えられる。しかし俺が死ぬ前に、杖を攻撃して破壊しなければゲームオーバーだ。

 無理やり体内に未加工の魔石を取り入れたのだ。過剰かつ汚れた魔力は一時的には力になるだろうが、体が耐えきれなくなり、魔力に蝕まれて、崩壊するだろう。まあ、誰かがやらなきゃいけないことではある。それが今回は俺だっただけだ。


「いきなりクライマックスみたいな事を…」


 杖が光る。それは変異種が強化された時の光と似ていたが、次の瞬間、転移したのを感じる。


「ここは?」


 さっきとは違うどこか。それだけは分かるが、ここがどこなのかまでは理解が出来ない。ただ、良いところではないだろう。


「っと。」


 後ろから火球が飛んできた。これはもしかしたら認識阻害系の魔法なのかもしれない。

 だが詳しく考えさせてくれる暇もくれないようで、空から大量の矢が降り注ぐ。危ないのは弾く。が、それ一本一本が意思を持つかのごとく追尾してくる。弾いて地面に叩きつけるが、全ての矢は捌ききれず、身体中に矢が刺さる。


「クソッ。」


 体全身に矢を受けたが…生きた。変異種から吸ってなければ死んでたな。だがこのままではどのみち死ぬ。体は汚れた魔力で満たされており、まだまだ戦えそうだがその分体も蝕んでいるだろう。

 前だ。光のビームが発射される。それを横に飛んで避ける。


「ここだろ?」


 それまでの攻撃から大体の位置にあたりをつけて攻撃する。

 当たった。そんな手応えがする。そして、少しだけ周りの空間にヒビが入る。ここは奴の魔力で作られた空間だろう。つまり本体を叩けばどうにかなる。それが今回の攻撃で実証された。しかし、魔力の空間ということは魔法の威力はダンジョンの内部よりも調節が難しいだろう。その気になれば魔法を暴走させ、信じられないほど大きな一撃も出せるだろう。

 しかし奴の姿を見失った。流石にどこから攻撃が来るかも分からないと辛いものがあるが。


「魔方陣?」


 これまでも見てきたリザードマンの召喚魔法。しかし、リザードマンの変異種亡き今、リザードマンを召喚してもそれの統率を取ることは出来ない。しかし、召喚出来るのはリザードマンだけではないようで、召喚されたのは一匹のインプだった。

 

 インプ、正直ショボめの魔物ではあるが、魔力量は確かに高い。インプは何の迷いもなく杖を手に取る。そして翼が生えた。

 

 …翼が生えた。こんな事があり得るのか。もう既にインプは意識を失っているように見える。これは触媒みたいなものか。


 翼を使って空に飛び、そこから奴は火球を叩き込んでくる。避ける、防ぐ、それは簡単だ。しかし、相性は最悪。攻撃が出来ない。なんとか短剣を投げてはみるが、簡単に避けられる。

 強化されている今なら跳躍であの高度まで行くことも出来る…が、攻撃した後はそのまま地面にビターンコースだろう。

 なら…やってみるか。


 全身に意識を集中して、魔力をじっくりと感じとる。その間にも攻撃はされるが、こっちの治癒能力の方が高い。魔力の流れを感じ、それを形作る。ここまで来れば一時的に魔法が使えるはずだ。少し前、後輩に感覚を教えてもらっていた。


 前から再び光のビームが来る。俺は壁をイメージし、前に手を突き出すと、そのビームは吸収された。


「はぁぁ…」


 だがまだ効率が悪いのだろう。一気に脱力感が襲ってくる。しかし、体内には魔力が多く残っている。

 遠距離の攻撃魔法はまず俺に扱えるのか。そして当たるのか、さらには当たっても効果があるのか。という3つの懸念がある。ならばやることは物理攻撃だ。


 足に力を込めて、飛ぶ。


「まだ元気なのか?」


 同じ高度まで来た。そして足元に土台を作る感じで、足場を作る。あまり乱発は出来ないが、ここまで近づけば問題もない。


 奴の全ての攻撃を体で受けながら、全力の一撃をインプに叩き込む。

 空間が大きく音を立てて割れる。杖にダメージが入った証拠であり、この空間がさらに不安定になったということでもある。

 インプは力なく地上に落ちて行き、俺も地面に着地する。倒れていたインプを見ていると。


「杖が…消えた?」


 そんなはずはない。あの杖こそが今回の元凶だ。あれの破壊を確認するまで…安全とは言えない。


「うぐっ!」


 体が…痛い…内側から張り裂けるような痛みを感じる。そろそろ、魔石の力を使った代償を払う時間のようだ。魔力が全身を巡り、体を蝕んでいる。


 その時、転移の際に見た光が出てくる。杖は消滅し、人の形が作り出される。杖の意志が具現化している?

 薄れゆく意識の中で必死に頭を動かす。


「まずい…な。」


 いつの間にか奴の体が形成されている。俺の前に、奴はいる。魔法だ。俺を殺すための…魔法。

 なんとかボロボロの体で立ち、その魔法をギリギリで回避する。しかしこれでは死んだも同然だ。

 だからといってなにもせずに死ぬつもりもない。動け。なんとか体に言い聞かせ、全身を動かす。まだ、死ねない。ここで俺が死ねばこいつは手がつけられなくなる。それも確実に。

 死ぬ前に、一撃をぶちこむ。


 願わくば、奴だけでも道連れに出来るように。それだけ考え、再び地面を蹴った。

 

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