杖と、変異種
魔石が共鳴している。本来武器と共鳴する魔石だが、今回は感情の昂りがこの魔石の能力を最大限に引き出した。どこかで聞いたことがある。魔力とは精神力が元になっており、その器によって魔力適正が変わるのだと。だから今、魔石と共鳴できているのだろうか。だが、今はそんなことは重要ではない。武器を握る。するとその魔力は武器を経由して、俺にまで流れ込んでくる。体に慣れていない魔力は少し異物感を感じるが、それ以上に熱いものが全身を駆け巡り、身体中が活力で満ちている。
「死んでも文句言うなよ。」
素早く動き、変異種に攻撃を加える。これまでを遥かに越える速度での攻撃。あれほどまでに苦戦した、奴の頑強な皮膚も魔石と完全に共鳴した武器の前には無力同然であり、面白いように損傷を与えられる。
「グギャァァア!」
変異種が吠えて魔方陣を展開する。
「死ね。」
しかしそこから出てきたはずのリザードマンはもう既に動かなくなっている。
「無駄な殺しはしたくないんもんだがな。」
だがそんな俺の思いを嘲笑うかのごとく、次から次にリザードマンが召喚され続けている。
こんなもの、時間稼ぎ程度にしかならない事なんて分かりきっていることだと思うが、それでも召喚は続いた。
俺はほとんど無抵抗なそれを処分し続ける。
「そろそろご本人が戦闘してもいい頃合いだと思うが…」
そろそろ残ったうちの職員も倒れ始めるだろう。そしたら俺は不利になる。
…なら。
少し賭けだが、手に持っていた槍を投げる。それは奴の足首を貫き、変異種が倒れる。
「これなら、どうかな?」
そして脳天に携帯している短剣をズドン。
「グォォアァァ!」
腹からでた、高い叫び。それは今回の攻撃が有効打だった事を証明する。
一旦槍を回収し、距離を取る。奴が本当に再生関連のものを持っていたら危険だ。
すると魔方陣が展開された。そこからはリザードマンが出現し、そして、変異種に殺された。奴は剣を死体につきたてている。生命力の吸収だろうか。先程足にあけた風穴は埋まり、脳天の傷もずいぶん良くなっていた。
「つまり、吸収より速く攻撃して、倒せばいいわけだ。」
単純明快だ。
奴の魔法攻撃と斬撃波を避けながら距離を再び詰める。無論、近づけば剣が振られるが、それを受け流し、攻撃を与える。魔石が共鳴している以上、そうそう防げる攻撃ではない。
「グァァ、」
魔方陣、回復にまわった。が、やることが分かってるなら対策は簡単。まずは通常リザードマンを変異種から庇いながら殺す。そしてその死体を守るように動く。
「そこだな?」
右腕を刺す。焦っているのか、動きが単調になってきており、いくらか行動が読みやすい。
「あ?」
今度は杖が明るく光る。もしかして回復魔法とかじゃないよな?
しかし予想は外れ、魔力のオーラがリザードマンに宿る。そして奴は、突進してくる。
「チッ、速いな。」
いつの間にやら、杖は剣になっており、両手に剣を持った変異種が突撃してくる。それを避けるが、速さが先程と比べて2倍以上になっており、攻撃を避けるのはほとんど先読みで何とかしていると言っても過言ではない。この調子なら攻撃をモロに受けたら即死だろう。
「まあ…対処できないほどじゃない。」
動きがあまりに単純すぎる。俺にむかってそのまま突進、そして俺が居たところに攻撃を加える。で、また突進と。
「はいよ。」
とりあえず左腕は頂いた。
「カァ、ガァァ!」
…腕が生えた。嘘だろ?別に生命力の吸収を使ったわけでもないと思うんだが。
だがそれでも、してくるのは変わらず突進、突進。動きが読めればこんな相手どうと言うことは無い。
「終わりかな?」
首を刺し、ねじって切り落とす。
「ーーッ!」
「流石に首を落とせば死んだか?」
もうピクリとも動かない変異種。死んだ…はずだ。
が、まだ警戒をした方が良いと本能が伝えている。
しばらくすると手に持っていた杖が変異種の体を突き刺す。そして、なにかオーラを纏い始める。
ああ。やっと、こいつの情報が分かった。こいつは、この杖に支配されていたのだろう。
支配、武器の魔力などによって精神を弄られたり適応できなかったりするとこうなる。基本所有者は武器の眷属となり、武器が望む行動を取るようになる。今回、リザードマンが魔力消費の多い召喚魔法をポンポン撃てたのはどうやらそんなカラクリがあったかららしい。
そして恐らく今回の元凶である杖の目的はこれまでのリザードマンの動きを見れば分かる。
こいつの目的は…全ての生物の殺害。
このまま負けたり撤退してしまえば手がつけられなくなる可能性はある。
そんな杖がリザードマンの生命力を吸収しようとしている。妨害したいが、杖はこちらに魔法を放っており、杖に近づくことすら難しい。なら、こうする。
俺は魔法攻撃を避けながら、変異種の死体に武器を突っ込む。そして魔石を中から出し、それを武器で割る。
「うっ、あぁ…」
耐え難い魔力が体内に流れてくる。こみ上げたのは吐き気。しかし、それ以上に力が出てくる。俺の右腕に炎の球が直撃して吹き飛ぶ。痛い。だが、もうその腕は生えている。奴の変異の内容は生命力の増大。邪悪な、汚れた魔力を加工せずに体内にぶちこんだため、体調は悪い。しかしこれで勝算が出来た。ここからは俺が死ぬ前にあの杖を壊す。その戦いだ。
俺が死ぬまでに奴を壊せることが出来るように。後、後輩には謝っとかないとな。
武器を握る。
「勝てますように。」
地獄の始まりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます