指揮を執る者
俺は力を貯めて、一気に走り出す。狙うは変異リザードマン。味方の量は残り僅か。速攻で奴を落としきるか、召喚を止めさせないとまずい。
変異リザードマンは距離を詰める俺を見てもう一度杖を掲げる。あっという間に俺は召喚されたリザードマンで囲まれるが、俺は見向きもせずに走り続ける。
俺の周りに召喚されたリザードマンは後輩の光の矢に撃ち抜かれた。
「さっさと死んでくれよ、変異種さん。」
近くから見たら、ごてごてした装備を着けているようだ。さしずめリザードキング…ダサいな、竜王はどうだろうか?うんやっぱなしで。
まあさっきから部下を召喚しかしてないような奴は近接戦に弱いだろ、多分。
俺は一気に距離を詰め、変異種に槍を突きだそうとした。が変異種は剣を虚空から取り出してなぎ払ってくる。
「っぶね!」
後もう少し動きが遅かったら俺はかませ犬が如く死んでいたことだろう。落ち着いて体勢をたて直し、何度か攻撃を加える。しかし、変異種の皮膚は硬く、ほとんどの衝撃が吸収され、ダメージが入っている様子がない。
後ろは…なんでか召喚はまだ終わってないみたいだな。
「くらいやがれって!」
何度かの攻撃の後、少しの隙を突いて奴の目玉に一撃を入れる。流石にこれは入ったのか目を押さえている。しかし奴はどうにかして俺を探知しているようで、杖から炎の球が飛んでくる。本来、リザードマンに魔力はないはずだが、それの威力はその辺の魔物の非ではない。
現に俺がさっきまでいた所の地面は抉れていた。その上、変異種はもう既に両目でこちらを視認している。どうやら再生系も持っているのかもしれない。
さらに変異種は剣に魔力を付与したらしく、次から次に斬撃波が飛んでくる。なんとかもう一度目玉を狙おうとするが、こちらが近づけば奴は一転、防御にまわり、なかなか攻撃する機会が来ない。
だが、俺の攻撃の防御に夢中で、奴の脇腹が空いている。そこに後輩の光の矢が飛んできた。それは確実に隙を突いていた、はずだった。確実に入るはずの魔法は直前で召喚されたリザードマンに的中する。奴は召喚したリザードマンを肉壁にしたのだ。ただ、ここに後輩の攻撃が飛んできたということは後ろの召喚は止んだということでもある。
しばらくすると予想通り、味方の援軍が来る。
「押せ、押せ!」
「ダメだ、攻撃が通らないぞ!」
数の有利はとれているものの、奴の防御力は非常に高く、ほとんどダメージが通らない。そうして時間をかけていると懸念されるのは。
「魔方陣!来るぞ!」
そう、リザードマンの召喚である。あの杖が悪さをしているのか、その魔力量は無尽蔵とも言えそうだ。
このままでは一生決着がつかない。そんな膠着状態を破ったのは相手だった。
杖は高く掲げられ、そこからは闇のようなオーラが出現し続ける。それを受けたまわりの職員たちは、次々と倒れていった。
その攻撃を耐えきったのは俺と、後輩と、後は数人のクラス5職員のみだった。
「ウァ、ア、ア、」
倒れた職員がなにかを呟きながら立ち上がった。そしてその瞬間。目の前の職員は俺に攻撃してくる。
「先輩!広域の精神汚染です!」
後輩の声が響く。ああ、そう言うことか。狂った職員たちは職員同士で殺しあっている。狂っているため、変異種にも攻撃するが、一閃、職員の首が飛ぶ。
俺を含めたクラス5職員は、狂った職員を黙らせるが、耐久力も強化されているようで、なかなか気絶してくれない。
「先輩!」
後輩は魔法しか使えない。近接戦は出来ないため、殺さずに対人戦は絶望的だ。
「大丈夫、問題ない。」
お前らごときが後輩に近づくな。俺は職員達を叩きのめす。まあ殺さなきゃセーフだからな。
そうして後輩に近づく不届きな輩は皆、地面に倒れている。残りは狂った奴同士で殺しあっていたり、クラス5職員に絡んだりしているようだ。
「後輩、撤退しろ。」
「それは例え先輩の指示だとしても受け入れられません。警官隊は被害と残弾を鑑みて撤退しました。私がいないと、遠距離攻撃がいません。」
「ここまでの乱戦なら魔法は正常な味方すらも攻撃する。それにお前自身の安全も確保できない。」
「先輩は私に一人で逃げろって言うんですか?」
「適材適所だ。お前の魔法なら初級エリアの防衛は相当楽になるだろうからな。」
「こんな時だけ、正論を言って。私は残ります。先輩が戦ってる所を、無視はできません。」
「ああ、まあ次会えたらいくらでも文句を言うと良い。」
「何を言って…ちょっ…」
後輩は困惑した表情を浮かべながら転送される。ダンジョンの外に転移させるペンダントを作れるくらいだ。それを能動的に発動くらいなら簡単に出来る。どうやら、後輩は誰があのペンダントを作ったのかを考慮していなかったらしい。
そうして後輩が転送された後の戦場は、杖が新たに召喚したリザードマンまで突っ込んで来ており、混沌に包まれていた。
俺の所にはリザードマンが2体と狂った職員…は目の前でリザードマンに殺されたか。
「さっきお前が殺した職員のお返しだ。」
とりあえず目の前のリザードマンを貫く、するともう片方のリザードマンは武器を持ったまま後退し始める。逃がすか。
そう思ったが後ろから職員が殴りかかってきた。先にこっちだな。腹に膝を叩き込んでから、後頭部に肘うちを入れると、職員はそのまま倒れこんだ。
さっきのリザードマンは?前を向く。するとそこでは変異種がリザードマンを殺していた。
恐らく、変異種はリザードマンが逃げたと感じとったのだろう。地面にはリザードマンの頭部が転がっている。その行動を見て理解した。こいつは仲間を仲間と思っていない。だからこそ、敵を支配するでもなく、狂わせて同士討ちがさせられる。召喚した部下を盾に使える。そして、逃げようとした味方をなんの躊躇いもなく殺せる。
ああ、指揮官としては正しいだろうさ。だがそれは生物として、やっていいことなのか?ましてや、統率が取れたリザードマンが?
武器に埋め込まれた魔石が赤く、紅く光っている。今なら、リザードマンが何体来ようと倒せそうだ。
「覚悟しろ、今日がお前の命日になるだろう。」
例え俺が死んだとしても、こいつだけは殺せるように。それだけを考えて俺はこいつに飛びかかった。
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