警官隊
「突入開始。」
指示が下されるトランシーバーから声が響く。俺たちの命はこの声の主に委ねられた。
ダンジョンの中に入る。少し吐き気がするが動かなければいけない。手に持っているサブマシンガンは相棒とも呼べるほど任務を共にした思い入れのある銃だ。こいつを握っていると、こうした面倒な事態になったとき、冷静に判断をすることが出来る。
リザードマンの隊列はまだこちらから行動を起こしていないこともあり、静かである。
リザードマン、統率が取れている数少ない魔物の一種。集団での戦闘が非常に得意であり、トラップ等を仕掛ける賢さも見られている。1番の驚異はその集団戦法だが、単体でも力が強く、非常に危険な魔物だ。
しかし俺たちはそんなリザードマンたちの隊列を突破し、中級エリアまで行かなければならない。
「攻撃開始」
指示が出た途端、近接武器を持った部隊が前にでる。この部隊は前方に見えるリザードマンを食い止め、道を作る。俺たちはこのまま中級エリアまで行き、この大量発生の根元を絶つ。
「隊列を守れ!道を作るんだ!」
初級エリアで護衛を担当してくれる部隊が戦闘を行っている。あの部隊の隊長は元々俺の上司でもあり、頭の機転がきく人だった。あの人なら安心だ。
しかしリザードマンの、人よりも大きいその体から発せられる迫力、そして圧倒的な殺意。 護衛部隊は連携してリザードマンを倒してはいるが、リザードマンは盾を巧妙に使って味方の隊列を徐々に押し始めている。それでも前衛はなんとか踏ん張り、耐えている。また今回は危険度が非常に高いものの、規模がそれ以上に大きいため、比較的経験が浅い部隊まで動員されている。それが仇となった。
1つの部隊が崩壊する。そうすれば周りの部隊も囲まれやすくなったり士気が低下したりと、かなり戦いにくくなる。膠着していた戦場に変化が訪れる瞬間だった。それも、俺たちが不利になる方に。
「いけ!突撃!」
しかし味方の隊列が崩れかけた所に後ろから来た長槍部隊が突撃を開始する。突然目の前に大量の槍をつきだされたリザードマンの隊列には見るからに動揺が走り、その隙で隊列に穴が空いた。
「あそこだ!走れ!」
いつまでも護衛部隊が時間を稼いでくれる訳じゃない。現に隣にいた部隊はタンクの心臓が貫かれていた。長くは持たない。俺のためにも、味方のためにも、一刻も早く、中級エリアまで行く必要がある。
「ぁぁぁ!やめろ!やめろ!」
人の悲鳴がする。血の匂いがする。武器と武器がかち合う音、そして怒号が飛び交い、戦場は地獄のようになっている。
「退くな!持ちこたえろ!」
「ここはもう駄目だ!行け!」
「タンクがやられた!援護を!」
振り向くな。走り続けろ。ここで止まったところで無駄に死者が増えるだけだ。自分に言い聞かせながら足を動かす。リザードマンの隊列をくぐり抜け、もうすぐポータルが見えてくるはずである。
走って、走って、ようやくポータルが見えてきた。通常はここにガードがいるらしいが今回のリザードマンは他の生物を根こそぎ殺しており、ガードも例外ではない。と話がされていた。
到着してしばらくするとトランシーバーから聞こえてきた声と同じ声が後ろからする。
「中級エリア突入班は行動を開始しましょうか。」
声の主はD社職員らしい。少し不安もよぎったが、今のところ誤った指揮はしていない。しかし服装はただの黒いパーカーと中にはシャツ、これではすぐに死んでしまうのではなかろうか。ここにいるのは銃で武装した警官隊と、D社の職員のみだ。D社職員も戦闘は出来るらしいが、一般人でもあるD社職員を死なすわけにはいかない。そう思いながらポータルをくぐる。
ポータルから出てきた瞬間、目の前に見えたのは大量のリザードマンだった。生物の本能が今すぐ逃げ出すべきだと訴えかけている。それは周りの味方も同じようだ。全員が全員、絶望を顔に張り付けて硬直している。
量が違う。そもそも中級エリアで大発生は起こっていたのだ。初級エリアでさえかなりの数だったのにも関わらず、その時の数倍はいる。動きは統率が取れており、各個体がそれぞれ考えて行動しているのは明らかだった。
失敗だった。突入はまだ早かった。数も質も違う。無理だ。死ぬしかない。すると指揮官が一言言った。
「先ずは、D社が行きましょう。」
「止めろ、無理だ!」
同僚が泣き叫んでいる。俺も同意見だ。この数では小手先の戦法は通用しない。力と力の単純な押し合いなのだ。その場合、数で劣っている我々に勝ち目は無い。
「では、突撃開始。」
どうやら今回の指揮官はとんでもない馬鹿だったようだ。死にに行くようなものだ。
さらに指揮官が先頭を走っている。馬鹿か、上は何を考えてる。こんな奴を指揮官に?まて、死にたくない。気が付くと隣の同僚は首を折って死んでいた。
もう動かなくなった肉塊を見ていると少し、冷静さが戻ってきた。気を確かに。落ち着け、今ならまだどうにかしようがある。銃を握って深呼吸をすると思考する余裕が出来た。
前に聞いていた。D社は魔法とやらが扱える人材がいると。魔法、実際に見たことはないが、D社の職員は何の抵抗もなしに突っ込んでいく。通常、ここまで数が開いていれば勝てるはずがない。だが、もし魔法による援護があれば?規模も、強さも分からない。そんな不透明なものに頼るのは気が進まない。だがそれでも、勝てる可能性があるのならそれに縋るべきだ。
先に突撃していたD社の職員とリザードマンがついに正面衝突するかと思われた時、一気に光が放たれる。その光は思わず目をそらしたくなる程の強さだった。そして、その光をもろにくらった前衛のリザードマンがバタバタと倒れていく。これが、魔法か。どうやらD社の戦闘能力は思っていたより数倍強かったようだ。
俺は走り出す、一刻も早く前線に援護を届けるために。
「走れ!援護をするんだ!」
叫ぶ。ここからは俺たちの出番だ。D社には無い力で連中に引導を渡してやる。
魔法攻撃によって前衛にできた大きな穴。そこにD社職員が臆せず飛び込んでいく。それに対してリザードマンは逆に包囲しようと移動を開始する。
背後ががら空きだな?俺は確実にリザードマンの頭に銃弾を叩き込む。リザードマンはそんな銃部隊を驚異に思ったのだろう。左端の方から盾を掲げて突っ込んでくる。しかし黙って殺られるわけにはいかない。
「スタングレネード、投擲!」
目眩ましだ。どんな生物にも光を用いた攻撃はよく刺さる。味方が投げたスタングレネードで動けないリザードマンを丁寧に1匹ずつ処理していく。しかしそれでも全てが処理できたわけではなく、残りが突撃を開始する。
「グレネード!」
ただこちらに来るなら少しばかり、覚悟してもらわないとな?投げたグレネードがちょうどリザードマンの真下で爆発する。
「端は下がれ!援護射撃!」
このままでは端の連中が持っていかれてしまう。俺は相棒に弾をこめると、再び攻撃を開始した。
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