新人研修

 翌日、集まった新入社員5人に対して簡単な業務説明を行う。


「―ですからダンジョン内では細心の注意を払っておかないと死にます。とここまで脅すような事を言いましたが基本を押さえればそこまで問題はありません!今日の研修でしっかり身を守れるようにしておきましょう!では今日は午後から実際のダンジョンに入って貰いますので、心の準備をお願いします!」


 俺が業務説明を終えると新入社員の面々が緊張したような面持ちで頷く。まあ入社早々死ぬとかなんとかと言われたらそんな顔にもなると思うが。


「最後に質問は何かありますか?無いならこれで業務説明の方を終わりますので休憩するなりしてお待ちください。」


 急ごしらえな資料だったがなんとか切り抜けることができた。この後は新入社員と一緒にダンジョンに入って、帰ってくるだけ、簡単だ。



 昼に牛丼を食ってから昨日も訪れたダンジョンの入り口で立っていると、新入社員達が次々やってきた。


「今回はよろしくお願いいたします。」


「そんなに気張らなくてもいい。俺は小宮、よろしく。」


 すると新入社員も自己紹介を始める。


「今回お世話になります、山本です。」


「えっと…津です。よろしくお願いします。」


 こうゆうの聞いてると眠たくなってくるんだよなぁ…

 そして地獄とも思える自己紹介タイムが終わり、まずは隊列を確認する。どうやらタンクは一番最初に自己紹介した…山田?みたいな名前の奴らしい。他の連中も基礎訓練の出来がいいようで非常に素早く隊列を組むことが出来た。

 ふむタンク1アタッカー3のサポーター1か。アタッカーの内訳は近接が2、遠距離が1と。


「じゃあこれから内部に入るが伝えている通り、入ってすぐは気分が悪くなるから十分注意するように。」

 ここからは仕事モードだ。注意を促してからまずは俺が一番にダンジョンに入り、すぐに他の面々もそれに続く。


「うっ、」


 ダンジョン内に入ると新人の内一人二人の調子がかなり悪そうだったため、とりあえず一回このダンジョンでの注意事項について触れておく。


「このダンジョンは森のような形になっており、広く、目印も少ないためある程度地形を覚えていなければ帰ってこれなくなることがある。その際は緊急ボタンを押せば俺に位置情報が送信されるから、いざというときはそれを活用するように。」


 緊急ボタン、わが社が誇る位置情報の送信機器。魔力の流れで個人の位置を把握することによって、ダンジョンの中からでも外に位置を伝えられる。ダンジョンの中ではGPSなども機能せず、外に情報を伝えられる貴重な方法であり、なんでも他の会社もこれを採用してるところがあるらしい。他の会社でも魔力を応用したアイテムが作られているが、やはりダンジョンそのものと密接に関わっているわが社は魔力の扱いに優位がある。


 そんな話をしばらくしていたらどうやら新人の調子も戻ってきたようだ。


「では、そろそろ出発しようか。」


 今回行くのは低級が湧くエリアから中級エリアに行く方法と帰り道だけだ。


 少し進むと周りに敵の気配がする。この辺りは出入口付近のため、普段は湧かないのだが。   

 しかしそんな敵の存在に俺以外の5人は気づいていない様子だ。まあ初戦だから教えてやろう。


「前方にゴブリンが三体いるのがわかるか?連中は士気はそこまで高くないが、基本の数が多いから手間取っていたら増援が直ぐに来ることを覚えておくのが良いだろう。」


 新人たちの顔に緊張が走る。ここまで来たと言うことは基礎訓練でゴブリンの一匹位殺しているはずだが、さすがに実戦となれば緊張もするか。


「グ?」


 おっと敵さんがこっちに気づいたみたいだぞ?といっても木の盾と棍棒が1匹であとは木の棒みたいな武器だからたぶん行けるだろう。

 

 ゴブリンがこっちに走ってくる。その攻撃をタンクが受け止めてアタッカーが攻撃する。ただちょっと攻撃が浅いな。新人研修ではまともな武器は支給されないがそれでもゴブリンくらいは殺すことができるはずだ。それに悪くない対応ではあるんだが、近接アタッカーがちょっと前に出すぎだな。

 攻撃が終わったアタッカーは案の定2匹に囲まれてボコボコにされている。


「ファイヤ」


 遠距離アタッカーが窮地の味方を助けるためだろう。ファイヤの魔法を唱える。この状況でも怖じけずに行動できるのはすごいんだがファイヤだとなぁ。

 アタッカーに絡み付いていたゴブリンが飛んでくる火球を一身に受け、その場に倒れる。が、無論それはアタッカーにも当たっているわけで。


「っ!」


 普段ダンジョン内にいるゴブリンよりも人間の方が魔法への耐性は低い。それに、ただでさえ空気中の魔力濃度が高いため魔法の調整は非常に難しい。あんなに粗っぽい魔法ではゴブリンに致命の一撃は与えられないだろう。しかも魔法に耐えられなかったアタッカーが地面に倒れ込むと即座にその頭へと棒が振り下ろされる。タンクはどうやら足がすくんでるみたいだな。ここで死なれても困るし、少し助けてやろう。

 

 ゴブリンの懐に近づき、コアである魔石が埋まっているところに槍を突き刺す。短めの槍で小回りが効くからこういった事がやりやすい。 

 コアを壊されたゴブリンは、そのまま霧と同化していった。

 だが戦闘は終わったわけではない。現にタンクは向けられた殺意で硬直してしまっている。

 ゴブリンはその隙を逃すまいとタンクに飛びかかり、倒して馬乗りになっている。そして前衛がいない後衛は悲惨なものだ。ゴブリンが小さな体を使ってサポーターの頭に上り、首を折ろうとしている。

 だがもう1人のアタッカーがそのゴブリンの首筋を切る。ゴブリンは地面に落ちてからもしばらく動いていたが、遂に動かなくなり、魔石となった。タンクの方も形勢逆転しているようで、暴れるゴブリンを押さえつけ、なんとかトドメの一撃を入れる。


「お疲れ様です。これが実戦ですがまあ最初は皆こんな感じです。皆さんも戦闘になれるまでは複数人での行動を心がけて死なないようにしましょう。」


 こう言って締めくくり、次に進もうとしたのだが一つ問題が発生した。


「いい加減にしろよ!この味方殺しが!」


「いや、あれは救うためで、」


「ここに入る前から気に入らない奴だとは思ってたけどな!」


 はぁ、さっきファイヤを当てられたアタッカーがキレているようだ。元はといえば前に出すぎたお前が悪いからな?


「こんな味方を殺そうとする奴と一緒にいろって?狂ってるのか!?」


 俺にまで言わないでほしいんだが…まあいいか。こいつらは気が付いていない。囲まれている。何でもないゴブリンとの戦闘に時間をかけすぎた。周りにいる数は、ざっと10くらい、誤差はだいたい3ってとこだろ。


「ねぇ、まって何かがおかしいよ。私たちの周りに、何かいる。」


 どうやらサポーターが気づいたっぽいな。さあ何人くらいが生き残る事やら。

 

 これがD社の新人研修だ。死んでも文句は言わないでくれよ?どうせ、早いか遅いかだ。





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