第三十七話 マジギレ☆レイン殿下

「……逃げきれた、か」


 次の瞬間、俺は森の中に立っていた。

 森の様子や、瞬時にスライムたちから受け取った情報から、ここがシュレインの森であることは、直ぐに分かる。


「さっきの場所から、直線距離にして約1.5キロ。流石に大丈夫かな?」


 ついさっきまで、マジの死地に居たという事もあってか、とにかく冷静に思考を巡らせていた。

 刹那。


 ドオオオオオン――


 アジト……”祭壇”の方から、大きな破壊音が響いてきた。

 俺は即座にスライムを使い、状況を見に行く。


「……マジか。相当地下だったのに」


 そこには、直径500メートルはあろう、巨大な大穴が開いていたのだ。

 深さはざっと300メートル。丁度、”祭壇”があるところまでの深さだ。

 そして、その中心からは、相変わらず闇の天柱が上がっていた。


「シン。何か分かった事は?」


 すると、リオルム総督が冷静にそんな事を聞いてきた。

 この状況で、ここまで冷静になれるとは……流石は帝国総指揮官といったところか。

 まあ、かく言う俺も、自分でも驚くぐらい冷静なのだがな。


「ああ。”祭壇”の所に、巨大な大穴が出来た。恐らく、さっきの攻撃で出来たものだろう」


「そうか。報告感謝する。じゃ、天幕の方に行くか。お前も来いよ?」


「……ああ、分かってる。あまり他者に見られたくは無いが、そうも言ってられないしな」


 俺の内心にある迷いを見透かすように紡がれたリオルム総督の言葉に、俺は流石だなと思いながら頷いた。

 まあ、しゃーない。

 マジでそうも言ってられんから。


「お前ら! ついて来い!」


 その後は、リオルム総督指揮の下、上層部が集まる天幕へと向かって歩き出すのであった。


「……因みに、お前は何歳なんだ?」


「ん? ……9歳だ」


「マジかよ。成人どころか、10にも満たねーのかよ……。こっちじゃ、その歳で戦争に出そうものなら法律違反で処されるぞ?」


 リオルム総督の問いに、俺は走りながらなんてことない様に答えて見せた。

 すると、リオルム総督はドン引きしたような表情で、そんな言葉を口にする。


「それはこっちもだ。まあ、俺はあくまで冒険者だからな。直属の部下ってのは、副業みたいなもんだ。だから、無駄な政争に巻き込まれたくないということで、秘匿にしてもらってる」


「なるほどなぁ……確かに、表向きじゃファルス伯爵子息しか部下居ないし、そこでお前が居るってなったら、引き込もうとする奴がうじゃうじゃう出てきやがる。俺も、そう言うのはマジで嫌いなんだよ」


 そう言って、肩を竦めるリオルム総督。

 素のリオルム総督は、良い意味で粗野な感じがして、話しやすい。


「で、感じからしてお前は裏の部隊的な感じか?」


「まあ、そんな感じですね」


 だが、他国の人間だ。

 この戦いに関係ない事に関しては、それなりに言葉を濁しておく。

 これが、俺なりの身の守り方だ。

 そうやって話しつつ、全力で走っていると、やがてレイン殿下が居る、グラシア王国の天幕に辿り着いた。

 まあ、実際は連合軍の天幕って感じで、中には普通に他国の人間も居るのだが。

 すると、リオルム総督が声を張り上げる。


「帝国総指揮官、リオルム。只今戻った!」


 そんな報告と同時に、リオルム総督、マレーネ隊長、フィンブル副団長ら生き残った上位陣が入って行く。

 ここで、俺は咄嗟に入ろうか悩むも、リオルム総督に引っ張られ、結局中へと入って行った。


「……場違いだ。俺」


 例えるなら、国会議事堂の会議中に、子供が真面目に飛び入り参加するような物。

 俺は子供の防衛本能からか、ピタッとリオルム総督の後ろに隠れるようにして引っ付く。


「……では、報告を聞こう」


 ある程度進んだ所で立ち止まる俺たち4人。

 すると、ここに居る中で最も地位の高い人物――グラシア王国の王太子のレイン殿下が、その重い口を開いた。


「はい。突入により、3人の幹部及び構成員は全滅。ですが、ノワールとの戦いで敗北。こちらはゼーロス、ルイン、イグニス。そして、9割9分以上の兵を失いました」


 その報告に。


「ルインを失ったとは何事だ! この責任を、どうとるつもりだ!」


 老害が癇癪を起した。

 ……おっと失敬。

 アトラス共和国の軍部総監、フォールン・フォン・オリオンだったな。

 余りにも空気読めてない叱責のせいで、思わず毒づいてしまったよ。

 すると、何故か矛先が俺に向く。


「なんだそのガキは! 摘まみ出せ!」


 その瞬間。


「フォールン。黙れ」


 レイン殿下がマジギレした。

 今まで見た事も無いほどの怒気を纏うレイン殿下は、フォールンを絶対零度の視線で射抜きながら、言葉を続けた。


「彼の事を侮辱するな。それ以上言うようなら、事が済み次第、帝国と共にお前らの国へ攻め入る」


「っ!? ……す、すみませんでした」


 レイン殿下からマジの気配を感じ取ったのか、フォールンはすごすごと引き下がった。


「レイン殿下。安易にそのような事を申してはいけませんよ?」


「いえいえ、リオルム総督。私にとっては、安易な事では無いのですよ?」


 その後、レイン殿下とリオルム総督がそんな言葉を交わす。


「……ふぅ。話が脱線してしまったな。では、報告を頼む……シン」


「……承知しました」


 ここで俺に話を振るのかぁ……と思いながらも、俺は先ほどリオルム総督に説明したことなどを、色々と補足しながら説明するのであった。

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