第三十八話 俺は子供か!

 ノワール対連合軍の戦いの一部始終。

 ノワールの本当の目的。

 そして、今の”祭壇”付近の惨状。

 それらを、俺は事細かに説明した。

 何だかんだで、一番戦場を見ていたのは俺だという事もあってか、結構上手く説明する事が出来た。

 というか、他の人はノワールとの戦いで手一杯で、他の事を考える余裕が無かったのだと思う。

 実際俺も、後半の方はマジで余裕が無かった。

 そうして全ての話をし終えたこの場は、控えめに言っても重苦しかった。


「ぐ、ぐ、ぐ……」


 特に、教会勢力――グロリア枢機卿がヤバい。

 女神エリアスが囚われるだなんていう事態を聞き、奥歯を嚙み砕かんとばかりに歯噛みしていた。

 頼むから、我を忘れて突っ込むだなんて真似は、しないでくれよ……


「……分かった。マレーネ。まだ”六英雄”の遺産は使っていないという事か?」


「はいー。使いどころが中々無くて、使えるかな~と思った矢先、とんでもない闇の破壊をされましてねぇ……。ぞくぞくしたなぁ」


 考え込むレイン殿下からの問いに、マレーネがそう答えた。

 こんな状況になっても、変わらないなぁ……あいつ。

 ちょっと怖ぇわ。


「そうか。では、貴方たちは退出し、体力を回復するように。こちらは軍議……そして、国に残してある戦力も、かき集めるとしましょう。ノワールの目的がそうなのであれば、もはや後先考えている場合ではない」


「承知しました」


 こうして報告を済ませた俺たちは、天幕から立ち去るのであった。


「……ふぅ。それで、どうするかなぁ……」


 天幕を出た俺は、天へと伸びる天柱を眺めながら、そんな言葉を零した。

 ノワール……まさか女神エリアスを捕らえ、封印するとは。

 だが、そのような真似を、何の代償も無く出来る訳が無い。

 必ず、何かしらの制約を抱えている筈だ。


「いや、そもそも何故戦ったんだ……?」


 最初から女神エリアスを捕らえ、その状態で戦っても良かった筈だ。

 だが、それをあえてせず、戦ってから。

 ……やはり、女神エリアスを封印しているときは、十全に力を出し切れない?

 だからこそ、戦ってやれるだけ戦力を削いでから、封印したかったのではないか?


「……まあ、どの道全力で戦う事に、変わりはないか」


 この予想が正しかろうが間違っていようが、結局やることは変わらないな。

 全力で戦い、勝つだけ。

 ハードルがバチクソ高くて、嫌になりそうだ。


「……ん?」


 すると、俺はここでマレーネ、フィンブル、リオルムら上位戦力陣からの視線を浴びている事に気が付いた。


「どうした?」


 そして思わず口にした問いに、俺と最も歳が近いでお馴染みのフィンブルが、口を開く。


「いやー……この戦場に、僕より年下が居るなんてなぁ……。因みに何歳?」


「9歳だ」


「おぉーマジか。ここ来るの怠かったけど、君みたいな珍しい人が見れたから満足だ。おーほんとに子供だ子供だ」


 フィンブルはそう言って、俺の頭をポンポンと叩く。

 完全に子供扱いされとるぞ俺ぇ……

 前世含めりゃ、20代なのに。

 でも、精神年齢が身体に若干引っ張られてる感あるからなぁ……


「おーあの時は感謝するぞ。お陰で死なずにすんだっからね!」


 すると、今度はマレーネによって揉みくちゃにされる。

 ちょっとこれは、ガチの9歳児相手にもやらんやろ……

 あと、絶妙に力加減ミスっとるぞ……


「おいおい、それぐらいにしとけ。マレーネ殿。それは6歳ぐらいの子供にやるもんだ。9歳は、幼児じゃ無くて、ガキだガキ」


「おーそうか。なら放~す」


 リオルム総督の忠告に、マレーネはそう言って、俺をほいっと放した。

 それも普通に、力加減ミスってるぞ……


「ふーそれにしても、王国うちに君みたいな子いたっけー? 私、結構物覚えいいんだけどねー?」


「まあ、秘匿の配下ですからね。この件も、こそこそ隠れながら、色々やってました」


「んー何やってたの? ちな、私は破壊」


「あ、はい。アジトへの物資搬入を潰して時間稼ぎしたり、アジトの場所を特定したり、幹部倒したりですかね」


「おー偉い偉い。頑張ったね~」


 ニーズヘッグ討伐とかは言わないよう気を付けながら紡がれた俺の言葉に、マレーねはそう言って、俺の頭を撫でる。

 俺は子供か!

 ……子供だ!


「ん? 今日の奴以外にも、幹部倒してんだ」


「ああ。ギルオってやつ。あと、ザイールも1回殺してるけど、ノワールに蘇生された」


「あーあの2人倒したのお前だったんだぁ……。なーんか軍議の時、濁されてる感あったんだよ」


「だね。あのクソ怠軍議、一応全部聞いてたけど、そんな感じした。まあ、勘だけど」


 そう言って、頷く2人。

 ああ、濁してるってのは、分かったんだ。

 レイン殿下の話術を見破るのは、普通に凄いなぁ……

 フィンブルはガチで勘っぽいけど。


「ねーでもさぁ。この子、あんま強い感じしないなぁ……。魔力量、大分少ないよぉ?」


「いや、魔力馬鹿おまえと比べたら、皆少ない判定だろ」


「違う~。それでも!」


 リオルムの痛烈なツッコミに、マレーネが猛抗議する。

 すると、フィンブルが間に入った。


「うん。実際、少ないね。視たところ、平均前後かな?」


「ああ。魔力量も魔力回路強度も、割と平凡だよ。俺。祝福ギフトもだ」


 フィンブルの言葉に、俺はどこか悟ったような表情でそう言った。

 うん。俺の魔力は……少ないんだよ。平凡なんだよ。

 ……泣きそう。

 すると、唐突にマレーネが声を上げる。


「へー……なら、はいっ! シンとリオルム。ここで模擬戦をしろ! 審判は私がしちゃるから」


「「え?」」


 そして、俺とリオルムの困惑の声が重なるのであった。

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