剣と魔法と銃器と

「大丈夫か?後輩」


「私よりも、味方さんの所に行った方が良いと思いますけどね?」


 中級エリアの中はリザードマンで溢れかえっており、それに対抗するため、やむを得ず後輩に最大出力の魔法をうってもらったのだが…さすがに魔力が枯渇しかけており、相当厳しそうだ。


「走れ!援護をするんだ!」


 後ろで警官隊の声がする。ポータルをくぐった直後は精神汚染がきつそうだったがなんとか持ち直したようだ。


「側面!注意しろ!」


 リザードマンは囲む作戦のようで側面に展開している。


「グァッ!」 


 しかしそれをうちの社員が迎撃する。社員がうち漏らした奴は後ろで警官隊がしっかりと仕留めてくれていた。


「聞いてますか?先輩。私はしばらく休憩しますから、先輩は前線に行ってください。」


「死なないようにな。」


「いざというときは守ってくださいね?」


「ま、善処する。」


 フラフラの後輩を社員に任せて俺は最前線に走り出す。ここからはいかに手早く連中を処理できるかの戦いだ。

 味方のタンクが敵と正面から押し合っている。少し厳しそうではあるがこの調子ならまだ持ちそうだ。


「まずはお前だな。」


 少しリザードマンの隊列が突出している所がある。そこのリザードマンは退こうとしているようだが、


「ちょっと後ろの警戒が足りてないなぁ。」


 とりあえず背中に挨拶の一撃。驚いて振り返ったら顎に一発食らわせてやる。おや、もう終わりか。


「後ろね。」


 今さっきまで俺がいた所が斬り払われる。にしても殺気が凄い。確実に俺を殺すという意思を感じるが、そんなものはどうでも良い。周りの敵全てが殺しにかかってくると思った方が良い。実際、そうなる。


 味方のタンクがシールドでバッシュを行い、敵がよろめく。俺はそいつの頭を踏み台にして後ろで棒立ちしている奴の心臓に槍をプレゼント。無論周りから無数の武器が降ってきたが、もう俺はそこにはいない。互いの武器で互いを傷つけている。


 そうして戦場を撹乱していると味方のアタッカーが複数踊りこんできた。味方の剣術の前にリザードマンは次々と倒れていく。さらに魔法の追い討ちまで決まり、相手の士気は崩壊寸前だった。


 後もう一回押すことが出来れば終わりだな。


 しかし、戦場における一時の戦況とは、直ぐに崩れさるものである。


「上を見ろ!」


 矢だ、矢が降ってきている。どうやらリザードマンの弓兵隊が来たのだろう。


「ッー!」


 隣のアタッカーの頭に矢が突き刺さる。とりあえず、両手に槍をぶっ刺して無力化したリザードマンを盾にして矢を防ぐ。

 ここからは味方の消耗が激しくなってくる。そんなことを考えながらリザードマンを1匹、また1匹と殺していく。

 かなりのペースで処分しているつもりだが、後輩のお陰でとれた有利は敵弓兵のせいで互角に戻りつつあった。


 しかし魔法を使えるのは後輩だけではない。別の奴がどうやら対投射物のフィールドを作ったようだ。範囲が広いため効果時間は長くないだろうが、それでもこの間にアドバンテージを得ることは出来る。そう味方の警官隊だ。


「撃て!」


 後ろで号令と共に複数の発砲音が鳴り響く。多くのリザードマンは何も出来ず、銃弾の雨の前に倒れていった。たまに盾を構えて耐えている奴もいるが、そんな構えでは前衛のカモにされるだけである。そのコンボで多くのリザードマンを倒すことに成功した。


 なんとか生き残ったリザードマンもほとんどが弱腰になっており、銃器の支援がなくともあっさりと蹂躙することができる。あとは弓兵だ。


 俊敏な動きが出来るアタッカーは一気に弓兵の懐に潜り込み、その刃をねじ込んでいる。突撃に対抗して射撃も行われていたが、ほとんどが弾き返され、そこからはほぼ一方的な戦いだった。

 

 リザードマンの弓兵は小さな剣で抵抗するものの、先程の戦闘を生き抜いた精鋭の前では無力であり、次々と倒れていく。そういう俺もしっかりと眼前の喉元に槍を突き刺していく。


 そうこうして大体の弓兵が処分されると、その後ろには大きなリザードマンがいた。なにやら豪華な防具や装飾品を着けている。

 どうやらあいつが今回の大量発生の原因である変異種らしい。


 変異リザードマンはこちらを一瞥すると手に持った杖でなにかを始める。すると俺たちの周りを囲むように魔方陣が展開された。そこからは次々とリザードマンが召喚される。

 今回の大量発生の原因はこれか。恐らく奴の息の根を止めない限り、この召喚でジリ貧だろう。ここで出現した奴は他に任せて本体を叩くべきだ。頭では分かっている。それでも俺には1つの懸念があった。それを解消するために後衛へと走る。

 

 後衛の方でも魔方陣からリザードマンが出てきており、主に警官隊が相手をしている。銃器を持ち込んでいるため近接戦はあまり強くないと思っていたのだが、銃と短剣を上手に使い、迅速に敵を制圧していた。それでも警官隊の数は最初と比べてかなり減っている。


 俺は警官隊の手が回っておらず、うちの魔法使い達に襲いかかっているリザードマンの相手をしてやる。得意な相手ではないが今回は後ろから魔法の援護がある。


 適当に攻撃をいなして相手の体を突きまくる。召喚されたばかりはあまり強くないのか、その程度の攻撃でリザードマンは倒れていく。

 そうして味方の遠距離アタッカーを守っている時だった。


 一瞬にして目の前のリザードマンが光の矢で貫かれる。


「先輩、敵さんのボスは倒さなくても良いんですか?」 


 そして後ろから後輩の声がした。


「もう動けるのか?」


「ダンジョン内は魔力が濃いですからね。ほら、そんなことを言って論点をずらさずに、私が支援してあげますから、敵の親玉を倒しちゃってください。」


「…背中は任せた。」


「そりゃもう、私が心配で仕方なくて、すぐさまこっちに走ってきたようなさみしがり屋さんの背中は私が守りますよ。」


 うるせぇ、心を読むな。こんなところ、じゃれるような場面じゃない。だから、今一番しないといけないことをしよう。俺は武器を持つ手にもう一度力を込めて駆け出した。


 

 



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