第三十五話 ノワールの本当の目的

「……本当に危なかった」


「っ!? これも届かないのですか!」


 イグニスによる決死の突撃は、無情にもノワールが持つ闇を纏った短剣によって、防がれていた。

 だが――ノワールは魔法師だ。

 剣士では無い。


「ぐぐぐ――はあっ!」


「くっ!」


 年期を考慮しても、その状態では――互角だった。

 だが、即座に漆黒のオーラを放出し、イグニスを後方へと吹き飛ばす。


「死ね死ね死ね!」


「ふん!」


「凍てつけ!」


「岩牙よ、穿て」


 そこへ、続けて多方面から襲い掛かって来る剣に魔法。

 一時的とは言え、イグニスの対応に手一杯となってしまったノワールに、対処しきれる代物では無い。


「くっ」


 無詠唱で発動した空間破壊の魔法で、ゼーロス、フィンブル、リオルムの攻撃は対処できた。

 だが、そこにルインの攻撃が――迫る。


「ぐっ!」


 身体を捻って躱そうとするも、その狂剣はノワールの脇腹を深く抉ったのだ。


「破壊せよ、闇よ潰せ!」


 だが、渾身の一撃を見舞った後には隙が出来る。

 その隙を突くかのように、ノワールは空間破壊で周囲を一気に壊し、更に闇のオーラを広域に放った。


「が……あ……」


「なっ……」


 その一撃で、遂にルインとゼーロスが崩れ落ちる。

 2人とも傷が深い――命に届きかけている。


「……流石にこれでは無理か」


 だが、覚醒したイグニスは傷だらけながらも2足で立っており、そんな彼によって守られるフィンブルと、リオルム総督の2人も無事だった。


「面倒な。で、またあいつはそっちに居るのか」


「うおーやっぱバレてるー!?」


 そして、そのままノワールは”祭壇”を破壊する為の魔法を発動しようとした瞬間を突く様に、闇の槍をマレーネへ放ち、発動を阻止――しようとした瞬間。


「はっ!」


 突然ノワールの背後に現れた少年が、ノワールの首めがけて剣を振るったのだ。


「ん?」


 だが、ノワールは冷静に闇の結界を展開し、その攻撃を防いで見せた。

 しかし、それにより生まれた一瞬の隙が、マレーネの魔法発動に至らせる。


「ナイスぅ! 破壊いいいいい!!!!!」


 刹那、遂に発動されるマレーネの破壊魔法。

 その猛攻は空間を揺らし、爆煙は”祭壇”から伸びる天柱を完全に隠した。


「ちっ 面倒な事を!」


起動ブート


 ノワールは怒りを露わにしながら、その少年――シンへ空間破壊をお見舞いする。

 だが、シンは空間切断スペーショナル・スラッシュ空間転移ワープの同時遅延起動という離れ業を使う事で、そこから離脱して見せた。


「ふぅ。イグニスさん、すみません。転移を妨害されていた事もあってか、手を出す事が出来ませんでした」


 そうして光天蓋を展開するイグニスの横へ来たシンが、そう言ってイグニスに謝罪をする。

 それに対し、イグニスは顔を横に振ると口を開いた。


「いえ、来てくださりありがとうございます。それで、どうなったのでしょうか……?」


 そう言って、イグニスは前方へと視線を戻す。

 2割以下にまで数を減らした連合軍が見守る先には、その場で立ち止まるノワールの姿があった。

 やがて、ノワールが口を開く。


「驚いた。まさかを壊してくれるとは……。もう少し削ってからにして欲しかったのだがな」


「ここまで……? それは一体どういう事だ!」


 ノワールの言葉に、リオルム総督が声を上げて真意を聞き出そうとする。

 そんなリオルム総督に対し、ノワールは小さく息を吐くと、その真意を話し始めた。


「そもそもな。世界中の人間に強制ギアスかけて、祝福ギフトで差別が出来ないようにする……ってのはさ。根本的な解決にならないんだよ。それに、差別の解釈も人によって異なる。それを、俺の一存で決めるとか――糞だ。だから、このやり方にした」


 刹那、”祭壇”を包み込んでいた爆炎が晴れ、崩れた”祭壇”が露わとなった。

 だが、天柱は消えていない。その周囲を回る魔法陣も――消えていない。


「やっと女神エリアスを出し抜けた。神呪封印縛鎖エリアス・チェイン


 そして、唱えられる魔法。

 その時だった。


 ド――――


 ”祭壇”に、何かが降臨した。

 絶対的な何かが――降臨した。

 だが、その何かを無数の黒い鎖が締め上げる。


《……なっ どういう……!?》


 すると、その何かは人の形へと変わった。

 その姿は――世界中の教会にある、女神エリアス像と瓜二つ。

 特に、実際に姿を見た事があるシンの驚きは顕著であった。


「なっ!? 女神エリアスが……!?」


「え、エリアス様……!?」


 やがて、その正体が女神エリアスであると、魂で理解しだした連合軍の間に、動揺が走り出す。

 そんな中、リオルム総督は冷静に声を上げた。


「ノワール……まさか、お前はっ!?」


「ああ。女神エリアス封印し、祝福ギフトをこの世から消し去る。こっちは、永久に女神エリアスがこの世界へ干渉出来ないおまけつきだ。本当は殺したいのだが……殺すのはリスクが大きすぎるから無しにした」


 ノワールの想像を絶する計画に、リオルム総督は思わず声を失った。

 そんな中、囚われる女神エリアスが、まるで最後の力を振り絞るように”神託”する。


《駄目……取れば、多くの人間が、死っ》


「黙れ。それは俺が説明しようと思っていた所だ……まあ、そういう訳で、これが為された暁には、この世界に居る人間――いや、生命の9割は死に絶える。世界の急激な変化に耐えられずに……な。これを伝えるのは、俺なりの覚悟だ」


 まあ――


「時間稼ぎでも、あるのだがな」


 直後、”祭壇”から悍ましいほどの闇のオーラが、連合軍目掛けて広範囲に放出されるのであった。

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