戦闘は研修で、研修は戦闘で

「ねぇ、まって何かがおかしいよ。私たちの周りに、何かいる。」


「うるせぇよ!さっきの戦闘でなにもしてないグズ無能が!」


 本当の事を言ってるサポーターが可哀想にみえてきたな、こりゃ。まあでも怒りで目が眩んでる奴は隙が多いからなぁ。

 草むらからいきなりゴブリンがあらわれ、激怒しているアタッカーに殴りかかる。


「後ろ!」


 まあ周りが見えてない奴にはそんな声も届かず、自分が狙われていることにさえ気が付いていない。


「ーーっ」


 そして頭で棍棒をもろに受けたアタッカーは膝から崩れ落ちる。サポーターがなんとか治療しようとするが、その隙を逃すほど相手も馬鹿じゃない。その背中に粗っぽい石の剣が突き立てられると思われた。しかしその寸前のところでもう一人の近接アタッカーが攻撃をいなす。

 こいつさっきもサポーターの首にいたゴブリンを切り殺してたよな。見込みのある新人だ。


 タンクの方はゴブリンが4体で囲んで分断している。流石に囲まれて叩かれればタンクといえど長くは持たない。しかし手に持っているカイトシールドで前の2匹を押し退けながら、もう片方の手で横のゴブリンを突き刺す。だが最後の1匹が盾を持っている手に攻撃を加えた。それでもタンクは槍を使って相手を牽制しながら戦っており、1人で敵を抑えている。複数対1人では不利なため、殺せずとも少し刺したり、怯ませたりすることによって一度に戦う敵をコントロールしているのだ。新人とは思えない戦いぶりだなこりゃ。


 そうやって戦いを眺めていると俺の方にもゴブリンがきた。まあそりゃ来るよな。周りに3匹のゴブリンがいる。まず後ろの1匹に短剣を投げて足止めし、正面をさっさと排除、横はいなして後ろに飛ばしてから倒れ込んでる2匹をまとめて貫く。短剣を拾ってから後衛の状況を見てみるとこの短い時間でかなり不味い状態に陥っていた。


「うわぁぁぁ!」


「助けて!」


 最初にやられたアタッカーはなんとか治療が完了し復帰しているようだがパニックになって剣を振り回しており、遠距離アタッカーがその間、好き放題に殴られている。またサポーターも襲われており、かなり悲惨な状況だ。優秀な方のアタッカーはタンクの援護に行っており、援軍は見込めない。


 まあ助けないのもなんだしなぁと思いながらサポーターを攻撃しているゴブリンを1匹仕留める。しかし、その瞬間に聞こえてはいけない音が聞こえてしまった。何か一定の強度をもつものが潰れた時の音。

 気が付くと目の前には血のついた棍棒を持っているゴブリンがいる。この感じ遠距離アタッカーは殺されたのだろう。それを目の当たりにしたであろう無能アタッカーは完全に発狂し、あろうことか俺たちに攻撃してくる。サポーターも後ろに向かって逃げ出した。


 まずは俺に向かってくる無能を気絶させてその辺に転がしておく。次に遠距離アタッカーを殺した3匹と対峙する。一度人を殺した魔物は殺し方を知っているため、非常に危険になる。逃がしたら不味いのは言うまでもないため、ここで仕留めなければならない。

 3匹は盾持ちが前から突撃し、他2匹は挟み込むようにして一斉に襲いかかってくる。ならまずは体当たり、飛びかかってくる正面の盾持ちゴブリンを押し返す。

 次に左右の2匹だが、まず近い方の首を短剣で切り裂く。そしてそのゴブリンの死骸でもう1匹の攻撃を防ぎ、その後隙に槍をぶちこむ。最後に倒れている1匹を殺してこっちは終了。さて向こうは?

 

「いまだ!やれ!」


「1匹終わりだ!次!」


 どうやら2人で結構連携が取れてるみたいだな。最初4匹いたゴブリンは2匹になっており、タンクが防いでアタッカーが攻撃するという基礎の動きでしっかり敵を殲滅していた。

 前方の敵を倒し終え戻ってきた2人だが、後衛の惨状を見て顔を覆う。優秀なアタッカーが震える声で俺に聞いてくる。


「小宮さん…これは?」


「これが実戦ってことだ。」


「…はい。」


 タンクの方は吐いている。アタッカーは、この答えで納得してくれただろうか。もし、俺が最初傍観していなければ死ぬことは無かったかもしれない。だが、それだと強くならない。いざというときに、頼ってしまう。


「まずは、発狂してた奴を起こすか。」


 地面で気絶しているアタッカーを起こしてやる。本人も起きてすぐは何が起こったのかわからない様子だったが少し時間を置くとなんとか状況を飲み込んだ。


「すみません。」


「まあいい、そんなもんだ。」


 実際最初の方の死亡率は高い。そこまで気に病むことではないが、新人には少し厳しいかもしれない。それに他のメンバーが、そもそもこいつが一番最初にチームの輪を乱したのだ、と考えていてもおかしくはない。だがそうやって精神を鍛えていくのだ。今回はゴブリンが11匹もいたからな。良い経験にはなっているはずだ。


「ここで留まっていてもどうしようもない、進もうか。」


 心を一旦切り替えて前に進む提案をする。反対の意見をあげるものはいなかったため前に進み始めた。少し歩くと遠くに空間の歪みが現れる。


「あれが中級エリアに行くためのポータルだな。通常、ポータルはガードがいるためそこで戦闘をする必要がある。ここのガードは初級のストーンゴーレムだ。今回はここで終わりだが、今後は戦闘をして中級エリアに行くこともあるから、覚えておいてくれ。」


 これで研修は終了。あとは来た道を戻るだけである。

 

 帰るまでが遠足というが、行きが地獄なら帰りも地獄だ。新人3人は憂鬱な顔をして俺の後ろについた。





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